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高校生がアイヌ神謡集を朗読した 0755DDチャンネル

  • 2023年10月12日

白老町・ウポポイ(民族共生象徴空間)でイベント「朗読ひろば」が開かれました。題材は、となりまち登別市出身の知里幸恵が残したアイヌ神謡集です。「朗読ひろば」には地元の高校生4人も出演、大舞台に挑んだ高校生たちを取材しました。

関連番組:朗読ひろば〜アイヌと神々の物語〜 10月22日(日)午後4時〜 NHK-FM

番組ページはこちら
初回放送:2023年9月30日

高校生 挑戦の始まり

朗読ひろばが開かれる1か月前、出演する高校生を決めるオーディションが、室蘭放送局で開かれました。集まったのは、胆振地方の高校の放送局で活動する高校生たちです。
控室をのぞいてみると、朗読する台本を見直したり、壁に向かって「声出し」したり…。
高校生たちにとって、貴重な人前で朗読を発表するチャンスをつかもうと、ギリギリまで準備していました。

オーディションは、審査員の前にひとりずつ来てもらい立って朗読します。ステージでの発表を想定して、目の前にいるお客さんに、声を届ける姿勢を見るためです。

今回の朗読ひろばで、高校生たちは一つの作品をリレー形式で朗読します。審査では、ひとりひとりの声質や読みの調子と物語の相性を見極め、その結果、4人の高校生たちが選ばれました。

左から矢場巴さん、馬場裕都さん、佐藤妃菜さん、武藤隆宏さん

 

初めて触れたアイヌ文学

オーディションの翌日、さっそくNHK室蘭放送局で4人集まっての練習会が開かれました。講師はオーディションの審査も担当した白崎アナウンサーです。
白崎アナウンサーから、それぞれに原稿が手渡され、担当パートが発表されました。

その作品は、アイヌ神謡集に収録されている「サンパヤ テレケ 兎(うさぎ)が自ら歌った謡(うた)」です。4人の高校生たちにとっては初めて触れるアイヌ文学です。

 

高校生たちが読む物語は?
「アイヌ神謡集」は、いまから100年前、1923年(大正12年)に出版され、アイヌ民族の文化を広く伝えてきました。記したのは、登別市出身のアイヌ民族の少女、知里幸恵です。
アイヌの人々は世界のあらゆるものに魂が宿ると考え、その中でも人間にとって重要な働きをするもの、強い影響力があるものを「カムイ」(いわゆる神)と呼びます。「神謡」とは、このカムイたちが主人公の物語です。
高校生たちが朗読する「サンパヤ テレケ」は、ウサギの兄弟のカムイが登場します。そのカムイが、いたずらを繰り返しているうちに、ほかのカムイに怒られる物語で、いまのウサギたちは、そのせいで、体のサイズが、エゾシカくらいだったのがいまの大きさになってしまったという内容です。
「いたずら好きのカムイ」、高校生に親しみをもってアイヌ文学に接して欲しいと選びました。

 

"急成長"の1か月

朗読ひろばの本番が近づく9月上旬、出演が決まってから一月で、高校生たちはどうしているのでしょうか。気になって、4人のうち、矢場さん、馬場さん、武藤さんが通う室蘭東翔高校を訪ねました。

放課後の放送局での練習会、成長した高校生たちに会うことができました。

顧問を務める北藤先生は—

「馬場くんは、お腹から声が出るようになりましたね。武藤くんも滑舌に自信がついたようです」

聞くと、3人と一緒に出演する、登別青嶺高校に通う佐藤さんもやってきて、4人で練習をしていたとのこと。大舞台に向けて、学校の枠も越えて、互いに刺激し合って、部活でも、自宅でも、練習を続けていました。

 

