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知床観光船事故1年 乗客家族に心を寄せて

  • 2023年4月26日

乗客乗員20人が死亡し、6人が行方不明になっている知床沖の観光船沈没事故から1年がたちました。世界自然遺産の観光地として旅行客を迎えてきた知床では、事故の発生当初から多くの人たちが乗客の家族に心を寄せながら、未曽有の事故と向き合ってきました。地元関係者のインタビューから、地域の人たちのこの1年の思いを見つめました。
(北見放送局記者 大谷佳奈)

不明者捜索を続ける漁業者の思い

羅臼町の漁業者、桜井憲二さん(59)は観光船の事故後まもなく、沿岸で行方不明者を捜すボランティアグループを立ち上げて、半年間にわたって捜索活動を続けてきました。事故から1年がたつ今の心境を時折、言葉を詰まらせながら話してくれました。

捜索ボランティアグループ代表 桜井憲二さん
「もう1年なのかなと感じる一方で、ずいぶん昔のような気もする。まだ見つかっていない人がいるという現状もあります。楽しみにして来ていた知床の海で、沈みゆく船で自分たちの死を覚悟して冷たい海に投げ出されていくわけだから、やっぱりつらいですよね」

桜井さんたちは足場の悪い岩礁地帯や険しい崖がある半島先端部の海岸を6回にわたってくまなく捜索してきました。事故から4か月近くがたった去年8月には女性乗客の遺骨を見つけ、関係機関が捜索態勢を見直すきっかけになりました。

「とりあえず自分たちにできることは何かと思った時、『行ける所まで行こう』という話になったんです。帰りを待っている家族がいる。でもそこには家族は誰も来られるわけじゃない。自分たちが代わりに行くことで見つけてあげられたという思いはありましたね」

桜井さんたちは“地元に住む者の務め”という責任感から捜索活動を始めましたが、当初はある葛藤を抱えていました。それを克服できたのは乗客家族からの言葉だったと話しています。

写真提供:捜索参加者

「俺たちよけいなことをしているんじゃないかと。それだったらやめなきゃいけないと思っていたんです。でも、家族が家族会の中で連絡を取り合う中で、『みんな感謝している』という話でした。それならやれるかぎりのことを最後までやってあげようと思いました」

桜井さんたちのボランティアグループは5月の大型連休中に新たな捜索活動を計画しています。事故から1年がたつ今、乗客家族に寄せる思いをこう話してくれました。

捜索ボランティアグループ代表 桜井憲二さん
「漁業者の海難事故はほとんど遺体が見つからないんです。やっぱりどこかでみんな心の整理をつける。生きていく上でそれは必要なことなんですよね。家族もやっぱり前へ進まないといけないんですよね、生きている以上は」

“決して忘れない”斜里町副町長の思い

斜里町の副町長、北雅裕さんは事故の直後、急きょ設けられることになった遺体安置所の運営を担い、現場周辺で見つかった14人の遺体を受け入れました。
混乱した状況の中で次々と駆けつけてきた家族の姿は決して忘れられないと話しています。

斜里町 北雅裕副町長
「かけがえのない家族を失い、安置所で実際にご遺体と面会する、ご遺品と面会するたびに、悲痛な言葉と本当に憔悴(しょうすい)しきった姿を目の当たりにしました。本当に私たち職員も毎日涙を何回流したかという状況でした。担当した者としてはご家族になんとか寄り添って、面会や手続きを一緒に考えてあげたいという思いでやっていました」

北さんは当時、被害者の情報が限られる中で1枚の乗船者名簿を頼りに安置所を運営していました。事故翌日の映像にも名簿を手にしながら報道陣の取材対応にあたる北さんの姿がありました。

「乗船者名簿だけが私の唯一の資料、与えられた資料でした。ボロボロになってはいますけど、安置所で交わした家族の方との会話の記憶と共に、私は自分が最期を迎えるまで持ち続けることになるのではないかと思っています。それがこの場所を担当した者の務めではないかと思っています」

北さんが話しながら名刺入れから出してくれた乗船者名簿には、折りたたまれた裏面のあちらこちらにメモ書きがあり、当時の状況をしのばせていました。

事故のあと、斜里町が設けた献花台には2000組を超える人たちから花が供えられています。その中には事故でイメージが大きく傷ついた知床の人たちを気遣う思いも寄せられてきました。

「捜索に携わった方々、この事故によって経営的に苦しい思いをされている方々、いろいろいらっしゃいます。今なお観光業界だけではなくて、町民生活に大きな影響を及ぼしているのではないかと感じています。失ったイメージをなんとか取り戻したい。そういう思いでいっぱいです」

町が大きな衝撃と悲しみに包まれた事故から1年がたった23日、地元の斜里町ウトロでは乗客家族が参列した追悼式が開かれました。当日を前に、北さんは家族に寄せる思いをこう話してくれました。

斜里町 北雅裕副町長
「ご家族の気持ちはまだまだ癒えるものではないと思うんですが、この追悼式が悲痛な思いを持っているご家族に少しでも心の癒やし、そして支えになればと思っています。『私たちは忘れません』という気持ちで当日を迎えたいと思っています」

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