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OSO18の最期 “忍者”なぜ駆除?第2、第3のOSOは?

  • 2023年8月26日

全国有数の酪農地帯、北海道東部を震撼させたヒグマ「OSO18」。人前に姿を現さず“忍者”とも呼ばれたOSO18が、ついにハンターによって駆除された。
その最期は。そしてなぜ駆除されたのか。第2、第3のOSOを生まないためにはどうすればいいか。関係者の証言や言葉でたどる。
(釧路放送局 取材班)

📝OSO18(読み:オソ・ジュウハチ)
道東で2019年からことしにかけて合計66頭の牛を襲ったオスのヒグマ。
最初に牛が襲われた標茶町オソツベツという地名と、当初、足の幅が18cmあるとみられたことから名づけられた。わなを複数の箇所に仕掛けるなどしてきたが、警戒心が高く、監視カメラが姿をとらえたのはごく数回ということから、“忍者”の異名も持つ。
ことし6月には初めて鮮明なカラー画像が公開され、体長2m~2m20cmほどと、一般的なオスのヒグマと変わらない大きさということもわかっていた。

本当なのか?信じがたい一報

にわかには信じがたい一報だった。
8月21日午後9時前。数年間にわたってOSO18の取材を続けてきたカメラマンから一本の電話が記者に入った。

OSO18が駆除されたらしい
「え?本当ですか?捕獲じゃなくて、駆除された?」

あれだけ人目を避けてその姿を捉えられなかったOSO18だ。まさか駆除されていたとは思わなかった。ただ、1人の関係者の話だけでは、ニュースに出せない。すぐに別の関係者に取材を開始した。夜にもかかわらず、電話に出てくれた関係者に話を聞けた。

7月に釧路町で駆除されたクマの体毛のDNAがOSO18と一致した。ただ駆除の経緯などの情報が錯綜しているため最終確認をしている―――。

道東だけでなく全国からも注目されたヒグマだ。関係者も慎重に確認していると感じた。こうして日付が変わった22日の未明、「OSO18が駆除されたとみられる」と報じた。

6月25日撮影 標茶町中チャンベツ原野

OSO18の最期 人の姿を見ても逃げなかった

「釧路町内で捕獲されたヒグマの個体について、OSO18と呼ばれるものと確認した

8月22日午後3時。釧路総合振興局は記者会見を開いてOSO18の駆除を発表した。駆除されたのは7月30日、釧路町仙鳳趾村。被害が出ていた標茶町、厚岸町ではなく、これまでの被害地域から10kmほど南に離れた放牧地だった。
この場所でOSOとみられるヒグマが最初に目撃されたのは駆除の2日前の7月28日。目撃者の男性に話を聞くことができた。

OSO18とみられるヒグマを目撃した男性
「牧草地で、地面のにおいをかぎながら動いているクマを見た。僕が両手を伸ばしたよりも大きかった。毎年この地区でクマを見ない年はないが、久しぶりにでっかいと思った」

その後、この男性はOSO18を駆除することになるハンターに会った。ヒグマを見たことを伝えたところ、ハンターも「見た」と言っていたという。
そして、7月30日午前5時ごろ。ハンターが現場を訪れると、放牧地にヒグマがいるのを発見し、人の姿を見ても逃げるそぶりがないことから有害個体と判断。合計3発の銃弾でこのヒグマを駆除した。このハンターは当初はOSOとは思わなかったが、町役場が念のためとDNA鑑定を道立総合研究機構に依頼。OSOと町に伝わったのが8月21日だった。
釧路町の町長はOSOを駆除したハンターが役場の職員だと明かした。そしてOSOと特定されたときのハンターの様子をこう振り返った。

釧路町・小松茂町長
「結果としてOSO18ということがわかり、驚いていた。標茶町と厚岸町の被害が甚大で、もし今回駆除されなければ釧路町の牛も襲われかねなかった。よくぞやってくれたという思いだ」

駆除されたOSO18は体長2m10cm、体重は推定330kg、そして名前の由来ともなった前足の幅は20cmだった。手足には皮膚病を患い、顔には4か所傷があったという。釧路総合振興局の会見では「やせているように見える」と最期の姿が語られた。
人目を避けるような様子から、忍者とも呼ばれたOSO18。だが、その最期のきっかけとなったのは「人から逃げなかった」ことだった。

