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手作り魚道の物語 斜里町・美幌町

  • 2021年11月7日

「あの堰堤を越えれば、もっと産卵場所が広がるのに…」。でも恒久的な魚道の設置には、時間もお金もかかります。
そんな時に、思いをもった人たちの力を集めて魚道を用意することができたら…。
この秋、斜里町の漁業関係者が手作りしたポータブル魚道と、美幌町で住民グループがおよそ10年前に設置した手作り魚道。手作り魚道の2つの物語を取材しました。

※初回放送 2021年10月30日

手作り魚道の物語 サケ日本一のまち斜里町で2021

倉庫で作る(!?)魚道

9月のよく晴れた土曜日の朝。斜里町の住宅街にある役場の倉庫に、漁業協同組合の若手職員と役場の水産担当者が集まってきました。
川ではない場所で、しかも、土木関係者でもない人たちが、これから魚道を作ろうとしていました。

作るのはポータブル魚道。香川高等専門学校の高橋直己准教授と学生たちが開発した、つけたり外したりできる魚道です。
この魚道の特徴は、最初の設計こそ、専門的な知識が必要なものの、主な材料は、木の板(コンパネ)と鉄パイプ。必要な工具は、電動丸鋸に電動ドリルとラチェットレンチで、どれもホームセンターで調達できます。

香川高等専門学校 高橋准教授
「制作には板を切る必要がありますが、どれも真っ直ぐに切ればいいように設計してあるので、難しいことはありません」

高橋准教授は、用意してきた図面にあわせて、板に印をつけていき、印がついたものから、漁協の若手が丸鋸で切っていきました。

切った板は、水を受け止める箱に組み立てます。今回は箱を4つ作り、鉄パイプで組んだ骨格の上に、ずらしながら並べていくと、1mの落差を水の流れでつなぐことができます。

午前9時過ぎから始まった「魚道づくり」は、午後4時にはひと段落。あとは川に運び込むだけになりました。

海別川の堰堤に運び込む

今回、斜里町がポーターブル魚道をつけるのは、海別川にある落差がおよそ1mの堰堤です。
海別川には、毎年、カラフトマスとサケが数多く遡上してきます。この1mを超えられれば、産卵できる区間は1キロ以上のびると見られています。

役場の倉庫で完成したポータブル魚道は、箱と骨格にわけて川に運び込まれ、堰堤の落ち込みに組み立てられました。

この魚道は、カラフトマスとサケの遡上シーズンにだけ、現地に取り付けるという使い方が可能です。つまり、恒久的な魚道に必要な大規模な工事や予算をともないません。さらに、堰堤を加工する必要もないので、関係各所との調整も進めやすいという利点もあります。

ポータブル魚道の準備がととのい、堰堤の上から川の水を流すと、4つの箱が次々に水で満たされて、最後に堰堤下の流れとつながりました。
魚道作りと設置に携わってきた漁協の若手職員たちに笑みがこぼれました。

地元漁協若手職員
「やってみたら魚道って作れるんだなって実感しました。少しでもサケマスに増えてもらって資源増大につなげたいです」

「寄付」で参加 思いも集めて

斜里町は、今回のポータブル魚道作りの費用をクラウドファンデイングでまかないました。「サケが堰堤の上流にのぼって産卵できるようにしたい」という思いに共感した人に、寄付で応援してもらう形です。
およそ100人からあわせて250万円あまりの寄付が集まりました。返礼品のひとつに用意されたのが「現地見学会の参加権利」。10月、その見学会が開かれました。

参加者は4人、遠くは千葉県からやってきた人もいました。
一行は、サケの水揚げを見学できるウトロ漁港の「サケテラス」を出発、地域の漁業関係者の要望で林野庁が魚道を設置している最中のフンベ川、道が魚道の改良を行ったばかりのオチカバケ川を訪問。最後に海別川のポータブル魚道を見学しました。

