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発達障害に理解を 当事者の中学生が歌う

  • 2023年11月1日

歌の中で繰り返される、「見方を変えて味方になってほしい」というフレーズ。発達障害によって、さまざまな困難が生じている子どもたちの切実な思いを伝えています。歌っているのは室蘭市の中学1年生のひなさん(本名非公表)。みずからも発達障害と向き合いながら、社会の理解を広げていこうと、新たな一歩を踏み出しました。 (室蘭放送局  篁慶一) 

2歳の頃に発達障害と診断

左:黒田悠士さん 右:ひなさん

ひなさんは、2歳の頃に医師から指摘を受け、専門の医療機関で発達障害の「自閉スペクトラム症」と診断を受けました。相手やその場の状況に合わせた行動を取ることが苦手だといいます。

ひなさんが歌を歌うきっかけを作ったのは黒田悠士さん(37)です。コミュニケーションや学習の支援を受けるため、ひなさんが小学1年生の時から通っている「放課後等デイサービス」の代表を務めています。

放課後等デイサービス  ほたて 
黒田悠士代表

「発達障害がある子どもの中には、得意なことを持っている子がたくさんいます。ひなさんは小さい頃から歌やピアノがとても上手でした。今年(2023年)に入って、『本格的な歌を歌ってみたい』という相談を受けたので、発達障害の方の思いを歌にしてみようということで取り組み始めました。当事者が歌うことでよりメッセージも伝わるのではないかという期待もありました」

歌で当事者の気持ちを伝えたい

作詞は、主に黒田さんが担当し、ひなさんも関わりました。こだわったのは、発達障害の特性や当事者の気持ちを伝えることでした。黒田さんは、施設を利用している子どもたちと日々接し、声を聞く中で感じてきたことを言葉で表現しました。歌のタイトルは「オリジナルカラー」。発達障害がある子どもたちにはさまざまな特性があり、それぞれが生きづらさを感じながらも前に進もうとしていることを理解してほしいという願いを込めました。

「オリジナルカラー」  作詞:黒田悠士・ひな  作曲:KENTO

あぁ また 怒られた
ホントは あなたに 喜んでほしかった

あぁ また 伝わらないから
認められて 褒めてほしくて

ぱっと見では 分かりにくい 色をしてるけど
戻ることができない 旅の途中で どれだけのひとが 理解してくれるのだろう

白でも黒でもないからこその
この生きづらさを抱えながら
見方を変えて 味方になってほしい
前を向いて 頑張るから

ねぇ 誰とも比べないで
比べられると弱くなる
ひとの視線が こわくなる
誰かと比較なんかするな

わたしには わたしの色があるんだ
一歩一歩 少しずつでも 進んでいくんだ

白でも黒でもないからこその
この生きづらさを抱えながら
見方を変えて 味方になってほしい
前を向いて 頑張るから

気付いてほしい 心のサイン
誰か教えて 常識と非常識
理解されないマイルール
強制したいの?(共生したいの)
凸凹してたって 良いじゃないか

白でも黒でもないからこその
この生きづらさを抱えながら
見方を変えて 味方になってほしい
前を向いて 頑張るから

この歌詞の冒頭にある、「あぁまた怒られた ホントはあなたに喜んでほしかった」の部分は、ひなさんの経験がもとになっています。仕事帰りの母親が夕食を作ろうとした時に台所でお菓子を作り始めてしまったり、話をしている人たちに割って入って急にプレゼントを渡そうとしたりして、相手を困らせてしまったのです。相手とうまくコミュニケーションが取れないことに、ひなさんはもどかしさを感じています。

ひなさん
「相手に喜ばれるかなと思ってやったことが喜ばれなかったり、なかなか相手と気持ちがかみ合わなかったりしてつらいと感じることがあります。自分の気持ちがうまく説明できなくて、誤解されたりすることもあるので大変です」

「見方」を変えて「味方」に

歌の中で繰り返されているのが、「見方を変えて味方になってほしい」というフレーズです。発達障害があり、生きづらさを感じている子どもたちの願いを黒田さんはこの言葉に託しました。

文部科学省は、2022年、発達障害の可能性があって特別な支援が必要な小中学生は、通常の学級に8.8%、11人に1人程度在籍していると推計されると発表しました。発達障害は、コミュニケーションがうまく取れなかったり、強いこだわりがあったりするほか、落ち着きがなかったり、読み書きが極端に苦手だったりするなど、その特性は人によって大きく異なります。一方、障害があるかどうか周囲が気付きにくく、理解が得られないケースもあるといいます。

放課後等デイサービス ほたて

放課後等デイサービス  ほたて 
黒田悠士代表

「発達障害の子は、ぱっと見では障害と分かりにくいので、できないことに目を向けられて怒られたり、注意されたりするという話を多く聞きます。でも、そうなると子どもたちが自信をなくして、自己肯定感も下がってしまうので、そういう『見方』ではなくて、得意なことやできることを見つけて、生かしながら、子どもたちが活躍できる場をたくさん作りたいので、『味方』になってくださいという思いを歌詞にしました」

地元のミュージシャンが作曲に協力

この歌詞をもとに作曲したのが、室蘭市で活動するミュージシャンのKENTOさん(本名:平加健人)です。地元の室蘭をテーマにした作品を多く発表しているKENTOさんに、黒田さんが協力を依頼したのです。この夏に完成した曲は、KENTOさんが弾くギターに合わせてひなさんが歌う、ゆっくりとしたテンポになっています。

KENTOさんと歌の練習をするひなさん

KENTOさん
「僕は発達障害についてあまり知らなかったので、ひなさんの生きづらさをどう表現するか悩みながら作曲しました。発達障害はまだ十分に理解されてはいないと思うので、この曲が発達障害について関心を持つきっかけになってほしいです」

ひなさん
「自分の抱えていた気持ちが曲になっていて、とても気に入っています。この気持ちを同じようにつらい思いをしている人にも聴いてもらいたいですし、しっかり伝わるように歌いたいです」

これからも歌い続ける

ひなさんは、10月、隣の登別市で開かれたイベントでKENTOさんと一緒に初めて歌を披露しました。人前に立つことは決して得意ではありませんが、発達障害について多くの人に知ってほしいという思いが背中を押しました。

会場には、母親や黒田さんも駆けつけて見守る中、ひなさんは堂々と歌い上げました。観客の1人は「すごく心に響きました。障害があってもみんな個性を出して生きやすい世の中になってほしいと思いました」と話し、歌に込めた思いはしっかり届いていました。ひなさんはこれからも音楽活動を続けていこうと決意を新たにしました。

ひなさん
「とても緊張しましたが、慣れてきたら楽しくて、歌詞も間違わずに歌うことができました。聴いた人たちに私の思いが届いていたらうれしいです。この歌は、これからも歌い続けていきたいです」

取材後記

ひなさんに歌の中で一番好きな歌詞を尋ねると、「一歩一歩少しずつでも進んでいくんだ」というフレーズだとの答えが返ってきました。「せかされるのではなく、ゆっくり成長していけばいいよと言われている気がする」のが理由で、心の支えになっているということです。「オリジナルカラー」は、11月中旬以降に動画投稿サイトのYouTubeで聴けるようになる予定です。歌に込められた思いが1人でも多くの人に届き、困難があったり、前へ進もうとしたりしている発達障害の人たちを支えられる社会になっていくことを強く願っています。

2023年11月1日

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