性暴力被害の実態 取材の現場から
アナウンサーの合原明子です。今回私は「性暴力被害の実態を知ってほしい」と取材に応じてくださった、名古屋市の性暴力支援センターを訪ねました。
義理の父親から長年被害を受けていたという方も、つらい体験を打ち明けてくださいました。性暴力は決して「まれな出来事」では なく、私たちの身の回りで起きていて、声を上げられない多くの方たちがいるということを実感しました。
すぐそばで起きている 性暴力被害
名古屋市の「性暴力救援センター 日赤なごや なごみ」。ここでは専門の看護師や支援員、ソーシャルワーカー、医師たちが24時間体制で相談に応じています。
被害者の相談記録のファイルを見せていただきましたが、その厚みと量に圧倒されました。
話を詳しく聞くと、被害に遭った年代も子どもから大人までさまざま。慌ただしく対応にあたるスタッフの姿からも、性暴力は日々発生しているのだということを痛感しました。
また、具体的なケースを見ていくと、上下関係につけこまれて起こるケースが少なくないということが分かりました。
「なごみ」が過去3年間に対応した253件のうち、上下関係による被害はおよそ3割。親、祖父、兄弟などの親族。職場の上司、取引先の仕事相手、学校の教師、習い事の先生、内定先の企業の経営者に、自動車学校の先生…。こんなにあるのかと、ことばを失いました。
電話相談は日々寄せられています。しかし、相談さえできない、声があげられないという人はもっともっといるはずです。今この社会でどれだけの方が苦しい思いを抱えて過ごしているのだろうかと思いました。
“ほんの少しの思いやりを持って”
被害者の方にもお話を伺いました。
40代のユミさん(仮名)は、義理の父親から長い間性暴力を受けてきました。
逆らうことで「家庭が崩壊してしまうのではないか」という思いもあり、抵抗ができなかったといいます。ユミさんは性暴力を受けている間、心と体の感覚を閉ざすようになっていきます。
専門家は「こうした反応は強いショックや恐怖から身を守るためのもので、性暴力被害者の多くに起きる。それが他人からは“受け入れている”と誤解されてしまう」と指摘します。
被害者の方や支援団体からは「そうした状況の中で、抵抗することはできないということを知ってほしい」と切実な訴えがありました。
「被害の実態を知ってほしい」と取材に応じてくださったユミさん。ずっと「ガラスの破片がいっぱい入っている血液が流れているような感覚」で生きてきたといいます。
専門家によると、ユミさんは性暴力のトラウマ体験と向き合うことより、ガラスの破片が流れているような身体的な痛みを感じとることを無意識のうちに選び、自分を保ってきたということです。この症状があるため、ユミさんは常に体に不調を感じ、人が怖くて外出もできず、死ぬことを考えてきて、「よく今日まで生きてきたと思う」と、1つ1つのことばをかみしめるように話してくれました。
カウンセリングの電話をかけるまでにも3年という時間が必要だったといいます。それだけ深い心の傷を負わせてしまう性暴力に怒りがこみ上げるとともに、被害者の方がいかに孤独な中で苦しみと向き合っているかということを知りました。
何度か周りに相談を試みたものの、それとなく避けられてしまったというユミさん。印象的だったことばがあります。
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ユミさん
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「皆さん、自分の生活で精一杯だと思うし、相手のこうした話を聞くのはしんどいと思う。ただ、少しでも話を聞ける余裕があるのならば“何かあるの?”とか“少しなら聞けるよ”とか、ほんの少し思いやりを持ってことばをかけてもらえたらうれしい」
このことばに、周りの私たちのあり方も問われていると感じました。
私自身、取材を通して本当にさまざまな被害のケースがあることに驚き、自分の視野の狭さに気付かされました。一度立ち止まり、自身の視点を見直してみることが大切な一歩になるのではないかと感じました。
すぐそばにいる人が、実は1人で悩んでいるかもしれません。
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