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2022年9月21日(水)
謎のヒグマ「OSO18」を追え!

謎のヒグマ「OSO18」を追え!

北海道東部に広がる日本有数の酪農地帯を、一頭のヒグマが跋扈しています。そのヒグマは4年で65頭の牛を襲い、31頭を殺してきました。北海道庁は被害現場「オソツベツ」と残された幅「18センチ」の足跡から「OSO18」と命名。捕獲を試みてきましたが、いまだ実現していません。罠をかいくぐる高度な知能、獲物に執着しない行動の謎。ハンターや研究者の分析から、浮かび上がるこれまでと異質の巨大ヒグマの"正体"とは―。

出演者

  • 藤本 靖さん (OSO18特別対策班)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

謎のヒグマ 「OSO18」を追え!

「OSO18(オソじゅうはち)」の大きさは、どれほどなのか。

体長はおよそ2メートル。体重はおよそ300キロ。残された18センチの足跡から、大型の大人のオスだとみられています。立ち上がりますと、3メートル近くにもなります。

この4年で被害は拡大しています。現場は、北海道東部の標茶町(しべちゃちょう)と厚岸町(あっけしちょう)。2つの町の面積を合わせますと、東京23区の3倍にもなります。これまで65頭の牛が襲われています。

地域を混乱に陥れている「OSO18」。特別対策班に密着しました。

「OSO18」の特徴は

2022年も出現した「OSO18」。

北海道庁や、地元の猟友会専門家などが集まる対策会議。なぜ捕まらないのか。一体どんなヒグマなのか。一刻も早く被害を食い止める対策について話し合われました。

ヒグマの会 山中正実さん
「2メートル近いとか、それを超えるような大型の個体が見つかったならば、OSO18の可能性を想定して捕獲体制に入る対応を取りながら、同時に分析もすすめてOSO18かどうか確認してもらう」

始まりは、2019年7月16日。標茶町オソツベツでした。

午後3時。牛舎に戻ってこない1頭の乳牛を、牧場主が探しに出ます。沢に下りる斜面で見つけたのは、殺された400キロの牛。しかし、それは始まりに過ぎませんでした。被害は瞬く間に拡大します。最初の年だけで28頭が襲われました。

襲撃は6月から9月。夏の夜の限られた間に起きます。現場には手がかりが残されていました。

牧場の周囲に張り巡らされる有刺鉄線に付着したヒグマの体毛からDNAを分析し、同じヒグマかどうか識別することができます。2021年までに被害が起きた25の現場のうち、体毛からDNAが採取できたのは9か所。そのすべてが同じヒグマのものでした。

さらに、9か所で18センチの足跡を発見。傷痕の共通点などからすべてが一頭のヒグマ「OSO18」の仕業によると北海道庁は断定しました。

今、北海道ではヒグマが急速に増え、その数は1万頭を超えます。密度が高まったことで多くのクマが人里へ現れ、年間800頭以上が駆除されています。

しかし、こうして駆除されるほかのヒグマとは異なる特徴を「OSO18」は持っています。

「OSO18」の特徴①
高度な学習能力「ワナにかからない」

北海道庁の資料によると、これまで餌の種類を変え、ワナの形を工夫してきましたが「OSO18」は一切かかりませんでした。ワナを学習していると見られています。

北海道猟友会 標茶町支部長 後藤勲さん
「やっぱり利口でね。餌を取るのに足を伸ばして、後ろ足を(おりの外に)出したまま餌に近づいている経緯もあるわけさ。そうすると(扉が)閉まったときを考えると、全部が閉まらないようにする頭の良さもある。おりも、いままで3メートルくらいのやつを4メートルくらいに大きくして、そういうふうに考えてやってるんだけど、それでも(OSO18は)入らないもんね」
「OSO18」の特徴②
極端な用心深さ「人間の前に姿を見せない」

これまで、標茶町役場では自動撮影カメラを町内の30か所以上に設置し、居場所の特定を試みてきました。ところが「OSO18」は警戒心が強く、姿を見せません。銃の発砲が禁止される夜に現れるため、捕獲はできず、姿さえもつかめませんでした。

標茶町 農林課 宮澤匠さん
「足跡の大きさはわかっているんですけど、個体の見た目の大きさや特徴はまったくわからないので、今。出来ることはやってきたけど、やっぱり解決はしていないというところで、無力感はずっと感じてきています」
「OSO18」の特徴③
動機の謎「牛を襲う理由が不明」

