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熊本地震 第2回 どうやって命を守るのか

2016年06月03日(金)

 

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WebライターのKです。

震災関連死を防ぐためには、どのような工夫が必要とされるでしょうか。

今回の熊本地震の大きな特徴は、度重なる余震の多さにあります。倒壊を恐れて避難所の建物内に入らず、車中泊が多いのは、過去の新潟県中越地震のときと共通します。そして、あのときと同様に、今回もエコノミークラス症候群の患者が報告されています。

エコノミークラス症候群は、飛行機や車の中などで長時間同じ姿勢でいると、足の血液の流れが悪くなり、血栓(血の塊)ができて、それが血管を通じて肺の動脈まで運ばれ、気分が悪くなったり、最悪の場合、血管が詰まって亡くなってしまうというものです。高齢者はとくにリスクが高いとされています。

車中泊だけが原因ではなく、避難所でも体を動かさず、座ってばかりいると発症しやすくなります。また、飲み水が不足して脱水状態になったり、トレイの回数を減らすために水分補給を控えたりすることで、血液が濃縮されて、血栓ができやすくなることも知られています。東日本大震災でも、地震の発生から4か月後までに宮城県内の32か所の避難所で検診したところ、足の血管から血栓が発見された人が190人見つかったという報告があります。

 

20160603_003.jpgこのような震災の二次的な被害を防ぐには、災害派遣されている医師や看護師、保健師などが巡回し、注意を呼びかけたり、体調が悪くなっている人がいないかなどの確認が必要になります。長時間同じ姿勢を取らないことや足の運動やマッサージでも予防は可能で、小まめな水分補給も効果的です。被災者同士も声をかけ合い、注意を喚起し合うことが求められます。

また、東日本大震災の際には、肺炎で亡くなる高齢者が急増しました。今回の熊本地震でも、すでに熊本市内の病院で、昨年の2倍の入院患者が確認されています。肺炎は細菌が肺に入って、炎症を起こすもので、避難所の不衛生な環境やストレスによる免疫力の低下などによって急増し、震災関連死の大きな原因のひとつとなっています。とくに懸念されるのは、高齢者による誤嚥性肺炎です。食べ物や飲み物、唾液や胃液などとともに細菌が気管支に入り、炎症を起こす肺炎で、死に至るケースの95%は65歳以上の高齢者になります。

東日本大震災の際には、気仙沼の歯科医師グループが口腔ケアを広めることで、肺炎の発症を抑えたことが、後に知られるようになりました。被災後は水が貴重品となるために、水分を取る機会が減り、歯磨きなどもおろそかになることから、口の中で細菌が繁殖しやすくなります。防止策として、ウェットティッシュなどを使って、乾いた口の中を湿らしたり、布で歯や入れ歯の汚れを取ったり、あごのマッサージによって、唾液の分泌を促すことなどが奨励されたと言います。水不足が解消されていれば、水分をこまめに取り、口の中を乾燥させないように心がけるとともに、歯磨きを普段通りに欠かさないことで清潔さを保つことができます。また、寝たきりの姿勢を続けないことで、胃の内容物や胃液の逆流などのリスクを低めることもできます。避難所はふだんの生活よりも病気のリスクがずっと高くなるだけに、そのような健康への心配りがいつも以上に大切になります。

東日本大震災の仮設住宅で暮らす高齢者に多く見られることから、現在対策が求められているものとしては、「生活不活発病」があります。エコノミークラス症候群と同様に、動きの少ない生活が原因として発症する病気で、専門家によれば、体を動かさなければ避難所生活の1週間ぐらいでも、それまで普通に歩けた人が手をつかないと立てなくなるなど、筋力や神経系の衰えが急速に進むことがあると言います。

ハートネットTVでは、昨年放送した東日本大震災の検証番組の中で、もともと体が不自由な70代の男性が、周りの迷惑になるからと避難所内での活動を控え、生活不活発病を発症し、寝たきりの状態になってしまった事例を紹介しました。

この番組のなかで、「生活不活発病」の予防に取り組んでいる産業技術総合研究所の医師の大川弥生さんは、避難生活で「すること」「したいこと」がなくなることが、生活不活発病を招く原因になると指摘しています。命は助かっても、「仕事、買い物、家事、人との交流」などの生活を失うことで、活動の機会が少なくなり、気がつかないうちに心身の機能が急速に衰えていくと考えられています。


20160603_002.jpg今回の地震で、西原村の通所施設「のぎく荘」を管理する社会福祉協議会の職員は、ふだんの利用者に新たな避難者も加わったことで、職員の手が回らず、食事・排せつ・入浴の介助で手いっぱいとなり、高齢者の生活への配慮が手薄になってしまっていることを嘆いていました。そして、話をしたり、歌を歌ったり、心の交流をしてくれるボランティアを求めていました。

高齢者にとっては、ごくふつうの生活が健康を支えるもとになっています。避難所は危険を回避するためのものですが、活動が制限される高齢者にとっては健康を損なうリスクをもった場所でもあります。避難所の中でもできるだけ日常の暮らしに戻していき、「すること」「したいこと」が自然に見つかるような環境を保っていくことが求められます。


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