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発達障害の“グレーゾーン”で悩む女性34歳が、自分のことを誰かに知ってほしいとVR空間に飛び込んでみたら・・・同窓会に参加してみたくなった/『プロジェクトエイリアン』出演者のその後

現実社会では出会わないような4人が、自分が何者かを伏せたままVR空間上でエイリアンのアバターに身を包んで交流する番組「プロジェクトエイリアン」。
参加者の1人で、5年前発達障害にはあたらないが何らかの課題を抱える“グレーゾーン”だと診断されたマヤさん(34歳/仮名)。元々スーパーでパート従業員として働いていましたが、現在は無職。実家で引きこもる日々を過ごしてきました。番組をきっかけに自分のような人間がいることを誰かに伝えたいと考えたマヤさん。VRでの交流を経て、いったい何を感じ取ったのか、取材しました。

(「プロジェクトエイリアン」ディレクター 丸山 純平)

健常者でも障害者でもない “ボーダーライン”を生きる苦しさ

ベンチに座るマヤさん

NHKの開発番組『プロジェクトエイリアン』では、VR空間を舞台に、見た目に影響されないアバターでの交流を通じて、ジェンダーや国籍などを理由とした“分断を乗り越える”きっかけとなる場を作ろうとチャレンジしています。去年放送された第1回目の放送を見ていたと語るマヤさん、気づけば勢いで出演者募集に応募したといいます。

マヤさん

「前回の放送を見て、率直に“こういう人たちがいるんだな”って思ったんです。でも、それと同時に、言い方は悪いんですけど “自分より普通だ”と思ってしまったんです。多くの方が経験してるような恋愛をしていて、中には破局に至ったという方もいたんですが、私にしてみたら、“普通“だと思って。私は無職で、健常者でも障害者でもないグレーゾーンで、恋人もいたことがなくっていう状態で、それで、こういう人もいるよっていうのを言いたかったんです。自分がこういう現状だよっていうのを吐き出して、楽になりたかったんです。それで番組のホームページを見たところ、出演者募集中というのがあったので、じゃあ応募してみるかっていうノリと勢いで、応募しました」

マヤさんが“グレーゾーン”だと診断を受けたのは5年前。うつ病を発症したときに、原因を探る検査の中で自身が“グレーゾーン”であることを知りました。

マヤさん

「最初にうつ病を発症しまして、その原因を探るためにいろいろな病院を受診したんですが、ひょっとして発達障害なんじゃないかという疑念が浮かびまして、改めて知能検査を受けたところ、一般人よりも劣っている部分があることがわかったんです。でも、障害者というのはある程度の項目を全て満たさないと障害者ではないので、私の場合は劣っている部分はあるけれども一般的な範囲もあるという事で、この中途半端な立ち位置っていうのがすごいモヤモヤしています」

町を歩くマヤさん
マヤさん

「いろいろと職は転々としたんですけれども、スーパーのレジ打ちが一番長かったですかね。マイバック、マイカゴの中に商品を並べて入れるっていうのがすごいパズルのようでとても苦手で。社会から求められるものは健常者としての働きぶりなんですけども、期待通りの動きっていうのはできない。かといって障害者ではないので、障害者枠で就職することはできない。となるとやっぱり上の方だったり同僚の方だったりとかからは“あなた使えないね”っていうことを言われたり。“こんなこともできないのか”、“普通は何々するよね”っていったことで、“ああ自分は普通ではないんだな”というのがあって。普通になれない自分っていうのが嫌いで、もう素の自分ではいけないんだっていう気持ちがありました」

“グレーゾーン”である自分のことを自分でも好きになれないと語るマヤさん。今は無職として実家で暮らすなか多くの時間をSNSやオンラインゲームに費やしていますが、そこでも自分の素が出せないそうです。

マヤさん

「偽ってない自分っていうのは、もうほぼほぼないんじゃないですかね。常に何かしら“今日は誰々さんとオンラインゲームでお話をするから、こういうテンションでいこう”っていうのがあるので。与えられた役であれば、たとえ何があったとしても、こういう役だからって演じることができますけど、素の自分を否定され続けたっていうのがあって、それで自分のことがあまり好きではないですね。私は今自宅で無職なので外に出ることもあまりありませんし、ネット上の人と関わり合いが一切持てなくなってしまったら、それはもう死と一緒ですよね」

パソコンに向かうマヤさん
マヤさん

「誰からも選ばれたことがないんですよ。家族として親から愛されたという感覚、結婚して一対一の関係になりました、そういうのを私が感じたことがなくて、多くの人が何かしらで感じたことがあるであろうものが私はわからなくて。そこに劣等感を感じますね」

VR空間で“エイリアン”になってみて気づいたこと―

アバターの4人で語り合う

今回番組では、現実社会では交わり合わない4人が外見や素性を伏せて、エイリアンのアバターに身を包みVR上で一緒に月面旅行をしてもらいました。ふだんはオンラインゲームでも自分の素が出せないと語るマヤさんですが、プロジェクトエイリアンの世界はどのように映ったのでしょうか?