さらに、木の実や山菜を主食とするヒグマには積極的に牛を襲う理由がないと、専門家は指摘します。

北海道大学獣医学研究院 教授 坪田敏男さん
「おそらく今生きているヒグマの餌のうち、8割から9割は植物質のものですね。残り1割、2割、何を食べているかっていったら、ハチとかアリとか昆虫類なんですね。一生の間に肉を1回も口にしないクマもいる。それが多分一般的だと思いますね」
取材班
「牛を襲っていること自体が特殊なことなんですね?」
坪田敏男さん
「そうですね。かなり特殊だと思いますし、実際ここ数年、家畜を襲ったヒグマは(OSO18以外)ほとんど出てないと思うんですね」

植物食を中心とするヒグマは、まれにエゾシカなど肉を捕らえた場合には、獲物に強く執着します。

これは、その習性を示す痕跡。土(ど)まんじゅうと呼ばれ、自分の獲物を土の中に隠し、繰り返し食いあさります。

しかし、「OSO18」はこうした前例とは異なる不可解な行動を見せていました。2021年、一晩で7頭の牛を襲いながら、傷つけるだけで放置していたのです。

高野政広さん
「20メートルくらい下の、ちょうどこのくぼみの真ん中へん。周りに牛はたくさんいたんだけども、明らかに一頭が様子が変だったんで、これはやられたなと」

「OSO18」は牛の肉に執着せず、獲物を取りに現場に戻ることもありませんでした。

高野政広さん
「(OSO18が)ガッとやって、次から次へ(牛を襲って)遊んで歩いたのかな。だから、ちょっと今までのクマとは違うのかな。なんかハンティングを楽しんでいるような」

地域には深刻な影響が―

一頭のヒグマは、地域に深刻な打撃をもたらしています。

この牧場では侵入を防ぐため、1,000万円をかけて全長23キロの電気柵を設置しました。東京ドーム58個分の放牧地は使えず、代わりに5億円がかかる牛舎の建設計画を進めざるをえない状況です。

2頭が被害に遭った高野政広さんは、「OSO18」が人間を襲うことを危惧しています。5人の小さな孫を外で遊ばせることもやめました。

高野香菜さん
「(子どもが)ご近所さんのところに遊びに行くってなったときに、すぐそこまでクマが来てたら自転車で行くのも怖いよなと思っちゃう」
高野政広さん
「僕たちは酪農ですので、牛を飼っていくらの生活をして子どもたちも育てているんで、それを一夜にしてとられるのは許しがたい。非常に許しがたいですね、僕たちにとっては。それでやっぱりクマを憎んでしまう。クマ自体も不幸かもしれないけれども、僕たちにとっては悪いものは駆除してほしい」

密着!OSO18包囲網

2022年の夏、「OSO18」の捕獲は大きく前進し始めました。

北海道庁からOSO18特別対策班を依頼されたNPOのリーダー、藤本靖さんは、これまで分からなかった「OSO18」の居場所をつかんだといいます。

ヒグマ捕獲のエキスパートが集まり、15年前に結成された藤本さんのNPOは、この地域の森をくまなく踏破し、「OSO18」の追跡を行ってきました。のべ120日に上った探索の末に、重要な手がかりを発見します。

ある森の奥で見つけた18センチの足跡。目立たない沢沿いで見つかり、人前に姿を現わさない「OSO18」の特徴と一致していました。

藤本さんは2021年の被害地点も分析し、「OSO18」の移動ルートを2つに絞り込みました。

7月1日。2022年、最初の被害が起きたのは藤本さんの予想ルート上にあった放牧地でした。

取材班
「この現場で起きるというのは、まさに藤本さんが対策本部で発表されていたのと極めて似ていますよね、場所としては」
OSO18特別対策班 リーダー 藤本靖さん
「似てるんじゃなくて、そのものだ。同じルート、読んでるルートで。この先、先手先手で行けば、なんらかの反応は出ると思う」

