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知床半島・斜里町ウトロの孤立対策

  • 2024年3月19日

ことし1月に発生した能登半島地震。道路の陥没や土砂崩れなどにより多くの地区が孤立状態となり、救助活動や救援物資の輸送が困難となりました。
道内でも大規模災害が発生した場合には多くの地区が孤立すると指摘される中、世界自然遺産・知床の玄関口、斜里町ウトロ地区では、観光客など外部から来た人の避難が課題となっています。
この課題の解決に向けて取り組む、ウトロ地区の自治会を取材しました。(北見放送局  新島俊輝)

斜里町ウトロの孤立リスクとは?

世界自然遺産の知床半島にあり、年間120万人の観光客が訪れる斜里町ウトロ。
冬の時期には流氷を目当てに訪れる人たちでにぎわっています。

しかし、ウトロ地区と外部を結ぶ道は、知床半島の反対側にある羅臼町とを結ぶ「知床横断道路」と、斜里町中心部とを結ぶ国道の、あわせて2本のみ。
特に冬場は「知床横断道路」が通行止めとなります。
つまり海と急斜面の山の間を走る国道が外部とを結ぶ唯一の道となるため、災害時の孤立が懸念されています。

ウトロ独自の取り組み

孤立が懸念されるウトロ地区は2018年、内閣府から地区防災計画策定のモデル地区に指定されました。
ウトロの自治会は内閣府の支援を受けながら、町の防災計画とは別に、独自の地区防災計画を策定して、災害時の避難経路などをまとめてきました。
また、津波からの避難を想定した訓練を毎年実施するなど、災害への備えを進めてきました。

こうした中、自治会では、毎年2月に行っている避難訓練の想定として孤立を選択。
ウトロ地区はこの冬だけでも2回、暴風雪で孤立していて、身近なリスクとなっています(3月15日現在)。
暴風雪による孤立は、ウトロにとってはいわば「あるある」ですが、備えが十分でない観光客など、外部から来た人の命を守るために、課題を整理することにしました。

ウトロ自治会  桜井あけみ防災推進委員
「通行止めは日常茶飯事で、地域の人たちは慣れているので、外から来た人の方が被害を受けるリスクが高い。災害が起きても、ウトロにいる人たちみんなが無事でいれば、ここは災害とは言わないわけだから、地区防災計画で『みんなの命を助ける・安全を守る』とうたっている以上、どういう課題があるのかをしっかり検証していきたい。厳しい自然環境も含めて『知床がいい』と思ってくれている人たちのためになんとかしてあげたい」

“孤立”想定の訓練  成果は

そして2月29日に訓練が行われ、地区の住民や外部の工事関係者など、およそ70人が参加しました。
訓練を行ったのは、津波による浸水が想定されることから、町の防災計画では避難所に指定されていない道の駅「うとろ・シリエトク」。
広い駐車場がある道の駅に、暴風雪で孤立して行き場を失った観光客などが避難してきたという想定です。
自治会は駐車場にテントを立て、避難者の人数把握のため、車を駐車場所に誘導したり、名簿への記入を求めたりしました。

電気自動車を活用した炊き出しの提供も実施。
暴風雪の影響で停電が起きることを想定し、寒さ対策のために温かいものを提供できることを確認しました。
そして、自治会が訓練の中で特に力を入れたのがアンケートの実施。
参加者に、孤立した際の宿泊場所や、道の駅に避難した場合に求める設備などを聞き取りました。

参加者
「孤立しないことを目指すのではなく、孤立しても、住民も観光客も仕事で来ている人も、みんなが生き延びることにスタンスを置いているのが、進んだ取り組みだと思う。訓練に参加してみて、実際に孤立した際、道の駅にいたらいいのか、ホテルを予約すればいいのか、自分たちが次にどういう行動をとればいいかがわかると、よりよいと感じた」

参加者
「ウトロにとって一番起こる可能性が高い災害をテーマにした上に、避難者として観光客を想定していて、珍しい訓練だと思った。災害のリスクを考えることがあまりない観光客など、いろいろな人がいることが予想されるので、道の駅のような拠点となる場所に防災機能を持たせていくことが大事だと感じた」

アンケートの結果は・・・

訓練のおよそ3週間後の2月29日。
ウトロ地区の防災会議が開かれ、訓練の際に実施したアンケートの結果が発表されました。
その中で、暴風雪で孤立した際に「道の駅で車中泊する」と答えた人が、参加者全体の4割も。
さらに道の駅に休憩スペースや非常用電源などの設備を求める声も多数ありました。

ウトロ自治会  米沢達三会長
「これまでは、地震や津波という想定の中で訓練をしていたが、実際にウトロでは暴風雪とか土砂崩れによる通行止めや停電などといった災害の発生確率の方が高いだろうということで、今回の訓練を実施した。アンケートの結果も踏まえて、開発局にもウトロの道の駅をなんとか暴風雪の際の避難場所に指定してもらって、設備を整備してもらいたいという旨を要請している」

さらに会議では、3月中に地区の全世帯を対象に、災害への意識を問うアンケートを実施することも決めました。
アンケートでは、地区防災計画を知っているか、という質問のほか、能登半島地震で課題となった「孤立」や「通信インフラの損失」などのさまざまな問題の中から、住民が何に関心があるかをたずねる質問も設定しました。

さらに能登半島地震では家屋の倒壊が相次いでいることを受け、大地震による家屋への影響について問うべきだという声もあがったことから、自宅の耐震化についての不安を尋ねる質問も、追加でたずねることになりました。

自治会では、2月の訓練や3月のアンケートを踏まえて、2024年度中に地区防災計画を改訂し、地震や津波、暴風雪など、あらゆる災害に対応できる計画を策定する予定です。
改訂された計画には、観光客や工事関係者といった外部から来た人の避難経路を盛り込むことにしています。
ウトロにいるすべての人の命を守る-。
譲れない思いのもと、自治会は防災への取り組みを続けていきます。

ウトロ自治会  米沢達三会長
「住民へアンケートをとることによって、われわれが思っていないような回答が出てくるといいなと思っている。地区防災計画を改訂するだけでなくて、地域の人みんなが計画を理解した上で、災害時どのように行動したらいいのか、自分の身をいかに守るか、ということを考えてもらいたい」

取材後記

災害が起こった際に、「孤立」というリスクにさらされているウトロ地区。災害に遭わないことを目指すのではなく、いかに被害を軽減するか、というところに重きを置いているのがウトロ地区ならではの考え方で、「みんなが無事でいれば災害とは言わない。知床に魅力を感じてくれた人たちに被害に遭ってほしくない」ということばはとても印象的でした。一方で計画に携わっている人からは、「いかにこの取り組みを息の長いものにしていくかは課題だ」といった声も聞かれていて、計画の改訂や訓練などの実践とあわせて、若い世代を巻き込んで思いを引き継いでいくための取り組みも必要だと感じました。

2024年3月19日

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