「ガチの」アイヌ語の発音に触れる

朗読ひろば開催の前日、はじめて会場に入ってのリハーサルの日です。
観光客が行き来するウポポイ・民族共生象徴空間の緑の中を、会場の体験学習館に向かいます。

会場の玄関を通ってホールの通路に入ると、高校生たちから、「おー」と歓声があがりました。朗読の舞台にはじめて触れた気持ちのたかぶりが、伝わってきます。

このリハーサルでは大事な確認があります。それは、作品中に出てくるアイヌ語の読み方です。
会場には、国立アイヌ民族博物館の矢崎さんたち学芸員にきてもらい、朗読をアイヌ語という点から聞いてもらいます。

一番難しかったのが、馬場さんが担当するパートの冒頭に出てくる

“ケトカ ウォイウォイ ケトカ ケトカ ウォイ ケトカ”

この文言は、「サケヘ」と呼ばれる、神謡の中でリフレインされ、リズムを整えて芸術性を高めていく働きのある言葉です。このうちの「ケトカ」は、日本語にはない音を含んでいました。
馬場さんは静かな部屋に移って、矢崎さんから発音の仕方を詳しく教えてもらいました。

馬場さん
「真剣にアイヌ文化のことをやっているウポポイでのイベントだから、少しでもいいものにしたいんです」

ウポポイで開催のイベント、発音もより良いものにしたいと語る馬場さん

馬場さんだけでなく、高校生たちにとって、先住民族の異なる文化に、真剣に、直接触れる、貴重な体験になりました。

 

100人を前にアイヌ神謡集を朗読した

いよいよ当日がやってきました。体験学習館の前には、開場前からお客さんの列ができました。一方、高校生たちは?

観客席の横の出演者控え席に並んで座っていた4人は、少し緊張気味。その雰囲気を柔らかく変えたのは、撮影していたカメラに向かって武藤さんが見せた「頑張ります!」のガッツポーズでした。その瞬間、笑顔が広がりました。

「朗読ひろば~アイヌと神々の物語~」は、白崎アナウンサーのタイトルコールで幕が上がりました。
室蘭市出身の髙橋美鈴アナウンサーとメインゲストで声優の神尾晋一郎さんの朗読、ウポポイのペチャンポさんの神謡が終わって、高校生4人が登場。100人のお客さんに、「サンパヤ テレケ」を語りました。

観客席から大きな拍手をもらった4人のそれぞれの思いは—。

矢場巴さん(室蘭東翔高校3年)
「高校最後の公演でした。たくさんの方が私たちの朗読を聞いてくれて本当にうれしかったですし、朗読をしている側としても、楽しかったです。受験が終わったら、アイヌ神謡集をじっくり読みます」

馬場裕都さん(室蘭東翔高校2年)
「みんなで良いものにしていこうと試行錯誤していくのがすごく楽しかった。プレッシャーもあったし、アイヌ語の発音の修正があったりして結構大変でしたが、上手くできたと思います」

佐藤妃菜さん(登別青嶺高校3年)
「4人でリレー形式で形がつながっていくというのを実感できました。お客さんが真剣な表情で、私たちの朗読を聞いてくれているのを感じて、コンテストとは違う体験でした。緊張はしましたが、楽しむことが出来ました」

武藤隆宏さん(室蘭東翔高校1年)
「声優やアナウンサー、ウポポイのみなさんと同じ舞台に立てて、貴重な経験になりました。アイヌ語は、アクセントが日本語と少し違うところがあったりして難しかったですけど、学んでいくのも楽しかったです」


最後にもうひとつ、「ケトカ」の発音を特訓した馬場さん、公演が終わったあと、アイヌ語の発音を教えてもらった矢崎さんに「良かったです!」とグッドサインをもらっていました。

この高校生たちの挑戦は、10月放送のラジオ番組で聴くことができます。

「朗読ひろば〜アイヌと神々の物語〜」
NHK-FM(石狩・後志・空知・胆振・日高地方向け)
10月22日(日)午後4時〜
※放送終了後1週間「らじる★らじる」聴き逃し配信も予定しています。

高校生の朗読をぜひフルでお楽しみください!

(2023年9月29日)

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朗読ひろば~アイヌと神々の物語~

 

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