4日後の7月5日、藤本さんたちは手を打ちます。新しいワナの設置です。

可能性のある2つのルートのうち、2021年の被害が多かった厚岸ルート沿いを選びました。

草木が生い茂るこの時期、森でクマを追えば返り討ちに遭います。そのため、冬眠をする穴に見立てて独自に開発したワナで捕獲を試みます。

おびき寄せるのは、蜂蜜をベースに改良を重ねてきた特製の餌。「OSO18」以外のヒグマがかかった場合は、保護のため放つ作戦です。

取材班
「捕まえる自信はありますか?」
藤本靖さん
「いやあ、何とも言えないな。(これまでと)おりも違うし、餌も違うから。興味は持って来ると思うけど、(OSO18が)近く通れば。この場所の選定だけでも、かなり気をつかう」

ワナの設置から6日後の7月11日。

2件目の被害は、予想していたもう一つのルートで起きました。

2022年から藤本さんは、現場に人間の匂いがつかないよう立ち入りを制限していました。

取材班
「現場どうでしたか」
OSO18特別対策班 赤石正男さん
「ひどく食われていた」
取材班
「一頭だけですか」
赤石正男さん
「一頭だけ」
取材班
「まだ近くにいる可能性ってあるんですか」
赤石正男さん
「いるんでないか、そばに」
藤本靖さん
「今晩(クマが)戻ってこなかったら、(もう)来ないと思うんだよね。とりあえず(牛の死体を)一晩置かしてもらって、カメラも仕掛けてあるんで」

翌朝、異変に気付いたのは交代で見回りにきた地域の酪農家仲間でした。

地域の酪農家仲間
「昨日、ここに(牛の死体)があったでしょう」
取材班
「あれ、ないですね」
地域の酪農家仲間
「11時ごろに見に来たら、もう死骸も何にもなくて、あっちに引きずった跡があったのかな」

前日、襲った牛のもとへ「OSO18」が戻ってきていました。人間の気配が少ないと見るや、「OSO18」は牛への執着をむき出しにしていました。

4日後の夜。沢沿いに設置したカメラに「OSO18」の姿が捉えられます。「OSO18」は、2時間40分をかけて牛を食べ尽くしていました。

さらに2日後の7月18日、そのすぐ隣の牧場で次の被害が起きます。「OSO18」は、間違いなくこの近くに潜んでいる。藤本さんは仲間とともに付近を捜索します。

すると、行動を物語る痕跡が数多く見つかりました。勝負どころと見た藤本さんは、ハンターを招集。「OSO18」が現場に戻ってくるとにらみ、交代で早朝と夕方に張り込みを始めました。

ところが「OSO18」は姿を消します。被害は途絶え、その行動は再び読めなくなりました。

「OSO18」は捕まるか? 対策班リーダー生解説

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、「OSO18」の特別対策班のリーダーでNPO南知床・ヒグマ情報センターの藤本靖さんです。大変な中、ありがとうございます。

