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2024年4月8日(月)

小林製薬「紅麹」に何が? 最新報告・原因と影響は

小林製薬「紅麹」に何が? 最新報告・原因と影響は

医薬品から生活雑貨まで、暮らしに身近な品を幅広く手がける小林製薬。「紅麹」の成分を含む健康食品「紅麹コレステヘルプ」を摂取した人が腎臓の病気などを発症し、死者まで。症状を訴える人は国境を超え台湾でも。原因として浮上しているのが、青カビから発生することがある「プベルル酸」という物質。だが、腎臓に対する影響や製品中に含まれた経路などは明らかになっていません。未だ見えない被害の実態に独自取材で迫っていきました。

出演者

  • 唐木 英明さん (東京大学名誉教授)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

小林製薬「紅麹」に何が?

桑子 真帆キャスター:
今日は、2つのポイントについて見ていきます。

◆小林製薬「紅麹」健康への影響は?
◆製造工程で何があったのか?

「小林製薬の紅麹サプリメントを摂取した人の健康への影響は?」そして、「製造工程で何があったのか?」

死亡5人 入院 のべ212人

まずは、健康への影響について見ていきます。これまでに、腎臓の病気を発症するなどして、5人が亡くなり、入院は延べ212人に上ります。現在入院している患者の1人が取材に応じ、体に起きた異変の詳細が見えてきました。

入院患者が明かす“異変”

サプリメントが原因と見られる症状で、先週から病院に入院している60代の女性です。

60代女性
「衝撃でしたね。普通に飲んでました」

女性がのんでいた紅麹のサプリメント。製品のロット番号は、公表された問題の番号に該当していました。

60代女性
「悪玉コレステロール値が高かったんですよ、ずっと、少しだけ。これは何とかしなきゃいけないと思ったんです。たまたまピンポイントで、悪玉コレステロールを下げるって。これいいんじゃない、という感じです」

女性は、2022年11月から1日3錠、1年半の間のみ続け、コレステロールの数値は改善していました。突然、異変が起きたのは2024年3月初め。それまでにはなかった頻尿が続き、やがて、尿そのものにも異常が現れました。

60代女性
「何か尿に泡が立っているかもしれない。本当に泡、何ていうんですかね、カエルの卵みたいな」

その後、かつてないけん怠感も覚えた女性は、近くの泌尿器科のクリニックを訪れました。検査の結果、何らかの腎臓の病気の可能性が疑われ、大きな病院できちんと調べた方がいいと勧められました。大学病院で専門医の診察を受けた結果、女性は「ファンコニー症候群」を発症していることが分かりました。
「ファンコニー症候群」とは、腎臓の機能が低下する病気です。問題が起きたのは、腎臓の中にある尿細管です。

通常、腎臓では糸球体で血液をろ過したあと、尿の元になる液体を排出しますが、途中の尿細管で、人体に必要なカリウムやリン尿酸などを吸収します。

しかし、ファンコニー症候群では、尿細管で炎症が起きて、必要な成分が人体に吸収されず、けん怠感や脱水を引き起こすのです。

症状が進むと、尿に泡立ちが見られ、さらに慢性の腎臓病となって、透析が必要になる場合もあります。女性は仕事を1か月休み、入院して治療することになりました。

60代女性
「もしかしたら、後遺症が残るかもしれないじゃないですか。普通の生活ができるのかな。もし(紅麹のサプリを)飲んでいなかったら、全然異常になることもなかったと思うんです。自分のせいかなというのもありますけど、何というのかな、悔しいですね」

小林製薬が異変を認識するきっかけとなった医師の一人、日本大学医学部の阿部雅紀教授です。
阿部教授が最初に治療に当たったのは、2023年12月。ファンコニー症候群が疑われましたが、気になる点がありました。ファンコニー症候群は、成人の場合、薬剤によって引き起こされることが多いとされています。しかし、患者が日常的に服用している薬はなく、唯一、飲んでいたのが紅麹のサプリメントでした。

日本大学医学部 阿部雅紀教授
「なかなか、これが原因とは思えなかったですよね。一般的に発売されている健康食品で、サプリメントですから、まさかと思いました」

サプリメントは一般的に、医薬品として使われるほどの強い成分は含まれておらず、当初は原因とは考えていませんでした。しかし、通常まれにしか見られないファンコニー症候群の患者が、その後、2人目、3人目と相次ぎました。いずれも薬は服用せず、紅麹のサプリメントを摂取していたのです。

日本大学医学部 阿部雅紀教授
「ほかの大学の先生に聞いたんですけど、(サプリについては)普通聞かないよと言われました。まあ、よく見つけたねと。やはりサプリとはいえ、完全に安全な物ではありませんし、中には、錠剤の中に含まれている添加物であったり、そういったものが原因でアレルギー反応を引き起こすということも、まれにありますので」

阿部教授のグループは、2月1日、小林製薬に連絡を取り、問題の究明を求めました。

その後、学会に報告があった47人の患者のうち、46人がファンコニー症候群の疑い(日本腎臓学会の調査)があることが分かりました。腎臓の病気は気づくのが難しいため、少しでも異変があれば、検査を受ける必要があると阿部教授はいいます。

