災害時の孤立可能性集落 広島で700か所超 必要な備えは?
- 2024年04月11日
能登半島地震で課題となった集落の孤立。山がちな地形が広がる広島でも、過去の豪雨災害などでたびたび集落の孤立が発生していて、ひと事ではありません。どう備えればいいのか。孤立を経験した被災者や自治体に取材しました。
(広島放送局記者 大石理恵 橋本奈穂)
「逃げられる状態ではない」
実際に孤立を経験した人が、10年前の土砂災害の被災地にいます。2014年8月20日。山あいに集落が点在する広島市安佐北区の大林地区では、土石流が発生し川の護岸が崩壊。この地区では幸い亡くなった人はいなかったものの、道路が寸断されて複数の集落が孤立しました。当時、孤立状態となった蔭田浩之さん(63)は、自宅で寝ていたところ、深夜にすぐ裏の谷で土石流が発生し、大量の土砂が襲いました。直径70cmを超える流木も自宅の壁を突き破りました。
蔭田浩之さん
「バリバリと大きな音がして、雷かと思って起きて見たら、一抱えぐらいある流木の根元が家の中に入っていました。外を見ると、土砂と流木が2階の窓の下くらいまで押し寄せていました。これは早く逃げなければと思ったけど、表を見たら逃げられる状態ではありませんでした」
孤立状態は3日間続いた
蔭田さんの自宅からふもとに降りる道路は、大量の土砂や流木でふさがり、一家は逃げ場を失いました。母親と子どもはその日のうちにヘリコプターで救助されましたが、蔭田さんは妻とともに自宅に残り、孤立状態は3日間続きました。電気が止まり、ふだん使っている井戸水も飲めない状態でしたが、近所の人の助けもあってなんとかしのぐことができたそうです。
被災後、大林地区では、住民が孤立対策などを広島市に要望。高台の住宅団地に避難するための道路も新たに建設されました。
水・食料の備蓄は1週間
蔭田さんの自宅の近くでも道路の改良が行われましたが、それでも蔭田さんは、再び逃げ場がなくなる事態に備えて、水や食料を備蓄しています。自宅の保管スペースの一部には、米や水、ジュースやインスタント食品、ガスボンベや水を入れる容器、ヘルメットなど様々なものが備蓄されていました。集落で高齢化が進んでいることもあり、近所の人の分も多めに備えているといいます。
蔭田浩之さん
「10年前の土砂災害では3日間くらい不便したので、いざという時、孤立しても1週間分ぐらいは食べられるようにしています。当時と比べて、近所の人も高齢になっているので、手助けが必要な人がいる場合は、そちらにも食料など必要なものを回せるようにしています」
“孤立集落”広島は全国4番目
ここで、集落の孤立に関するデータを1つ、ご紹介します。災害時に道路が寸断されるなどして孤立する可能性がある農業集落は全国で1万7000か所以上。都道府県別に見ますと、長野県で最も多く、広島県は729か所と全国で4番目に多くなっています。
面積の約80%を山地が占め、土砂災害の危険のあるか所がおよそ3万2000と全国で最も多い広島県。やはり災害時に孤立する可能性のある集落も多くなっています。
ドローンを防災に活用
こうした中、災害時に孤立集落を出さないよう、対策を進めている自治体があります。広島県東部の神石高原町です。6年前の西日本豪雨の際、町によると、町内の1300か所以上で土砂災害が発生して35路線の道路が通行止めになり、3つの集落が孤立しました。
しかし、当時、職員は避難所の開設などで手いっぱい。被害の全容を把握するのも難しく、何から手をつけていいのかもわからない状態で、孤立集落への対応は後回しにせざるをえなかったといいます。そうした中、西日本豪雨のあとに町が取り込んだのがドローンを使った防災です。物資の輸送や避難誘導、被災か所の確認を、人の代わりにドローンに行ってもらうものです。
住民が「担い手」に
この事業の中では、ドローンの操縦を、住民にも担ってもらうことにしました。町が、ドローン関連企業などと立ち上げた共同事業体が、操縦に必要な資格の取得や操縦の訓練のサポートを行います。災害が起きたときには町と協力して対応にあたってもらう仕組みです。これまでに、26人の住民がドローンの操縦ができるようになりました。ドローンを使った大雨の後の状況調査や、行方不明者の捜索にも、ボランティアで参加してくれているといいます。
担い手の住民
「もし神石高原で災害が起きたらいち早く対応できるように僕たちも訓練していますし、技術もあるので、ぜひ災害時にはドローンを使っていきたいと思っています」
自分たちの町は自分たちで
町は今後、ドローンを「普段使い」することで災害時に備えたいとしています。買い物が難しい高齢者への食事の輸送や、イノシシの駆除などの日々の課題の解決にもドローンを使うのです。こうしたことで操縦の技術を磨き、災害時にも備えられるようにしようとしています。
町は、自分たちの地域で起こった災害に、町と住民が協力して対応していけるような仕組み作りをすすめています。
神石高原町 未来創造課デジタル推進室 中野達也係長
「中山間地域はインフラも整備されていない地域が多数あるので、自分たちの町は自分たちの力で守っていかなくてはいけない。災害対応は行政だけでやるとか、町民に任せるというんじゃなく、両輪でやっていけたらいいかなと思っています」
救助が入らない恐れも
地域の防災対策に詳しい専門家は孤立状態が長く続く事態に備え、できれば1週間分の食料や水を備蓄してほしいと呼びかけています。
広島経済大学 松井一洋 名誉教授
「大災害が起こると、道路が寸断され、燃料も電気も通信も途絶える恐れがあり、かつ、そう簡単には救助の手も入らないということをしっかりと覚悟しておいたほうがいいと思います。南海トラフ巨大地震もそうですし、活断層などによる地震もそうです。孤立状態となってもそこでしばらく自立して生活をしなければいけないということを前提に対策をとってもらいたいです」
今できることから
地震や豪雨など、あらゆる災害で想定される集落の孤立。能登半島地震は、その現実を改めて私たちに突きつけました。
もし孤立してしまっても、そこで命をつなぐために、日頃から自分ごととして捉えて、いまできる準備をしておくことが大切だと改めて感じました。