マヤさん

「ふだんからネット上で、顔の見えない相手と話すことが多いので、そこは何も抵抗もなく、むしろふだん通りだなという感じです。でもオンラインゲームよりも割とふだんの自分、現実寄りの自分を出せたと思います。ネット上だと八方美人で、人によってキャラを変えている部分もあるんですけど、そのこともみんなに話すことができました。あそこの空間はもう、完全に一期一会の集まりだったので、気を遣う必要がないっていうのはとても楽でした」

アバターのマヤさん

VR空間での交流を通じて、自分が何者であるのかを他の参加者に自己開示したマヤさん。この行動はマヤさんにとって大きな自信になったと言います。

マヤさん

「自分が何者であるかを知ってほしいと思ってVR空間に参加したのですが、私の素性を知った人がこの世には少なくとも3人(ダイゴロウさん、どてさん、マンゴーさん)いるんだなと思えるようになって、それはよかったです。実際に私の姿形を見て、出会ってしゃべったわけではないけれど、もうガッチガチの自分の良いところ、悪いところ、思考っていうのを全部言った上で、あっちも話してくれたっていうのは単純にうれしかったし、面白かったです。この世に自分がいたことの証明みたいなところですかね」

夕日の中を歩くマヤさん
マヤさん

「第一回目の放送を見て、みんな“私よりも普通”だって感じたと言いましたが…今回はもっと知りたいと思いました、いろんなこと。どてさんだったり、マンゴーさんだったり、ダイゴロウさんだったり、みんな葛藤を抱えているなかで、じゃあみんなは何を思ってるんだろうっていうのを知りたくなりました。現実社会でも、今はまだ自分の知っている人じゃないとパニックになってしまうけど、同窓会でもいいので何かしらの人と関わる場面があり、そこで何かしら興味があったり意見の合う人ともっと話してみたいなと思いました」

他者との交流のハードルを下げ、さらには距離感を縮めることも可能なVR空間。「VR×社会課題」プロジェクトでは、今後もVRの有効活用法を模索していきたいと思います。

プロジェクトエイリアン ”分断”が進む社会をVR×エイリアンアバターで解決!? 全く新しいドキュメンタリー番組!

2023年3月23日(木)午後10:45~11:30(NHK総合)
👆 放送から1週間 NHKプラスで見逃し配信

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みんなのコメント(6件)

感想
鯛焼き
60代 男性
2023年3月25日
視聴後、これまで初対面の方に出会ったとき、無意識に、外見から得る情報だけで向き合ってきたのではないかと思い、ハッとしました。「マヤ」さんのようなグレーゾーンの方がいらっしゃることを知らずに生きてきたことを恥ずかしく思いました。健常者でも障害者でもないボーダーラインを生きる苦しさをお話いただきありがとうございました。今後、人生を歩んでいくうえでのアドバイスをいただいたと思い、感謝しております。
感想
こげたろう
20代 女性
2023年3月24日
テレビ越しの一方的な感傷とは思いつつ、参加された4名の中でいちばんマヤさんに共感しながら視聴していました。番組の後半で言葉少なになられていた場面では、勝手に胸が痛くなりながら見ていました。
どっちにもいけないのはつらいです。
こういう企画に応募して、参加して、最後まで参加し切るって、すごいことだと思います。参加してくださって、考える機会をくださってありがとうございます。
感想
スー
20代 男性
2023年3月24日
私はマヤさんと同じように発達障害のグレーゾーン的な特性を持っています。
この"特性"については、周りにほとんど理解してもらえず、以前からかなり悩んでいた事でした。

今回の番組で、グレーゾーンの話が出たときの率直な感想として、自分と似たような感覚を持つ人がいるんだという、安心感がありました。また、自分だけが抱えているものではないと知れて、少し心が楽になった気がします。

偶然見つけた番組でしたが、励みになりました。
番組の制作者様と、何より語っていただいたマヤさんには感謝を伝えたいです。ありがとうございます。
感想
ぎょうざ
20代 その他
2023年3月23日
「特定不能の広汎性発達障害」という診断名で障害者として働いている者です。自分もどちらかと言えばグレーゾーン側に相当するため、マヤさんのお話にとても共感しました。

また、恋愛経験が無いとのことですが、自分もそんな感じで悩んでいたところアロマンティックというセクシャリティに出会い救われた経緯があります。無理して相手を見つけなくても、そのままで良いってこともあるかもしれません。

マヤさん、どうか自分を大切になさって無理せず暮らしていってほしいです…!雪が滅多に降らない地から応援しています。
感想
ルク
19歳以下 女性
2023年3月23日
発達障害という点で親近感を感じました。ただ俺自身グレーではなく診断が降りているのでそこは辛いだろうなと思いました。
感想
GO
40代 男性
2023年3月23日
様々な境遇の方たちが勇気を出して話すことで、自分も色々と気づきがありました。
ありがとうございます。
今後もこのような企画を希望します。