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「始まった部活動の地域移行」~先進地・伊達市の取り組み~

  • 2023年6月30日

国は今年度(2023年度)から、これまで中学校が行っていた休日の部活動を地域のスポーツクラブなどへ移行する取り組みを段階的に始めました。しかし、学校の教員に代わる指導者の確保や予算などの課題があり、なかなか進んでいないのが実情です。こうした中、伊達市では、いち早く地域移行のための組織を立ち上げ、すでに活動を始めています。「先進地」とされる伊達市の取り組みを取材しました。(室蘭放送局 小林研太)

そもそも「部活動の地域移行」とは?

これまで学校で行われ、顧問の教員が指導するのが当たり前だった部活動。しかし、少子化などの影響で、従来の形での部活動を続けることが難しくなってきています。そこで、学校と地域が連携し、部活動を地域のスポーツクラブなどに任せるというのが「地域移行」です。

去年(2022年)12月、スポーツ庁と文化庁は「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」を取りまとめました。それによりますと、「生徒の豊かなスポーツ・文化芸術活動を実現するためには、学校と地域との連携・協働により、学校部活動の在り方に関し速やかに改革に取り組み、生徒や保護者の負担に十分配慮しつつ、持続可能な活動環境を整備する必要がある」としています。今年4月から3年間を「改革推進期間」と位置づけ、部活動の地域移行を可能な限り早く実現することを目指すとしています。

受け皿となる地域のスポーツクラブ

北海道の太平洋側に位置し、比較的温暖な気候であることから農業が盛んな伊達市。このまちでは、道内でいち早く市の教育委員会が中心となって地域移行の取り組みを始めています。新たな運営形態による部活動を作るため、今年4月、受け皿となる総合型地域スポーツクラブが創設されました。

クラブは道内で唯一、伊達市で生産されている「藍」と「愛」を掛け合わせて、「みんなに愛される、みんなが愛するクラブ」を目指すことを目標に「伊達スポーツクラブ藍」と名付けられました。事務局は市のスポーツ協会が担い、市内の3つの中学校のバレーボール部や野球部、卓球部など11の競技をサポートします。

スポーツクラブでは、主に休日に各校の生徒を集めて合同での練習を行っているほか、指導者を学校に派遣する取り組みも行っています。このため、スポーツクラブの重要な役割の1つが指導者を確保することで、地域にいる競技経験者をリストアップし、打診しています。指導者には、報酬として時給1600円が支払われます。また、学校の顧問が、スポーツクラブが練習を担当する日に指導を行う場合には、ふだんの教員としての業務とは切り離し、「有償ボランティア」という形を取ります。人件費や施設を利用するためなどに、市は今年度予算に1800万円を盛り込みました。

伊達市が積極的に部活動の地域移行へ動き出した背景には深刻な少子化があります。市の教育委員会によりますと、市内の中学校の生徒数は、2001年(平成13年)の1081人からおよそ20年後の2022年(令和4年)には808人と、およそ25%も減少したのです。また、今後その傾向はさらに進み、6年後の2029年(令和11年)には619人と、さらに20%以上減る見込みだというのです。

このまま生徒数が減れば部員数も減少し、団体種目の部活動が成り立たなくなることが予想され、子どもたちが自分の好きなスポーツに打ち込むことができなくなると、危機感を強めているのです。

伊達スポーツクラブ「藍」 吉川修一 事務局長
「団体スポーツを維持するのがこれから難しいなっていう状況が分かってきたので、スムーズに移行できるように、何とか対応できないかということで組織を作りました」

バレーボールの現場では

スポーツクラブが行っているバレーボールの合同練習を訪ねました。伊達市には、伊達中学校と光陵中学校にバレーボール部があります。生徒たちはふだんはそれぞれの学校で練習に励んでいますが、週に1回、一緒に練習をしています。

伊達中学校の生徒は放課後に徒歩で市立の総合体育館に向かい、光陵中学校は下校に使うスクールバスを使って移動します。3年生がすでに引退した光陵中学校は、現在、部員が1年生と2年生合わせて9人。このため、紅白戦を行うこともできません。合同練習は、実戦形式の練習を通じて連携を確認するなど、貴重な機会になっているといいます。また、双方の生徒たちは交流を深めながら、他校から刺激も受けていると好評でした。

光陵中学校の生徒
「いつもできない練習とか、受けられないスパイクとかも受けられるから、すごく練習になっています」

合同練習で指導にあたるのは、スポーツクラブに登録した4人の競技経験者です。そのうちの1人、加藤智香さんはかつて国内トップの実業団チームでプレーしていました。こうした経験者からより専門的な指導を受けることで、生徒たちの強化につながることが期待されています。

加藤智香さん
「私も小さな頃からバレーをやってきて、これまでたくさんの地域の人に教えてもらってきたので、少しでもその恩返しができればということで指導することにしました。私のこれまでの経験が役に立つのであれば、どんどん教えていきたいと思っています」

伊達中学校の生徒
「攻撃面でもたくさん教えてもらえるので、自分の技術も上がってすごく良い練習になっています。光陵中学校の人とたくさん関わりあえるので、そういうところが楽しいです」

教員の負担軽減も

部活動の地域移行は、教員の負担を減らす狙いもあります。これまでは顧問の教員が指導にあたっていましたが、受け持つクラスの仕事もあるため、その負担が大きくのしかかっていました。しかし、指導の一部をスポーツクラブの指導者に任せることができるため、その時間をほかの業務や休みなどで有効に活用することができます。また、週末に地域のスポーツクラブの練習に携わる場合でも「有償ボランティア」という立場になるので、一定の報酬が支払われることになります。

光陵中学校 寺田環 教頭
「地域の指導者がついてくだされば教員がその日は休むことも可能なので、これまでよりは少し休日に休みを取ることができるようになってきたんじゃないかなと思います」

課題は指導者の連携

順調に地域移行が進んでいるように見える伊達市。しかし、今後の課題も見えてきました。

課題の1つは、部活動に関わる人が増える中で、いかにして緊密な連携を取っていくことができるかです。顧問の教員、地域の指導者、それにスポーツクラブの担当者などが、指導方針をしっかりとすりあわせるなどして、チームの強化を図っていかなければなりません。チームの目標や生徒一人ひとりの個性などをしっかりと共有していく仕組み作りも必要となりそうです。

また、教員の負担の軽減が十分ではないという指摘も出ています。例えば、練習時間が少なくなっても、外部の指導者との情報共有のための時間が必要となれば、その分の負担が加わり、業務量が大きく減ることにはなりません。さらに、大会などがあれば、現状では地域に任せるわけにはいかず、顧問が対応するというのが実情です。伊達市では、今後、こうした課題と向き合いながら、さらに地域移行の取り組みを本格化させていくことにしています。


取材後記

私も、もう30年近く前になりますが中学校でバスケットボール部に所属し、チームメートと汗を流していたひとりです。当時は生徒数や教員の負担など考えたこともありませんでしたが、そのような理由で部活動のありかたが大きく変わる時代に来ているのだと知り、取材を進めることにしました。

予算や指導者の確保などが容易ではなく、道内では、まだ地域移行の取り組みが広がっていないと言わざるを得ません。子どもたちにとっては、中学校の3年間というのは仲間たちと思い切りスポーツに打ち込むことができる大切な時間です。地域が一丸となって、子どもたちの環境を整えていくために、周りの大人たちも汗をかく必要があるのだと強く感じました。

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