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万年筆作りの熟練の技 工場見学に密着

  • 2024年05月09日

“ペン先の切れ込みを髪の毛の4分の1以下の細さに”
万年筆作りの職人技が間近で見られる見学ツアーが広島県呉市で始まりました。

(NHK広島放送局 呉支局記者 諸田絢香)

創業113年の老舗万年筆メーカーが、2022年に建て替えた呉市天応にある工場棟。

上から見ると“万年筆のペン先”。

正面から見ると“船”。社名にちなんだ形です。

これまでも近隣の小学生などに限って工場見学は行っていましたが、建て替えに伴って、多くの人に万年筆作りを知ってもらおうと見学コースを設置。2024年4月から一般向けに工場見学を始めました。

取材したこの日は、2回目の工場見学。地元の人だけではなく、万年筆収集が趣味で仕事を休んで東京から参加したという愛好家もいました。

工場見学では、金のペン先の製造過程を中心に、80分かけてじっくり見て回ります。見学するのは手作業で行われる10あまりの工程です。どの作業も一人前になるには数年かかる工程ばかりです。

こちらは、インクの伝う切れ目をペン先に入れる工程。薄い砥石(といし)を使って、一気にペンポイントの真ん中を貫きます。わずかなずれでも商品にはなりません。気が抜けない繊細な作業に、参加者も息を飲むように見守ります。

そして、書き味に直結するペン先の最終調整をする工程では、職人たちが顕微鏡をのぞき込みながら作業している様子を見学。職人たちが、ペン先の上下のずれや左右のわずかな隙間を、爪先を使って器用に整えます。ペン先の隙間を髪の毛の4分の1以下の細さにする繊細な作業で、万年筆の質を守るため、欠かせない工程です。

そして、万年筆の生産過程を学んだ参加者たちが最後に行ったのは、万年筆の試し書きです。
用意されたのは7種類の万年筆と、ボールペン。21金や14金といったペン先の材質が異なるものや、ペンポイントの形も丸形だけでなく、日本語特有のとめやはねをより美しく表現できる「長刀(なぎなた)研ぎ」によって作られたものなどがあり、書き味の違いが体験できます。

G7広島サミットで贈られた伝統漆芸万年筆

この中には、2023年5月に開かれたG7広島サミットで各国首脳にお土産として贈られた万年筆も。この工場の技術が集約されています。

万年筆メーカー 山口清猛さん
「素材としてはエボナイトですね。エボナイトの上に石目塗を施しています。ちょっと凹凸になっているのは乾漆粉といって乾燥した粉をパラパラまいて、さらに色漆を何度も塗って磨き上げた一品です」

参加者
「緊張しますね。触った時の質感がいいし、ペン先もすごく大きくて安定感があって、いい万年筆だなと思いますね」

参加者は職人の技に触れ、万年筆への愛着がより一層強まったようでした。

参加した親子
「より親しみがわいて、文具店で万年筆を見かけたらうれしくなると思います。ボールペンばかり使っていたので、これからは家にある万年筆を上手に使いこなしてみたいと思いました」

万年筆メーカー 山口清猛さん
「当社の発祥の地・呉からこういう万年筆が作られているということを広く皆さんに知っていただきたいです」

工場見学は毎週水曜日に5名限定で行われて、無料で参加できるということです。2か月前から電話で予約を受けていますが、4月と5月はすべて予約でいっぱいだということです。

  • 諸田 絢香 記者

    取材・構成

    諸田 絢香 記者

    2020年入局
    2022年夏より呉支局
    呉市のみならず、江田島市、竹原市、大崎上島町など広い地域を取材中

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