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半導体人材が足りない!釧路で育成に力入れる高専

  • 2023年12月11日

かつて世界をリードした日本の半導体産業は今、凋落が著しい。“復権のラストチャンス”として官民が望みをかけるのが、千歳市で先端半導体の国産化をめざす「Rapidus」の工場新設だ。工場では1000人規模の人材需要が生まれているものの、人材の確保や育成が課題の1つに。そんな中、道東の高等専門学校が人材育成に本腰を入れはじめている。課題に向き合う最前線を取材した。(NHK釧路 梶田純之介)

初学者にも半導体の魅力を

釧路工業高等専門学校で今月4日に開講した授業「半導体工学概論」。急きょ開かれることになったこの授業には、学校側の予想を大きく上回る60人余りの学生が参加した。このうちの7割は、これまで半導体を専門に学んでいない学生だという。
この日学生たちが触っていたのは、半導体の材料となる「ウエハー」と呼ばれる板。実物に触れながら半導体がどうやって作られているのかを学ぶ。

授業ではおよそ3か月かけて、半導体の仕組みや製品への応用の現状を理解できるようになることを目指す。この授業を担当する大前洸斗講師は、半導体研究のおもしろさをわかりやすく学生にアピールしようと試行錯誤を重ねている。

釧路工業高等専門学校 大前洸斗 講師
「半導体の王様と呼ばれているシリコン。きれいな鏡に見えるけれど、もとを正すとその辺の地面に落ちているただの石ころなんです」

初回の授業は、学生たちの学習意欲をくすぐる内容だったようだ。

受講した4年生男子
「就職にしろ進学にしろ、半導体に興味があって、この先、絶対に必要になる技術だなと思って受講した」

受講した4年生女子
「授業では全然習ったことのない内容が、ぽんぽんぽんぽん湧き出るように出てきて、興味深い授業だった」

人材確保に課題

釧路高専が授業に力を入れる背景には、半導体人材の需要の高まりがある。

半導体は、家電やコンピューターなど、あらゆる電子機器に欠かせない部品だ。なかでも、近年注目されているのが、「先端半導体」と呼ばれるもの。回路の幅を、ナノと呼ばれる1ミリメートルの100万分の1単位で細くする「微細化」によって半導体の性能を高めたものだ。従来の半導体よりも計算のスピードが向上することから、スマートフォンやAIなどの最新技術を支えている。

先端半導体は、台湾や韓国、アメリカの企業が先行して生産開発を進めていて、日本はこれらの国からの輸入に依存している。この先端半導体の国産化を目指し、千歳市で進められている「Rapidus」の工場建設。工場では技術者500人から600人を含めて、1000人規模が勤務する見通しで、人材の確保と育成が急務だ。

これまで、釧路高専では就職先は半導体関連を除く製造業や情報通信業が中心だった。
卒業生150人余りのうち、半導体関連企業に就職する学生は毎年多くて3人程度。多いとは言えないのが現状だ。

その原因の1つは、半導体産業の魅力低下だった。

釧路工業高等専門学校 大前洸斗 講師
「2000年に入る前の段階では日本の半導体産業も非常に活気があったが、今はそうではないというのが現状」

また、半導体を本格的に学ぶには難解な知識を身につける必要があり、敬遠する学生も多かったという。高専が初心者向けの半導体教育を行う意義を、大前講師はこう強調する。

釧路工業高等専門学校 大前洸斗 講師
「中学校を卒業した若い子どもたちに、工学を5年間かけて教えられるのが高専の特徴だ。半導体の教育には非常に難しい数学や物理学の知識が必要だ。若い世代から工学の知識や技能を身につけられたら」

さらに若い世代にすそ野広げる

さらに、釧路高専では中学生向けの動画の制作も始めている。
動画に登場するのは「ペルチェ素子」と呼ばれる半導体。この半導体の片側を手で温め、もう片側を保冷剤で冷やすと、半導体から電気が生まれ、プロペラが回るという実験だ。

実験キットを中学生に送付し、配信動画を見てもらいながら一緒に実験を進めていく。およそ20人の中学生から、「配信を見たい」という希望が出ているという。子どものころから半導体に親しんでもらうことで、人材のすそ野を広げたい考えだ。

釧路は千歳に続けるか

道内には半導体関連企業がおよそ20社あるものの、釧路・根室地方にはまだ進出していない。これらの企業に就職する場合、釧路の学生は市外へ出なければならないのが現状だ。大前講師は今後への期待をこう話す。

釧路工業高等専門学校 大前洸斗 講師
「半導体市場の規模は、今現在どんどん急速に発展している段階だ。ラピダスが来ることで、千歳だけではなく、釧路市にも半導体の関連企業がどんどん進出してくれたら、釧路市の経済に対しても貢献できるのではないか」

半導体の材料の搬入や製品の搬出に便利な港や空港、それに工場用地となりうる広大な敷地など、良好な立地条件を持つ釧路市。高専の取り組みを機に、地元の人材が多数輩出される体制が整えば、釧路市は半導体の一大産地になれる潜在力を秘めている。

2023年12月11日

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