卵アレルギーの人も食べられる?広島で進む卵の研究を取材した
- 2024年04月08日
目玉焼きにオムレツ、だし巻き卵など、様々な料理に使われ私たちの食卓に身近な卵。広島大学では、卵アレルギーの人でも、加熱することで食べられるようになる卵の研究を進めています。どんな卵なのか、研究の現場を取材しました。
(広島放送局記者 大石理恵)
“やっかいなたんぱく質”が含まれていない
取材に訪れたのは、東広島市にある広島大学大学院統合生命科学研究科の堀内浩幸教授の研究室です。
ここで研究しているのは、卵アレルギーの主な原因となるたんぱく質を含まない卵。11年前から、大手食品メーカーなどと取り組んでいます。
消費者庁の全国調査によりますと、食物アレルギーの原因として最も多いのが鶏卵で、全体の3割以上を占めています。小さな子どもに多く、重篤な症状が出ることもあります。
原因となるのは、卵に含まれる複数のたんぱく質で、とりわけやっかいなのが「オボムコイド」です。熱に強く、加熱してもアレルギーを引き起こしてしまうためです。
堀内さんは「オボムコイド」を含まない卵なら、加熱することで、卵アレルギーの人でも食べられるようになると考えました。
ゲノム編集で実現
それを実現したのが、「ゲノム編集」と呼ばれる、DNAの配列を編集し、生物の遺伝情報を書き換える技術です。一般的に外来の遺伝子を入れる「遺伝子組み換え」とは異なり、狙った遺伝子だけを働かないようにすることができるといいます。「オボムコイド」という遺伝子がある部分だけを狙ってハサミを入れる、そんなイメージだそうです。
具体的には、精子や卵子になる前のニワトリの細胞にゲノム編集を加え、オボムコイドを作らせないようにします。そうしてできた細胞を、別の受精卵に入れてふ化させます。その後、成長したニワトリを複数回、交配させることで、体内でオボムコイドが作られないニワトリが誕生します。これらが産んだ卵にも、すべてオボムコイドが含まれていないといいます。
堀内教授
「どんなに調べてもオボムコイドはできていません。遺伝子の段階で除いているため、そのニワトリから作られることは一生ないんです」
見た目や味、安全性は
ただ、これらの卵には、オボムコイド以外の、アレルギーを引き起こすたんぱく質は含まれたままです。そのため、卵アレルギーのある人に提供するには、加熱が欠かせないといいます。
では、見た目や味はどうなのか。ゲノム編集の卵をフライパンで焼いた目玉焼きを試食させてもらったところ、普通の卵と変わりませんでした。
一方で気になるのは、やはり安全性です。ゲノム編集の卵を食べることのリスクはないのか、堀内さんに聞いてみました。
堀内教授
「オボムコイドのところにだけに変異が入っていて、それ以外は普通のニワトリと何も変わりありません。『オボムコイドに変異が入ることで変なたんぱく質ができるんじゃないのか?』という部分については、生物学的に化学的にも、変なものは作られていないということを全て証明しています」
実際に食べてもらう臨床研究も
この卵は、神奈川県の病院で臨床研究に向けた準備が進んでいて、今後は、卵アレルギーのある人に実際に食べてもらい、有効性を確かめることになっています。堀内教授によりますと、ゲノム編集で開発されたオボムコイドを含まない卵の臨床研究が行われるのは世界で初めてだということで、内容について十分に説明し、理解が得られた人に対して行われることになっています。
堀内浩幸 教授
「卵アレルギーのお子さんを持っている家庭は卵製品が消えてしまう。だからこそ、そうした人たちの社会生活の向上につなげることを目指しています。実用化すれば、食生活の向上に貢献できると考えています」
実用化のめどは5年後
実は堀内教授のお子さんも卵アレルギーがあり、食材に卵が含まれていないか、日頃から注意を払っているそうです。そうした経験もあって、卵アレルギーのある人の生活の質を改善したいと開発に取り組んできたといいます。これまで卵を食べられなかった人たちの、食の選択肢を広げると期待されているこの研究。今後は、5年後をめどに、ケーキのスポンジなどの加工品として一般に販売することを目指すということです。実用化に向けた今後の研究にも、引き続き注目していきたいと思います。