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登別の擁壁崩壊から5か月 進まない復旧作業

  • 2023年11月14日

土砂崩れなどを防ぐため、斜面をコンクリートや石で覆う擁壁。傾斜地の住宅地で多く見かけるのではないでしょうか。今年(2023年)6月、登別市でこの擁壁が突然崩れ、周辺に避難指示が出されたほか、住宅も被害を受けました。さらに、5か月たった今も復旧に向けた作業は全く進んでいません。こうした問題、専門家はどこでも起こりうると指摘し、注意を呼びかけています。 (室蘭放送局 篁慶一) 

突然崩れた擁壁

登別市美園町6丁目では小高い山のふもとに沿って住宅が建ち並んでいます。すぐそばを流れる鷲別川を渡れば室蘭市で、室蘭工業大学も近くにあります。今年6月10日未明、この地区にある高さ4.5メートルほどの擁壁が約25メートルにわたって崩れました。一時、周辺の21世帯に避難指示が出されました。

それから5か月が過ぎましたが、現場周辺の復旧に向けた作業は進んでいません。今も6世帯を対象に避難指示が続いていて、自宅へ帰ることができない住民がいます。30年以上前からこの地区で暮らしてきた野崎秀夫さん(67)もその1人です。現在は、親族の家に移って生活を続けていますが、住宅のすぐ隣に事務所を構えて行っていた牛乳配達の仕事はやめざるを得ませんでした。

野崎秀夫さん
「いきなりドーンという大きな音がしたので雷が落ちたかと思いました。その後、上に住む方が自宅に来て、『すぐに逃げてくれ』と言われたので避難したんです。自宅は傾いてトイレのドアが開かなくなっていました。建物自体が土台からずれてしまっていたので、避難指示が解除されても住むことはできないと思います」

擁壁が崩れたはっきりとした原因は分かっていません。当時は雨が降っていましたが、登別市に土砂災害に警戒を呼びかける大雨警報は出されていませんでした。一方で、今回の擁壁は43年前に建設されていることから、登別市は老朽化などの問題があったのではないかと見ています。

5か月過ぎても撤去進まず

復旧に向けた作業が進まない大きな理由は、擁壁が民有地に設置されていることです。今回の場合、自然災害とは見なされていないことから、原則、擁壁の撤去や危険家屋の解体は所有者の住民がみずから行わなければなりません。ただ、突然自宅が被害を受けた住民が速やかに対応することは、金銭的な負担も大きく、簡単ではないといいます。

そこで、擁壁が崩れて二次被害が出ることを避けるため、登別市は今年8月、特例として約5000万円を負担して擁壁の撤去を進めるとともに、その際に必要な上の住宅3棟の解体する方針を市議会に示しました。しかし、関係する住民や地権者から同意を得るための協議が思うように進まず、この冬までに撤去することは極めて困難な状況となっています。また、擁壁の下にある野崎さんの自宅は、市による解体の対象にはなっていません。危険な状態が続くことに、野崎さんも戸惑いを感じています。

野崎秀夫さん
「問題が解決する方向に向かっていないので、不安が増しています。これから雪が降って積もっていくと、どんなことが起こるのか予想がつきません。年金生活を送っていますし、私個人で今すぐに何かするという手だてもないので、行政が速やかに対応してほしいです」

市も対応に苦慮

11月2日、登別市では、擁壁が崩れた地区の住民が市の幹部と話し合う場が持たれました。この中で、住民たちは、危険が残る状況が続いていることに不安を訴えたり、市への対応を求めたりしました。これに対し、市の出席者は、自然災害ではないと見ていることなどから、被害を受けた住宅への対応に苦慮していることを改めて説明しました。

11月2日の会議

登別市の総務部長
「市の基本的な考えは、民間と民間の問題についてはそれぞれが直してもらう、対応してもらうということになります。その一方で、なかなか問題を解決できない状況にあることも承知していて、問題や課題を解決して前に進めていくかという部分は継続して検討しています。市としてもいろんな方策を考えています」

また、この冬の間には撤去が難しいため、市は大型の土のうを増やして土砂などの流出を防ぐための対策を取る考えを示したほか、12月から周辺の地域で擁壁の状態などを確認していくことも説明しました。

“どこでも起こりうる”

この擁壁の問題について、斜面災害に詳しい京都大学の釜井俊孝名誉教授は、都市部を中心にどこでも起こりうると指摘しています。その背景には、日本の高度経済成長期以降、宅地開発とともにつくられた擁壁が老朽化していることや、豪雨が増えていることがあると言います。

京都大学 釜井俊孝名誉教授
「人間の体が年を取ったら体力が減っていくように、擁壁も老朽化すればリスクが高まっていきます。そして、地球温暖化で大雨が増えて、地下水が擁壁の背後にたくさんたまりやすくなると、それが引き金となって災害が起きる可能性が高まるのです。登別で起きたようなことは、全国各地ですでに起きているし、これからも起きると思います」

釜井名誉教授は、擁壁があることで土地を有効活用できたり、よい見晴らしを確保できたりするなどの利益を所有者は得られることから、その責任として、所有物である擁壁に危険が生じないように適切に管理する必要があると訴えています。特に大事な注意点として、擁壁の「排水」と「変形」という2つのポイントをあげました。

京都大学 釜井俊孝名誉教授
「1点目は擁壁の背後にたまった地下水をしっかり排水できているかということです。排水がうまくいっていない場合は、擁壁から草が生えてきていたりしますが、それは好ましいことではありません。もう1点は擁壁の変形です。ひび割れや傾きが擁壁に見られるときはかなりリスクが高い状況なので行政などに相談することが大事です」

取材後記

登別市は、全国有数の温泉地として知られる一方で、工業都市である室蘭市のベッドタウンとして発展してきました。今回崩れた擁壁がつくられたのは1980年で、登別市の人口が右肩上がりに増加していた時代です。住宅需要の受け皿を確保するため、当時は宅地を増やす動きが盛んだったようです。周辺では、ほかにも多くの擁壁を目にします。

いったん擁壁に問題が生じれば、解決が難しい状況に陥る恐れもあります。釜井名誉教授も指摘しているように、今回の問題は登別市に限ったものではなく、どこでも起こる可能性があります。老朽化などで擁壁のリスクが高まっている状況を考えれば、所有者である住民が維持管理への意識を高めることはもちろん、行政側も注意喚起を積極的に行うなど、問題を未然に防ぐための対策が重要だと感じます。

2023年11月14日

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