ページの本文へ

ひろしまWEB特集

  1. NHK広島
  2. ひろしまWEB特集
  3. 衛星写真で迫る ロシアの“核戦略”

衛星写真で迫る ロシアの“核戦略”

  • 2024年04月10日

3月、“圧倒的な得票率”で再選したロシアのプーチン大統領。ウクライナでの戦争が長期化する中で、支援を続ける欧米側などに対して繰り返してきたのが、核兵器による「脅し」です。その核を使って、プーチン大統領は今後どのような戦略を描いているのか。最新の分析から新たな動きが見えてきました。

(NHK広島放送局ディレクター 宮島優)

衛星写真の分析などから、ロシア軍の実態に迫ってきた東京大学・先端科学技術研究センターの
小泉悠准教授です。

小泉さん
「実際の核使用にはいかない形でどうやったら脅しのメッセージを出せるかということを、すごく一生懸命やっているように思います。いろんな核のメッセージングの方法はあるので、この意味でも冷戦時代に比べて想定すべき状況の幅は広がっている」

核兵器の使用を示唆する「脅し」とともに始まった軍事侵攻。その後、ロシアはアメリカとの核軍縮条約の履行を停止しました。去年3月には、局地的な戦闘での使用を想定した「戦術核兵器」をベラルーシに配備するという方針を発表。緊張を高める行動を繰り返してきました。

小泉さん
「ひとつ怪しいと言われているのが、この弾薬庫。これはベラルーシのアシポビチというところにある、大きな弾薬庫なんです」

小泉さんが定点観測を続けているのが、ベラルーシの中央に位置する、こちらの弾薬庫。
最近、この場所で大きな変化があったといいます。

小泉さん
「この辺は森で覆われているんですよ。ところが、最新のことし2月時点の画像をみてみると、切り開かれている。明らかにインフラの形態が変わったということですね」

Satellite image ©2024 Maxar Technologies.

これは、ベラルーシへの戦術核の配備が発表される半年以上前の写真。

2月撮影/Satellite image ©2024 Maxar Technologies.

一方、2月に撮影された写真では、弾薬庫に「新たな区画」が整備されたことがみてとれます。

さらに注目したのが、区画を囲う警備用のフェンス。
レーダー衛星が捉えた画像では、去年9月の時点で「2重」だったフェンスが、11月には「3重」へと強化されていたことがわかったのです。

小泉さん
「ソ連時代からの特徴で、核弾頭なんかを保管している施設は、フェンスを2重ではなく3重にするという基準が設けられていたんですね。その点からしても、この施設は核弾頭か、それに準ずる重要なものが配備されたんじゃないかなと思っています」

着々と核戦力の増強を図ってきたとみられるロシア。去年11月には、あらゆる核爆発実験を禁止した「包括的核実験禁止条約」の批准を撤回しました。そして小泉さんが次なる段階として注視するのが…。

小泉さん
「次の核のメッセージングとして、核実験に関する関する何らかの行動、ここをまず私は非常に注目しています」

いま観測に力を入れているのが、北極海に浮かぶ「ノヴァヤ・ゼムリャ島」です。かつてここは、カザフスタンのセミパラチンスクに継ぐ、ソビエト第2の核実験場があった場所。1990年まで、ここで130回を超す核実験が行われました。30年以上ほとんど変化がなかったこの島で、去年、新たな動きがあったといいます。

小泉さん
「これは侵攻の前ですね。本部はここにある。かろうじて人間が住むための建物と研究をするための施設があって、本当は桟橋があったんですけど、たぶん嵐で半分になったやつが沈んじゃってますね」

ウクライナへの侵攻以前は、壊れていた港の埠頭。去年8月に撮影された写真では、埠頭は修繕され、船が横付けされている様子が見て取れます。

さらに、本部施設の建物にも、変化がありました。
侵攻以後、新たに巨大な施設が建設されていたことがわかったのです。

3月上旬

こちらは、3月上旬、NHKが独自に入手した最新の写真。全体が雪に覆われている一方で、新たにできた建物周辺や道は除雪され、人が活動している形跡がうかがえます。除雪された道は、過去に核実験が行われた地下トンネルの手前まで続いていることが確認されました。

小泉さん
「明らかに道路は除雪されている。これから先、核実験を行うテストサイトでも何かが起きる可能性は低くないと思うので、そこを注視していかなければいけない」

ロシアが核実験を再開するならば、その狙いはどこにあるのか。

小泉さん
「ロシアが核実験をしたと言ったときに、西側の中でこれを非常に大きく受け止める声が間違いなくあると思うんですよ。ウクライナなんかに肩入れするせいで、ロシアと核戦争の危機になってしまう、どうしてくれるんだ、と。そういう政治的な狙いを持って、ロシアが例えば核実験をするとか、核実験の再開を宣言するとか、そういうことはしてもおかしくないと思いますね」

もし実験が再開されれば、核軍縮をめぐる国際的な枠組みは、ますます形骸化が進むと小泉さんは危惧しています。

小泉さん
「核を持っていい5か国も、自分たちの核を削減するための誠実な努力を負う義務というのがある。核実験再開というのは、その誠実な努力をしてないんじゃないか、というふうに見えてしまう。その状態で、例えばNPT(核拡散防止条約)を盾に、イランや北朝鮮に核兵器を持つなと言っても、これは説得力がない。たがが外れてしまう可能性があるわけで、その意味でもこれは非常にまずい動きですよね」

小泉さんは、衛星写真を使ってアメリカや中国の核実験場跡地なども調べていて、この2か国でも新たな動きが確認されているということです。今後、核大国の水面下のにらみ合いも含め、注視していきたいと話していました。

  • 宮島優

    NHK広島放送局ディレクター

    宮島優

    2012年入局。 山口局、報道局を経て、2022年、広島局に赴任。 主に原爆関連の取材を担当。ことしの目標は、ソロキャンプ。

ページトップに戻る