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オッペンハイマー 原爆開発の映画 被爆地広島どう受け止めるか

特別な試写会に秘められた思い
  • 2024年04月05日

<企画・動画>

2024年3月29日、映画「オッペンハイマー」が日本で公開されました。
第二次大戦中、アメリカで極秘裏に始まった「マンハッタン計画」を指揮した科学者・オッペンハイマーの栄光と没落を描いた物語です。
原爆開発から投下、さらにその後の苦悩をオッペンハイマーの目線で描いています。

映画「オッペンハイマー」 監督はクリストファー・ノーラン


この映画が全国公開される前の3月12日に、広島市内の映画館で試写会が行われました。試写会には100人以上の高校生や大学生が招かれました。

原爆開発を扱った映画を、広島の地でどう受け止めたらよいのか。特別な思いでこの会を企画した人がいます。
広島市出身の映画人・部谷京子さんです。

試写会を企画した部谷京子さん  広島市出身の美術監督

広島で生まれ育った者として、この作品をどう見ればいいのか。皆さんそれぞれがこの映画を見てどこの部分に何を感じるか。

部谷さんは映画のセットなどをデザインする、この道47年の美術監督。「Shall we ダンス?」や「それでもボクはやってない」など日本を代表する数多くの作品を手がけています。

力を入れているのが、原爆や平和に関わる作品の制作です。
しかし、若い頃はあえて平和に関するテーマから距離を置いていたといいます。

小学校の頃は、原爆の実相に触れるたびに本当に怖くて怖くてしかたなかったんですね。
近所のおばちゃん、おじちゃんの頭皮が真っ黒だったりとか、小学校でもケロイドのお母さんがいらしたりとかいっぱいありましたから。
そういう方たちとの向き合いを恐れて、逆に言うと私は広島を逃げ出しちゃったんだなというふうに思って。

初めて原爆をテーマにした映画に関わったのは、キャリア24年目。
原爆の影響で苦しむ家族を描いた作品「鏡の女たち」の制作に美術監督として携わりました。
広島、そして被爆の実相に真正面から向き合うことで、映画人としてのあり方を大きく揺さぶられました。

私は今まで何てことをしていたんだろう。向き合ってこなかったこういう人たちと。そのことを反省もし、やっぱりちゃんと向き合っていきたいな、これからはと思って。

以来、広島で映画祭を主催するなど広島や平和への思いを伝えてきた部谷さん。
今回の映画「オッペンハイマー」にどう向き合うかは、自らを問われる難しいものでした。

映画の中で、原爆が完成していざどこに落とすかみたいな話になったときに出てくる広島 長崎という地名を聞いたときには、本当にスクリーンを見ながら涙が出ました。
標的が広島 長崎になってしまったということを現実としてまざまざと映画で見せられると、「ああ、広島の人は全然知らんところでこういう話がされとったんじゃな」と思って。

アメリカが原爆投下に進む道のりをまざまざと見せつけられる映画。
しかし、そこから目を背けるのではなく、この映画から何を考えるか、若い世代と問いたいと部谷さんは動き始めました。


去年から準備を重ね、迎えた試写会当日。広島の若い人たちは、何を感じるのか・・・。
 

議論を深めたいと部谷さんが声をかけたのは、元広島市長の平岡敬さん。
核兵器廃絶を訴えてきたアメリカ出身の詩人、アーサー・ビナードさん。
呉市出身の映画監督、森達也さんです。

元広島市長 平岡敬さん
核兵器廃絶を訴える詩人・作家  アーサー・ビナードさん
呉市出身の映画監督 森達也さん

3時間におよぶ映画「オッペンハイマー」の鑑賞後、ディスカッションが行われました。
まず平岡敬さんから指摘されたのが、「映画の中で被爆の実相がほとんど描かれていない」ことでした。

私は広島の立場から、原爆の恐ろしさ、核兵器の恐ろしさというのがまだ十分に描かれていないんじゃないかなと思っています。

広島を何とも思ってないんですよ。長崎も何とも思ってない。
この映画を通じて、僕らが核開発の残酷な流れに立ち合うことができるんですね。

会場の高校生からも声が上がりました。

自分が知っていた事実には欠けている視点だったりとか、まだまだ知らないことがたくさんあるなということを改めて思い知らされたような感じがしました。

森達也さんが答えます。

いろんな視点、アメリカ人が日本に来て日本側の視点を知れば、それはもう全く考えが新たになると思うし。若い世代に伝える。あなた方は若い世代なんだから、皆で共有してどんどん広めてください。

高校生から、平和に関する問いがありました。

どうやったら核なき世界が訪れることが可能になるのか?

広島の惨劇を伝え続けるしかないと思いますね。

先へ先へと進む中で、歯止めをかけるのは非常に難しい。
「核は必要ない」っていう自分にならなきゃいけない。

試写会終了後。参加した高校生がNHKのインタビューに答えてくれました。

やっぱりすごく心苦しいところが多くて、「日本とはこんなにも価値観の違いがあるんだな」というふうに改めて感じました。
その価値観を知った上で、もっと世の中が平和になっていくにはどうすればいいのか。

この試写会を経て、周りの人を大切にしようと思いました。
僕は高校生でいろんな考えを持った同級生がいるんですけど、やっぱり意見の衝突があるんですよ。
お互いを理解し合うっていうそういう関係を大事にしたいなと思いました。

オッペンハイマーの目線から描かれた原爆。
この映画を受け、広島から平和をどう伝えていくか、部谷さんは思いを新たにしています。
 

今自分がいるところだけではなくて、それを取り巻く国。広島があって、それを取り巻くアメリカという環境があって、原爆投下その直後のことがあったということを考えると、アメリカを知るというのは広島を知ることでもあると思います。
確かに広島 長崎の実相というのは描かれてはいないんですけど、今思うのは、逆に言うと「そこの部分はお前たちが描いてほしい」って言われているような気がして。その先、キノコ雲の下で何があったかということに関しては我々が託されているなというような気持ちがしています。

【制作】
奥翔太郎・中原健仁 (NHK広島)

 

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