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釧路町“社協任せにしない”災害ボランティア受け入れ態勢強化を

  • 2024年3月13日

災害からの復興の大きな力になる災害ボランティアだが、ことし1月に発生した能登半島地震では受け入れ態勢の課題も見えてきた。受け入れ態勢をどう作るのか。道東の釧路町の取り組みを取材した。
(NHK釧路・梶田純之介) 

災害ボラ 受け入れ担うのは“社協”

道東の釧路町では千島海溝沿い巨大地震で地震や津波による被害が想定されている。道の想定では、道内で最も高い最大26.5mの津波が押し寄せ、最悪の場合5700人が死亡すると想定されている。

災害時に大きな役割を果たすのが、家屋の復旧や炊き出しなどを担うボランティアの人々だ。地元の社会福祉協議会=社協が受け入れを担当している。

釧路町の社会福祉協議会では、9人の職員が働いている。平常時は福祉バスの運行や高齢者介護の支援などをしているが、災害時は通常業務に加えて災害ボランティアの受け入れも担うことになっている。

受け入れ業務は多岐にわたる。町外から訪れるボランティアをただ受け入れるだけではなく、被災者からのニーズを吸い上げ、適切な場所に適切な人材を振り分けることや、日々のボランティアたちの活動日誌のとりまとめ、ボランティアの宿泊先の確保などに奔走する。

能登半島地震では受け入れ1割程度

ことし1月に発生した能登半島地震では、2月16日の時点でおよそ2万6200人が、石川県のボランティアに参加するための事前登録を行った。しかし、実際に被災地で活動した人はのべ2739人。受け入れることができたのはわずか1割程度にとどまった。

なぜ受け入れが進まなかったのか。能登半島の現状を視察してきた専門家は、ボランティアを受け入れるための“場所”が課題だと指摘する。

神戸大学 室﨑益輝 名誉教授
「場所がないとうまくいかない。計画の中に、どこにボランティアセンターをつくるかというのが最初から組み込まれていないといけない。事前に協定や約束を結んでおかないと、災害が起きてからではもう遅い」

釧路町 ボランティア受け入れに不安

釧路町社会福祉協議会のもつスペースはわずか60平方メートル。数百人単位で来ると想定されるボランティアを町内各地に振り分ける受け入れ拠点としてはあまりに現実的でない。社会福祉協議会の担当者は、うつろな表情で心境を語った。

釧路町社会福祉協議会 澤田滴 主事
「ずっと災害が起きた時の不安を抱えていました。本当に数名程度しか入るスペースはないのではないか。このスペースだけでは処理しきれなくなることが想定されます。狭いです… はい」

協定で行政の役割を

こうした状況を改善しようと、社会福祉協議会と町はことし2月、災害ボランティアに関する協定を結んだ。協定には、町が「保健福祉センター」に持つおよそ700平方メートルのエリアを災害時に無償で提供することなどが盛り込まれた。従来の10倍以上の広さを使えるようになり、仮に受け入れ側の態勢も十分に整えば、200人程度のボランティアを受け入れられるという。

社会福祉協議会では、新しく使えるようになったスペースを災害時にどう使うか、検討を重ねている。特に寒さや雪の厳しい冬の場合、ボランティアの受付を建物の中に作る必要があるため、間取りに工夫が必要だという。

町ぐるみでの訓練を

ボランティアの円滑な受け入れを目指し、社会福祉協議会と町は役割分担やボランティアの受け入れ訓練の実施についての議論も始めている。

釧路町 防災安全課 伊勢陵市 係長
「実際に災害ボランティアを多く受け入れたことがないので、訓練の開催を前向きに検討していきたい。まず協定を結んで、相互連携を今後もより一層強化していこうとしています」

釧路町社会福祉協議会 澤田滴 主事
「200人受け入れできれば、釧路町としてはかなりの人数なので、被災されたお宅の復興などを手伝っていけると思います。ボランティアセンターを設置する場所がはっきり行政と決まったので、どんどん内容を詰めていけます。今後、災害が起きた際に、社会福祉協議会と行政で判断を早くすることができるようになると思います。ボランティアの皆様の過ごしやすさや、活動のしやすさにつながってくるのではないか」

“社協任せ”の現状に専門家は

発災6日目から能登半島に入り、被災地の現状を視察したという専門家は、ボランティアの受け入れに対し行政が積極的な姿勢を見せなかったと指摘する。

神戸大学 室﨑益輝 名誉教授
「もっと被災地の行政も積極的にボランティアの支援を求めるべきだった。ボランティアがとても重要な存在だという理解が欠けている。『自衛隊や消防の邪魔になるので来るな』とか『危険だから来るな』ということで、ボランティアはみな動けなかった」

室﨑名誉教授は、自衛隊や消防などと同様にボランティアの存在が極めて重要だとして、ボランティアを受け入れる「受援力」をつけることが大事だと考えている。

神戸大学 室﨑益輝 名誉教授
「ボランティアが来ることでみんな助かるし、関連死も少なくなる。復旧や復興に向けた話し合いも生まれてくる。ボランティアがたくさん来ないと復興が進まない」

そのうえで、全国各地の自治体で、ボランティアの受け入れが社会福祉協議会任せになっている現状を指摘する。

神戸大学 室﨑益輝 名誉教授
「ほとんど全ての地域がそうだと思う。社会福祉協議会で受け入れをするのは間違っている。社会福祉協議会は日常の福祉だとか、たくさん作業がある。全くお金をもらえない中で奉仕としてやっている。負担が多く、寝る暇もなく、仕事をせざるを得ない。受け入れ態勢は、社会福祉協議会だけではなく、NPOや市民団体、地元のコミュニティーなどの組織が一緒になって運用することが重要だ」

取材後記

千島海溝沿いの巨大地震への備えを進める道東の自治体。これまでの取材で、“津波からどう避難するか”や“被災者への支援をどう行うか”についての動きは活発だと感じていた。しかし、災害ボランティアに関する議論は、能登半島地震を受けてようやくスタートラインに立ったように思える。
今回取材した釧路町では、ボランティアを泊めるためのホテルが町内にほとんどないという課題も残っていて、今後、さらに計画を具体化することが求められている。
東日本大震災から13年。復興を支える災害ボランティア、そしてボランティアを支える社会福祉協議会のあり方を再考する時期が来ている。

2024年3月13日

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