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さるるの海の彼女たち

  • 2024年3月15日

オホーツク海に面した興部町・沙留(さるる)。 漁協が営む水産加工場で、ベトナムとインドネシアからの技能実習生と特定技能外国人が働いている。最初に私が取材に伺ったとき、彼女たちは、こう答えた。「仕事は慣れたから、大丈夫」「もっと残業したい」。故郷から遠く離れた北の港町にいながら、愚痴や弱音のような言葉は、決して吐かなかった。私は、自分と同世代である、彼女たちのことを知りたいと思った。 (北見放送局 大谷佳奈)

ほっかいどうが #13
「さるるの海の彼女たち」
(再)4月29日(月・祝)午後6:20~6:35<総合>
※北海道ブロック
※NHKプラス2週間の見逃し配信あり

 

彼女たちの仕事

32人の女性たちは、20代が大半を占める。なかには10代後半もいた。
彼女たちの仕事は、さるるで水揚げされたカニやホタテ、サケなどの加工。店頭で並べるためには欠かせない。日本人の働き手が少なくなるなかで、彼女たちが水産業を支える。

 

私の実家は、香川県のコメ農家。兼業農家で、共働きの両親になんとか大学に進学させてもらったが、就職するときに農家を継ぐことは選ばなかった。彼女たちの働く姿を見ていると、地元を離れた後ろめたさが、胸に迫った。誰かの代わりに、彼女たちが働いている。私の地元でも、彼女たちのような存在が支えているかもしれない。その現実から、目をそらしていいのか。撮影を続けながら、彼女たちから問われているような気持ちになった。

 

 

彼女たちの素顔

彼女たちは仕事が終わると、加工場から寮まで、港町を歩いて帰宅する。中に入らせてもらうと、共同スペースがあり、料理をつくっている。みんなベトナムやインドネシアの料理で、その匂いは海外に来たみたいだ。ひとりずつに与えられた部屋には、化粧品もあれば、趣味の絵を描く道具もある。机の上に積み重なった日本語の教材や、日本語と母国語の両方で書かれた日付のメモ書きを見ると、その真摯さと純朴さに、私は距離を感じる。

 

28歳の私より一つ若い27歳の女性は、母親だった。「子どもが2人います。8歳と5歳の息子です」。少しでもお金を貯めるため、日本に来てから最初の3年はベトナムに帰らず、会わないつもりだという。来日2年となる彼女は、6歳と3歳のときに我が子と別れたことになる。「家族のため、子どものために日本で働きたい」という彼女は、現在の技能実習制度と特定技能制度で働ける最大の8年間を、日本で過ごすつもりだという。

 

彼女たちからの言葉

「お姉さん、これ食べますか」。距離が縮まるにつれて、彼女たちは、稼いだお金でつくった故郷の料理を、私たちに勧めてくれた。そして、日本語を使いながら、私たちの口にあうか、気遣ってくれた。「『ンゴン』は日本語でおいしい。『ンゴン クァ』はめっちゃおいしい」。「味はどうですか?」と聞かれて、「ンゴン。ンゴン クァ」と答える。そのとき、私の心が一番、彼女たちの近くにいる気がした。

 

私は技能実習生や特定技能外国人という彼女たちの存在を、知っているようで知らなかった。日本人の代わりに働く彼女たち。私たちはそれをどこか知っているが、深く知ろうとはしない。いま確かなことは、彼女たちはきょうも、この日本で懸命に働いていることだ。

 

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