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なぜ反対? ハーフライフル銃規制 “北海道の事情”とは

  • 2024年2月9日

銃刀法の改正案が議論を呼んでいます。改正案には猟銃の1つ「ハーフライフル銃」の規制を強化し、威力の強いライフル銃と同じように、猟銃を持ってから10年たたないと持てないようにする内容が盛り込まれています。これに対し、道はヒグマやエゾシカの駆除対策への影響が懸念されるとして、道内の事情に配慮するよう国に要望しました。さらに、道内の野生動物団体や猟友会、そして知床財団からも相次いで反対の声明が出ています。いったいなぜなのでしょうか?北海道の現場からリポートします。

(帯広局記者 米澤直樹)


ハーフライフル銃とは?

猟銃には、大きく分けて3つの種類があります。
▽ライフル銃:銃身に「ライフリング」と呼ばれる溝がある
▽散弾銃:粒状の弾が拡散して飛んでいく
そして、今議論の対象となっている
▽ハーフライフル銃です。

ライフル銃は銃身の中で弾が溝に沿って回転するため、200メートル以上先まで正確に狙うことができるのが特徴です。威力が強いため、銃刀法ではライフル銃を所持するには散弾銃などを10年間継続して使用した実績がなければならないと定めています。
散弾銃でも弾が飛び散らない「1発弾」を撃つこともできますが、射程は50メートルほどとなっています。
そして、散弾銃とライフル銃の中間に位置する銃と言えるのが「ハーフライフル銃」です。ライフリングが銃身の半分以下までしか刻まれていない銃のことで、射程は散弾銃の3倍ほどの150メートルがあります。一方で、散弾銃同様、新人のうちから所有することができるのが特徴です。


エゾシカを撃つなら「これしかない」

1月、地元猟友会が新人ハンター向けの研修会を行うと聞き、十勝の浦幌町を訪れました。帯広市など各地から集まったのは、20人あまりの若手ハンターたち。その多くは去年狩猟免許と猟銃の所持許可を受けた新人です。新人ハンター全員が手に持っていたのは、「ハーフライフル銃」。彼らにこの銃を選んだ理由を聞きました。

農家の男性
「農業をやっているので、シカによる作物被害を減らしたいと思って狩猟免許を取得しました。シカを撃つとなるとハーフライフル銃しか狙えないという話を聞いたので」

新人男性
「エゾシカを撃つことを目的に狩猟免許を取っているので、そうなるとハーフライフル銃一択になるので購入しました」

北海道銃砲火薬商組合の沖慶一郎組合長によると、北海道ではエゾシカ猟やヒグマ猟を目的に銃を購入する人のほとんどがハーフライフル銃を選んでいるといいます。それは、北海道で猟を行うフィールド(猟場)が広いこと、そして雪で藪が覆われ、遠くまで見通しやすいことが影響しています。遠くにいるエゾシカやヒグマを狙うケースが多いため、新人のうちから射程の長いハーフライフル銃を選ぶ人が多いのです。


ベテランハンター「新人がやる気なくす」

浦幌町で行われた研修会でも、ハンターたちが狙ったのは100メートル以上離れた場所にいるシカでした。ハーフライフルの射程はおよそ150メートルですが、それでも走っているシカを仕留めるのは簡単ではありません。法改正によって新人や若手ハンターが散弾銃しか所持できなくなると、50メートルの距離まで近づかなければならず、仕留めるのは困難だという声が聞かれました。ベテランハンターも若手への影響を懸念しています。

北海道猟友会帯広支部芽室部会 菅野薫さん
「散弾銃ではダメです、当たらないです。50メートルなら当たります。だけどそれを越えて150メートルまでいくと当たる『かも』しれない。ハーフライフル銃がダメになったら、シカを撃つのがかなり難しくなりますね。新人がやる気をなくすというか、やろうという人が少なくなるのは間違いないと思いますね」


規制強化と規制への懸念 背景は?

今回の規制強化の背景にあるのは、去年、長野県で警察官2人を含む4人が殺害された殺人事件です。この事件で凶器として使用されたのが、ハーフライフル銃でした。銃刀法の改正案では、ライフル銃同様、銃を所持してから10年たたないとハーフライフル銃を所持できなくする方針です。

一方、道は規制が強化されれば、ヒグマやエゾシカの駆除への影響が懸念されるとして、国に配慮を求めています。仮に散弾銃でヒグマに立ち向かうとすると、50メートルの距離まで近づく必要があります。ヒグマは時速60キロで走ることができると言われていて、2秒から3秒程度で反撃されるおそれがあります。
さらに、道内では、エゾシカなどによる農林水産業への被害が年間58億円あまりに達し、昨年度まで3年連続で増加しています。道内では狩猟と駆除を合わせて1年間に14万頭以上のシカが捕獲されていますが、それでもシカの推定生息数は72万頭と増え続けているのです。


駆除担うハンターも懸念

今回の改正案には、農業被害をもたらす野生動物の駆除に積極的に関わるハンターも、影響を懸念しています。音更町の農家の山下智洋さん(47)は5年前にハンターになり、やはりハーフライフル銃を使っています。山下さんは年を追うごとに、行政などから依頼されて行う「駆除」の負担が年々増しているといいます。

1月、音更町内で山下さんの猟に同行しました。車で走行中、雪に覆われた畑に、ぽっかりとあいた大きな穴をいくつも見つけました。山下さんによると、シカがほじくって食べた秋まき小麦だといいます。

音更町の農家 山下智洋さん
「ここはまだ被害が少ない方ですが、ひどいところになると、あたり一面こういう穴ぼこがたくさんあるんですよ」

団塊の世代のベテランハンターの引退が迫るなか、ハーフライフル銃の規制強化で駆除を担う若手がさらに減る事態に陥りかねないといいます。山下さんは、このままでは相次ぐ農業被害に対応できなくなることを懸念しています。

音更町の農家 山下智洋さん
「私も農家をやっているので、せっかく育てた野菜が食害にあったりすると、すごく悲しい気持ちになりますし、やはり防いでいくには私やほかのハンターのみなさんで駆除を続けていければいいなと思っています」


専門家「地域の現状踏まえて議論を」

野生動物管理が専門の東京農工大学の梶光一名誉教授は、規制ありきの議論ではなく、地域の現状をふまえた仕組みづくりが必要だと指摘しています。

東京農工大学 梶光一名誉教授
「何かあれば規制するというのがこれまでのやり方なのですが、ハーフライフル銃がどういう役割を持っているのか考える必要があります。北海道ではただでさえシカの個体数管理が厳しくなっていて、ハーフライフル銃を規制しなくても非常に危険な状況です。地域の特性もなく、この重大な問題が一体どういうものかという議論がないままに、色んなことが進んできてるという印象を持ちました。規制するにしても、短絡的なやり方ではなく、どうすれば銃が安全に使われるか考えつつ、公的な役割を果たす役割を持つ者に対しては、認証していく仕組みを持って銃を管理するというのがいいのかなと思います」 

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