札幌から参加
「砂防ダムも大切なものだし、サケが自然産卵するということもだいじなこと。それをコストメリットがある仕組みで両立させているのはすごいこと」

千葉県から参加
「シンプルな形ですけど、サケがのぼって自然産卵をして増えていくというのはすばらしいことだなと感動しています。市民参加型で作れるというところもすばらしい」

見学会の案内役も務めた斜里町役場水産林務課の森課長は…。

「実際に川を歩いて現場を見てもらって。魚道を作った以上の効果があったと思います。漁業関係者にも見学会の様子を報告するので、感じてもらえると思います」

※美幌町の手作り魚道の動画は記事の後半に掲載しています

手作り魚道の物語 思いが地域を変えていく

アメマスが復活した沢

美幌町郊外の農地の間を流れる駒生川。上流に向かって流れをたどり、森の中に入っていくと、それまでの直線的な流れが、蛇行した流れに変わります。

7月、この区間の魚類調査に同行しました。調べているのは美幌博物館学芸員の町田善康さん。町田さんは網ですくって小さな魚を見せてくれました。

アメマスの赤ちゃんですね。

この付近のアメマスは、一時絶滅したあと2012年に復活。それは住民が始めた魚道作りの成果でした。

9つの落差工と手作り魚道

かつて駒生川はたびたび農地に溢れ出して、農家を困らせてきました。農地の排水をよくするために、駒生川は直線化され、農地でいろいろな作物が作れるようになりました。

ただし、直線化にあわせて9つの落差工が作られ、魚たちの行く手をさえぎっていました。下流と行き来するアメマスやサクラマスは、上流までたどりつけなくなっていたのです。

これをなんとかしたいと魚道作りのきっかけを作ったのが、川のそばで農業をいとなむ橋本光三さんでした。

橋本光三さん
「孫が4歳か5歳のころ、遊びにきて言ったんです。魚がのぼれないよって」

橋本さんの、「魚がのぼれる川にもどしたい」という思いは、「駒生川に魚道をつくる会」として活動を開始。

9つの落差工のうち、落差の小さい2つを除いて、7つに魚道を取り付けた結果、イワナやサクラマスが上流の産卵に適した流れにまでのぼれるようになりました。

2011年から12年にかけて、橋本さんたちが作った魚道は、いまも、魚たちを上流に導いています。

駒生川に魚道をつくる会 橋本さん
「むかしの川に近くなってきたかなと。『むかしの川』まではいかなくても、良かったなと思います」

橋本さんの言葉の通り、今シーズン、上流部の流れで、サクラマスが卵を産んだ場所=産卵床は、2012年に復活していらい最多の47個。10月末の時点で、産卵真っ最中のイワナの産卵床の数も、最多になりそうです。

魚が行き来する川への思いが…

ことし7月、美幌町内の別の川に、オホーツク振興局東部耕地出張所の所員たちがやってきました。
ふだんは農業基盤整備を担うメンバーが、胴長をはいて、手には「たも網」。やるのは魚類の調査です。

この川では、地域からの要望を受けて、耕地出張所が管理する落差工に魚道を整備しています。

この地域の住民は、駒生川の活動を参考に、手作り魚道を支流に作っていました。さらに、支流の下流にある落差工も、魚が行き来できるようにできないかと、魚道の設置を要望した経緯がありました。

冬の間に2つの魚道が完成。その魚道を使って、魚が移動できるようになったのか、その種類と数を調べます。

東部耕地出張所の菅原誠二所長
「地域の方々と一緒に地域を整備する活動をしているので、こうした活動は大事だと感じています」

調査メンバーとして参加した美幌博物館の町田さんは、魚道の上流側でつかまえたヤマメを観察用水槽に入れて見せてくれました。

体長17センチのヤマメ。目にした瞬間に、出張所のメンバーから、どよめきがあがりました。

町田さん
「これが魚道を取り付けた成果ですね」

0755DDチャンネルでは 魚とダムと魚道を巡って継続取材を続けています。

サケと魚道をめぐる物語 サケ日本一のまち斜里町で はこちら

知床とダムをめぐる物語 海と森をつなぐ はこちら

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