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スポーツ実況は「終わりなき旅」 武本大樹アナ 仕事の流儀

  • 2023年03月03日

野球やバスケットボールなどさまざまな試合の実況をするスポーツアナウンサー。広島放送局の武本大樹アナは、どんな準備をして実況に臨むのでしょうか。「実況は終わりなき旅」と語る武本アナ。2月12日の広島ドラゴンフライズの実況から、その仕事の流儀に迫ります。

▽2月12日にドラゴンフライズの実況を担当しましたね。見どころはどこでしたか?

ドラゴンフライズは初のプレーオフ進出、初優勝も狙える順位につけています。今シーズンのドラゴンフライズは、「スピード感のあるバスケット」を目指してきました。高さとスピードを兼ね備えたエバンス選手やブラックシアー選手が加わり、キャプテンの辻選手のスリーポイントもさらに生きるようになりました。対する群馬もリーグ屈指の得点力のあるチームで東地区の上位。群馬もプレーオフ進出に向けて負けられない試合でした。
解説は、元日本代表・ポイントガードの節政貴弘さんだったので、チームの司令塔がどう試合をコントロールするのかにも注目しました。
ちなみに放送席の私の隣にいるのは、“サイド”の佐藤洋之アナウンサーです。“サイド”とは、得点経過などのスコアを付けると同時に、万が一、実況者が間違ったことを言ってしまった場合に即座に気付いて訂正させるチェッカーの役割も果たす、大事な仕事です。佐藤アナのようなベテランがサイドを務める場合もありますし、若手のアナが務める場合は、先輩がどんなところを見て実況しているか、どんな資料を作っているのかなどを一番間近で見られる貴重な仕事でもあります。

(左から)解説・節政貴弘さん、実況・武本、“サイド”・佐藤アナ

▽バスケットボール実況のおもしろいところは?難しいところは?

「たくさん点が入る」ところだと思います。私は子どもの頃から野球に親しんできて、今は実況することが最も多いスポーツです。野球は確かに満塁ホームランもあって、2桁得点の試合になることもしばしばで「点取りゲーム」と言われます。ですが、50点、60点入る試合というのはほぼお目にかからないですよね。でも、バスケットボールでは負けたチームが60点台、ということもよくあります。ですから、放送では「点取りゲームの面白さ」を伝えると同時に、「点取りゲームの中で勝負を分ける守り」に注目するように心がけていますが、これが本当に難しいです。1試合で両チーム合わせて200本近いシュートが飛び交うので、それを実況することに精一杯になり、どこが試合を分けたのかを伝えるのが本当に難しいスポーツだと思います。試合を分けるポイントを解説者と一緒に先読みしながら、1本1本のシュートも大切に実況していく。その理想を追い続けています。

▽どれくらい前から、どんな準備をしていますか?

来週、実況があるからこれをやっておけばいい、というフローは本当にないんですよ。1試合の実況をするということは、野球なら約3時間、バスケットボールなら約2時間、原稿のない世界でしゃべらないといけないわけです。私は小心者なので、いまだに「しゃべることが何もなくなってしまったらどうしよう」「万が一、声がでなくなってしまったらどうしよう」と夜も寝付けないことがあります。でも、放送が始まりFU(マイクをオンにする装置)を上げたら、試合の中に入り込んでいて、気がついたらFUを下げているという感覚なのですが(笑)。
野球でもバスケットボールでもプロの試合を実況するということはより責任が伴うとも考えています。生活がかかっている人たちの“仕事”を私たちは実況することになります。すべてを知ることは難しいですが、選手やチームが取り組んできたこと、シーズンの流れは最低限把握して放送席につかなければいけないと思っています。ですから、シーズンを通して記録を付けていきますし、練習にもできるかぎり通ってチームや選手の変化を見るようにしています。

Bリーグの帳付け(B1の24チームの記録をつけていく)
実況資料は“お守り”(試合中は目を落とす余裕はほとんどありません)

▽どのスポーツの担当か、決まっているんですか?

NHKのスポーツアナウンサーは、「野球」「サッカー」「大相撲」のうち、どれかひとつの専門を持っています。広島放送局で言えば、佐藤洋之アナウンサーは大相撲、佐々生佳典アナウンサーはサッカー、高木修平アナウンサーと私は野球です。
でも、どのスポーツを専門にしている人も最初は高校野球です。初任地の時に初めて高校野球のラジオ実況をして、そこからすべてがスタートします。その後、まず目指すのが甲子園のラジオ。だいたい7年、8年かかります。私の場合は、7年目の春でした。ラジオを経験すると、今度は甲子園のテレビ。これは約10年かかります。私は広島に来てからようやく去年、11年目の春に担当することができました。甲子園のテレビ実況まで経験してようやく「スポーツアナウンサー」のスタートラインに立つことができます。
私たちが甲子園で実況する試合は、組み合わせが決まる前に先に担当が決まるので、必ずしもふだん勤務地で取材しているチームではありません。短時間の取材や準備で放送に臨まなければなりませんし、甲子園はとても速いテンポで試合が進みます。基本的な描写の力がなければあっという間に取り残されてしまいます。そのような条件の中で、試合に入ってから見どころを見つけ、解説者と深めていくという作業がどのスポーツを実況するうえでも大切になる、と考えられているのではと思っています。これはあくまで私の想像ですが…。

▽武本さんにとってスポーツ実況とは?

若輩の私がこんなことを言うのもおこがましいかぎりですが、「終わりなき旅」だと思っています。「今回は勝負のポイントだけは絶対に逃さないようにしよう」「取材してきたこれは必ず伝えたい」など、毎回テーマを持って放送に臨んでいます。でも、やろうと思っていたことができると、今度は前回できていたことができていない。そういうことの繰り返しです。大先輩のアナウンサーに話しても「それは何年たっても変わらないよ」とのこと。
それから、スポーツアナウンサーは「スーパーマン」でなければできないと思います。一番身近にいる佐藤洋之アナ、佐々生佳典アナ、高木修平アナを私はとても尊敬しています。佐藤さんであれば年6場所の大相撲に加えて、テニス。オリンピックとなればアーチェリーや空手。佐々生さんはサンフレッチェを追いかけながら、カーリングやジャンプも。2022年12月、サッカーワールドカップの日本対スペインのラジオ実況は佐々生さんです。あの歴史的な勝利を東京から実況したんです。高木さんはカープを私と一緒に見ていきながら、卓球や競馬。もちろんふだんのニュースや泊まり勤務、企画や番組づくりなど様々な仕事とともにスポーツ中継の仕事があります。一体いつ寝ているんだろうと思います。少しでも先輩方に近づけるようもっともっと精進しなければいけません。
最後に、毛利元就の「三本の矢」の逸話が私は大好きです。広島放送局のスポーツアナウンサーも「四本の矢」となり、これからも広島のスポーツを伝えていきたいと思います。

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