届きそうで届かない相手だなという感じがするのですが、被害の範囲は大体どれぐらいで起きているとみていますか。

スタジオゲスト
藤本 靖さん(NPO南知床・ヒグマ情報センター)
OSO18特別対策班のリーダー

藤本さん:
縦に60キロ。横に30キロぐらいの広さですね。

桑子:
クマというのは、どれぐらい移動するものなのでしょうか。

藤本さん:
一晩に、10キロほど移動するものも全然珍しくないです。

桑子:
そうなるとピンポイントでどこにいるか、狙いを定めるというのは相当難しいことですか。

藤本さん:
かなり難しいです。「今どこにいるの?」と聞かれても、ちょっと答えられないです。

桑子:
ルートを絞りつつ、日々頑張っていらっしゃるということですが、ずっと追跡をしてこられてどういうふうな特徴があると感じていますか。

藤本さん:
分かりやすく言うと、2021年に札幌で出たのが「新世代ベア」と呼ばれる、新しいクマの世代といわれています。

桑子:
町なかで出たものですね。

藤本さん:
「OSO18」に関しては、昔ながらのクマ。要するに人を避け、学習能力が高く、まして家畜を襲う。昔よく出ていたクマに近いと思っています。

「OSO18」の特徴は?
・高度な学習能力
・極端な用心深さ
・牛を襲う

桑子:
やはり用心深さというのは感じていらっしゃるわけですね。

藤本さん:
そうですね。人のにおいは徹底的に嫌いますから、人が行かないことによって、また違う動きをするというのが2022年に分かりました。

桑子:
「牛を襲うのを楽しんでいるのかな」というようなお話もありましたが、そのあたりはどうでしょうか。

藤本さん:
そこもまだちょっと分からないですね。ですから、最終的に捕獲できたときに、いろんなことが分かると思います。

桑子:
ただ、牛を食べているということは確実でしょうか。

藤本さん:
間違いないです。

桑子:
そのあたりから推測できることは、どういうことでしょうか。

藤本さん:
本来、雑食のクマがなぜ肉食になったのかという謎が残ります。ただ、一度味をしめてしまうと、そこに執着するというクマの特徴があります。なので、どうしても肉を求めて、これだけのいろんなところを歩くのではないかなと思っています。

桑子:
なぜ「牛」なのでしょうか。

藤本さん:
僕らの地域では、実はクマが牛のそばに来ると、興味を持って牛が近づいていってしまうケースとかもあるんです。

桑子:
牛からクマに近づいてしまうと。

藤本さん:
そうなんです。ですから、牛を狙っているクマであればあるほど牛を襲いやすい状況ができてしまう。あとは夜になると、牛は集団で休みます。ですから、その牛を襲っているということもあるのではないかなと思っています。

桑子:
「OSO18」にとっては襲いやすい相手であるということですよね。4年たつわけですが、追跡は前進していると言えますか。

藤本さん:
そうですね。2022年はクマの移動ルートとか、行きそうなところだとか、そういったところは大体見極めることができてきましたので、もうちょっとで、なんとかなりそうな気はしています。

桑子:
狙い目は、いつぐらいには、というのはあるのでしょうか。

藤本さん:
クマは、いつでも捕獲するということはなかなか難しいんです。常に移動していますから。冬眠直前の積雪期、あるいは冬眠明けの積雪期。雪があることによって足跡を追跡できますから、そうすると捕獲に結び付くチャンスというのは広がると思います。

桑子:
この冬、または春前にはどうにかというところですね。

藤本さん:
地域の方、あるいは農家の方がいちばん苦しんでいますので、なんとかこのクマに関しては被害を食い止めて、皆さんを安心させられるように努力していきたいと思っています。

桑子:
「OSO18」だけではなく、北海道内ではヒグマの被害がかなり深刻になっています。人身被害、農業被害、いずれも過去最多となっています。なぜ、ここまで広がっているのでしょうか。

藤本さん:
昔、農地だったところが今、農家をやめて離農されて、そこが森になったりしているところがたくさんあります。そういったところに、クマが活動範囲を広げてきているというケースがあるんです。

そうすると、人の民家の近くまで来るということになりますから、札幌だとか、そういった地域では町なかまでクマが来てしまうような状況が今、できてしまったと。

桑子:
緊張関係というのが薄れてしまっているという感じなのでしょうか。

藤本さん:
もう一つは、人間の怖さを知らないクマが今どんどん出てきています。そういうクマによって活動が活発になってきて、人のそばまで来るというケースが増えてしまったということです。

桑子:
初めにおっしゃった「新世代クマ」ということですよね。もともとは人間がクマのいたところに入っていったという歴史もあるわけですが、ヒグマと人間の共生のあり方、共存のあり方はどのように考えていますか。

藤本さん:
「OSO18」のようにだめなクマはだめ。ですが、普通に生活しているクマはそのままでいいと思うんです。そのかわり、人間がクマのことをしっかりと知っていくということが大切だと思います。

桑子:
すべてのクマが悪いのではなくて、問題のあるクマをしっかりと見極める。そのためにどういうことが必要でしょうか。

藤本さん:
若い研究者だとか、エキスパートの方を育てていくことがこれからの北海道にとっては必要だと思います。

桑子:
今、そういったエキスパートは現状どうなのでしょうか。

藤本さん:
残念ながらいないんですね。ですからそういうことを目標に、なんとか私たちも努力していきますし、あとは関係する行政にもお願いしながら北海道に住む人が安心できるものを作っていきたいと思います。

桑子:
あと、そこに暮らす一般の人たちもヒグマについて知識を深めるということですね。

藤本さん:
そうですね。そういう機会をどんどん作ることが大切です。

桑子:
ひとまずは「OSO18」をまず捕獲して、これ以上の被害を食い止める。これが最も求められていることのように感じます。ありがとうございました。

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