駆除された直後のOSO18

OSO18 すでにジビエとして出荷

駆除されてから1か月近くたって正体が判明すると、釧路町には剥製にしたいという博物館からの要望も数々寄せられたが、時はすでに遅かった。

内臓を取り除いた状態で計測された体重

誰もOSO18と知らないそのヒグマは、駆除された7月30日に、仕留めたハンター自身によって、道東の白糠町にある食肉加工会社に持ち込まれた。大きい個体だったことから、会社の人は「OSO18かもね」と冗談を飛ばしたものの、本物はもっと大きいと思っていたという。
そして解体され真空パックに詰められると、食肉として出荷。東京のジビエ料理店やインターネットでジビエなどを販売する釧路市の業者に売られていった。

釧路市の業者が運営するインターネットの販売サイトでは、8月中旬から入荷した肉を販売していたが、その肉がOSO18と判明してからは一気に注文が増加。完売状態になったという。

ネット販売のサイトには売り切れの文字が並ぶ

“忍者”と呼ばれたOSO18 特別対策班リーダーに聞く

被害にあった酪農家からも安堵の声が聞かれた。標茶町中チャンベツ原野で酪農を営む佐藤守さん。2019年と2021年にあわせて5頭の牛が被害に遭い、うち3頭が死んだ。

OSO18の被害にあった酪農家 佐藤守さん
「今までヒグマに生きている牛が襲われるなんていう被害は自分の代では経験がなかったので、被害にあったときは驚いた。知人から『駆除されたようだ』と連絡があり、ほっとした。そしてなかなか捕まらないOSO18の賢さにも驚いてきた。なぜあれだけ警戒心が強いヒグマが撃たれたのか不思議だ」

警戒心が強い“忍者”と呼ばれたOSO18。そのゆえんはこれまで人間が行ってきた対策をことごとく潜り抜けてきたことにある。道はOSO18を捕獲するために「特別対策班」を結成。わなを複数の箇所に設置したが、かからず。そして度重なる追跡もかわされてきた。
特別対策班のリーダーを務める藤本靖さんがOSO捕獲後、初めて取材に応じた。

OSO18特別対策班 リーダー 藤本靖さん
「今まで大変な苦労をして皆さん対策を進めてきたので、OSO18がいなくなって酪農家が安心できるのが何よりの喜びだ」

この中で藤本さんは、ことし6月に標茶町で被害があったあと、7月1日には現場に戻ってきたOSO18を監視カメラがとらえていたことや、足跡などから釧路町の方向へ向かう足取りを7月16日までは追跡できていたことを明かした。最後の足取りからさらに南へ向かうと、釧路町の駆除された現場にあたる。

OSO18特別対策班 リーダー 藤本靖さん
「クマにとっては半日程度で移動できるような、いわばすぐの行動範囲内だ。特別対策班でも探索の範囲に入れていた場所なので、もともと見立てていた場所だったと考えている」

7月1日撮影 標茶町

また釧路総合振興局の会見ではOSO18が「やせ細っているように見える」と言われた。体力が落ちてしまい、逃げる気力もなかったのだろうか。

OSO18特別対策班 リーダー 藤本靖さん
「やせているなというのが第一印象だが、それで動けなかったのかどうかはわからない。ことしはほとんど牛を襲っていないこともあり、夏場のエサに非常に困窮していた可能性がある。ただ、なぜ逃げなかったのか。そこが引っかかるところだ」

第2、第3のOSOを生まないために できる対策は

もともとヒグマは木の実や山菜を主食とする。積極的に牛を襲う理由がない中でOSO18は特殊なヒグマだったといわれている。ただ第2、第3のOSOが生まれる心配はないのだろうか。

OSO18特別対策班 リーダー 藤本靖さん
「非常に多くなったシカがクマの食べる木の実などを先に食べてしまう。食べるものがなくなったクマはシカの死体などに食事が変わっていって、その比率が高くなるとどうしても肉食化の傾向が強くなってしまう。そのシカの管理をしっかり今後はしていかなくてはいけないと思う」

藤本さんは、シカの管理に、ヒグマの頭数の把握などの対策を進めることが第2、第3のOSOを生まないために重要だと指摘した。

OSO18の被害にあった標茶町の酪農家、佐藤さんはこれまで対策として夜中に大音量でラジオを流したり、「防獣ライト」と呼ばれるさまざまな色に光るライトを30個ほど設置したりしてきた。OSOが駆除されたあとも、この対策は続けるという。

OSO18の被害にあった酪農家 佐藤守さん
「また同じような行動を取るクマが出てきたら大変だ。このまま対策は続けたい。同じようなクマが出てこないことを願うばかりだ

【OSO18やヒグマに関する記事はこちら】
OSO18を追う男たち(2023年5月22日)
牛を連続で襲う謎のヒグマ「OSO18」―その正体とは?(2022年11月24日)
クローズアップ現代 謎のヒグマ「OSO18」を追え!(2022年9月21日)
NHK北海道 ヒグマ情報

(2023年8月26日)

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