ひろしまの逸品⑤“木のぬくもり”宮島杓子
- 2023年03月24日
G7広島サミットをきっかけに、世界の人に知ってもらいたい地元のすぐれた逸品を紹介する「ひろしまの逸品」。今回は廿日市市の宮島で生まれた「宮島杓子」です。
NHK広島放送局記者 小野慎吾
島の人々のために
木のぬくもりを形にした「宮島杓子」。木の素材の良さを生かした「宮島細工」のひとつで、一般的には“宮島のしゃもじ”として知られています。
その歴史は古く、江戸時代後期の1800年ごろに宮島在住の僧、誓真が考案したとされています。篤志家として知られた誓真。宮島の人々の暮らしが豊かになってほしいという願いを込めて、特産品として考案し、島の人々に製造技術を伝えたと言われています。初めは縁起のいい土産物として定着し、その後は日用品として普及しました。一時は島内に300人ほどの「宮島細工」の職人がいたとも伝えられています。しかし、近年はプラスチック製品の普及もあり、造り手は減少しています。「宮島細工」の組合に加盟している「宮島杓子」の生産者は、今では2軒だけとなりました。
製造の現場では
その1軒が宮島の対岸、廿日市市深江にある工場。木のぬくもりと手触りのよさにこだわった製品作りが続いています。
<倉本杓子工場・倉本充明代表>
「やっぱり一番言われるのは、持った時の感触がいい、肌触りがいいと。持った時に、あたたかみを感じるんですね。長年使っていく中で、自分の道具として、1つの自分の楽しさというか、心の余裕というか、そういったものを感じてもらえるようなものかなと」
こだわりの工程
その工程にはこだわりが詰まっています。最初の型取りでは、材木の表裏を何度も確かめながら枠を書き入れていきます。材木ごとの癖を見極めて、傷や変色がない部分を使うためです。この見極めが、最終的な品質も左右するといいます。
そして、サンドペーパーを使った仕上げ。最初は粗いペーパーを使って形を整え、目の細かいペーパーに次々と変えて磨きます。何度も何度も磨き上げることで、滑らかな手触りの「宮島杓子」が生まれるのです。
<倉本充明代表>
「これだけ磨き上げているものはあまりないと思います。何か塗ってるのかとよく聞かれるんですが、生地のよさと木の質を、磨き上げることによって引き出しています」
さまざまな調理器具にも
木のぬくもりは、さまざまな調理器具に広がっています。こちらは、卵焼き用のフライパンの形に合うように作られたヘラ。ほかにも炒め物やジャムを塗るためのヘラなど多種多様な製品づくりが行われています。倉本さんは「時代とともにいろいろと変化し、また伝統が出来上がっていくのではないかと思います」と話しています。
<倉本充明代表>
「島民のため、広くは多くの人々のためという思いの中から生まれてきた宮島細工、宮島杓子。そういったものを世界に、と言うとちょっと大きいかもしれませんが、G7広島サミットはしっかりとPR、表現できる、いいチャンスじゃないかなと感じています」