知床観光船沈没事故1年 水中ロボット研究のいま
- 2023年4月28日
知床の観光船事故で、水中に沈んだ「KAZU I」の文字を最初に捉えたのは自衛隊の水中ロボットに搭載されたカメラでした。水中ロボット=ROVは水難事故や災害時の捜索には欠かせなくなっています。このROVの性能をさらに進化させようと、技術開発を進める現場を取材しました。
(釧路局記者 島中俊輔)
知床の観光船、KAZU Iを最初に捉えたROV
海中に沈む船。側面には青い文字で「KAZU I」とあります。
2022年4月23日。知床半島の沖合を航行中の観光船が沈没。水深およそ120mに沈んだ船を最初に捉えたのが海上自衛隊のROVに搭載されたカメラでした。
その後、警察や海上保安庁もROVを投入。行方不明者が船内に取り残されていないか、捜索に使われました。行方不明者の発見には至りませんでしたが、船の中の様子を撮影した複数の画像が公開されました。
現行ROVに制限をかける"ケーブル"問題
「ROV」は「Remotely Operated Vehicle」の略で、文字どおり遠隔操作が可能な無人の水中ロボットです。人が潜れないような深い海底で捜索を行う有効な手立てとして利用されています。一般的なROVはケーブルでコントローラーと本体をつないで操作します。
しかし、知床事故の捜索の際はこのケーブルが海中でひっかかって、投入されたROVを回収できないという事態が発生しました。10年以上にわたってROVの開発をしている東京海洋大学の後藤慎平助教はこの部分が弱点だと指摘します。
東京海洋大学 海洋電子機械工学科 後藤慎平助教
「ROVで水中の状態がリアルタイムでわかることで、船がどういう状態にあるのか、生存者がいるか、即座にわかることができるので、すぐに救助に移るということができる。ただ、今のROVは船上とケーブルで繋がれてる状態になっていて、狭小部に入っていく時にケーブルが絡まったり引っかかって切れたりというような可能性がある」
光無線通信を活用 ケーブルがいらないROV
後藤助教は大手通信会社とともに、ケーブルのいらない光無線通信を使ったROVの開発に取り組んでいます。
その仕組みです。親機と子機の2つがセットで運用されます。陸上のコントローラーから親機に「前進」や「浮上」などの指示を送ると、親機から子機にその内容が光の点滅を利用した光通信で伝わります。子機はその通信を捉えて動くのです。無線で通信を行うため、ケーブルがいりません。さらに光通信は大容量のデータを送れるのも特徴で、陸上でカメラの映像をリアルタイムで確認できます。
東京海洋大学 海洋電子機械工学科 後藤慎平助教
「ケーブルの代わりに光の通信を行うことで、潮流に流されたり、物に絡まって切断したりというようなことが比較的少なくなると考えている」
2月、道東の厚岸湖で実験が行われました。この日は最低気温がマイナス15度。ROVを冷たい湖に投入して、氷が湖面を覆う狭い環境下でも正常に作動するかを確かめました。親機が光の点滅で前進や後退などの指示を出すと、子機が水中で動きました。後藤助教や大手通信会社によりますと、光無線通信を使った水中ロボットの制御に成功したのは、世界で初めてだということです。
課題は通信範囲 さらに進化を
しかし、親機と子機の間の通信が可能な範囲は200mと限りがあります。これを1km以上に伸ばせないか研究が続いています。
また、水が濁っていたり、魚などが前を通過したりすると通信できなくなるという課題もあります。今後、こうした課題もクリアするよう改良を重ねたいとしています。
東京海洋大学 海洋電子機械工学科 後藤慎平助教
「200mであればケーブルを引いた方が早いというような意見も当然出てくるのはわかるので、もう少し通信距離を伸ばしたい。光無線通信をさらに進化させて使いやすいものにすることで、例えばROVを漁船に積むことができるような未来が来れば、すぐにそのまま救助や捜索に向かうことができる」
取材後記
知床の沈没事故の現場には事故発生当日から取材に入り、関係者への取材や社長の会見対応などを行いました。ROVが初めて船の姿を捉えた画像を見た時に、なんとか行方不明者が見つかってほしいと感じたことを覚えています。
新型ROVが実用化されれば、救助活動のみならず、漁業における定置網の点検などの水産業への活用や津波被害を受けたあとがれきで埋まった港湾内の調査など、さまざまな用途が考えられるということです。
後藤助教と大手通信会社の研究は2021年に始まったばかりで、改良を重ねた上で2030年までの実用化を目指しているということです。ROVのさらなる進化に期待したいと思います。
(2023年4月26日)
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