日本大学医学部 阿部雅紀教授
「いずれの患者さんも、健康診断で以前から、脂質異常症(高コレステロールなど)を指摘されていました。サプリなどの力を借りて、自分自身で脂質異常症を治したいと思っていた方だったのかなと思います。過去に同様のサプリを飲んでいた患者さんがいれば、ぜひ一度、血液検査と尿検査を行って、腎障害がまだ残っているかどうかを、ぜひ確認して欲しいと思います」

最新報告 原因と影響は

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
小林製薬の紅麹サプリメントを摂取して不安があるという方、こちらにお問い合わせください。

厚生労働省・消費者庁 健康被害 相談窓口
03-3595-2760
0120-388-687(4/9~)
午前9時~午後9時 土日・祝日も受け付け

今夜は、食の安全を巡る問題に詳しい唐木英明さん、そして、絹田記者とお伝えしていきます。よろしくお願いいたします。

まず、唐木さんに伺いますけれども、そもそも確認したいのが、この紅麹自体に問題があるというわけではないんですよね。

スタジオゲスト
唐木 英明さん (東京大学 名誉教授)
毒性学や食の安全の問題に詳しい

唐木さん:
そうですね。紅麹は、名前は似てますけれども、日本酒を造る米麹とは全く別の種類の麹でして、古くから食品を作るために使われていました。紅麹の中には、シトリニンという有害物質を作るものもあって、ヨーロッパでは規制はされているのですが、今回の小林製薬の紅麹については、シトリニンを作る遺伝子がないということで、安全なものであるということが分かっています。

桑子:
ただ、今回、健康被害が起きてしまって、どうしてなのかということになっているわけですけれども、なぜ、薬とは違って、強い成分が含まれていないサプリメントで、こういった健康被害の訴えが相次いでいるのでしょうか。

唐木さん:
サプリメントのほとんどが錠剤、カプセルの形をしています。有効成分を濃縮して含んでいるということがあります。そうすると、もし有毒な成分が入っていると、それも濃縮してしまうという特徴があります。もう一つは、サプリは1回限りで終わるのではなくて、毎日毎日続けて飲みます。そうすると、今回の腎機能障害のように、ゆっくりゆっくり症状が出てくるということが起こり得るということです。ですから、サプリをずっと飲んでいて、少しでもおかしかったら、サプリをやめること。そして、病院で診察を受けるということが必要だというふうに思います。

桑子:
しっかり検査をしてもらうということですね。
今回の健康被害ですけれども、すべての製品で出ているわけではありません。確認をしましょう。

小林製薬の紅麹原料を使った、自社製のサプリメントで被害が報告されています。小林製薬が紅麹原料を卸している52社と、さらに、その会社から原料を入手している173社の製品からは健康被害の報告はありません。被害が報告された原料から検出されたと会社がしているのが、青カビが作る「プベルル酸」と見られる成分です。2023年4月から10月ごろに製造された原料から検出されましたけれども、これが原因物質であるかどうかというのは、まだ特定はされていません。
ということで、絹田さん、まだ明らかになっていないことが多いわけですけれども、今回、会社側が最初に健康被害が疑われる報告を把握してからの対応の遅さというのも指摘されていますよね。

NHK大阪 絹田峻記者:
そうですね。小林製薬によりますと、医師から最初の報告があったのは、2024年の1月15日でした。ただ、この時点では、サプリメントが原因となった可能性があるかどうかは分からず、調査に時間がかかったということなんですね。結果的に、問題を公表したのは、2024年の3月22日。2か月余りがたっていました。この間、表立った対応というのは取られずに、商品の販売は続いていたんです。VTRに出演いただいた60代の女性は、2024年の3月上旬に体調の異変に気付いて医療機関を受診したんですが、当時はサプリメントとの関係が分からず、公表された3月22日までサプリメントを摂取していたということなんです。なので、会社側が速やかに対応していれば、そういった影響の広がりというものを、少しでも抑えられた可能性があると考えられます。

桑子:
そして、もう一つのポイントです。製造工程で一体、何があったのかということです。

原因を探るために、厚生労働省は、小林製薬の大阪工場と和歌山工場に、地元自治体と立ち入り検査を行いました。しかし、どの製造工程で異変が起きたのかというのは明らかになっていません。工場関係者が口を閉ざす中、私たちは、小林製薬に紅麹の事業を譲渡した企業を取材しました。そして、初めて元社員から話を聞くことができました。

未だ見えない原因とは

2024年3月、大阪市と厚生労働省が立ち入り検査を行った大阪工場。ここで紅麹の原料を製造していましたが、2023年12月、老朽化を理由に閉鎖。設備はすでに移設されていて、原因は分かっていません。

「工場のどういったところを調査されているか教えてほしい」
小林製薬 山下健司製造本部長
「大変申し訳ございません。今、検査を受けている立場ですので、内容についてはお話できる立場にはない」

異変は、どの段階で生じていたのか。
今回、紅麹の事業を小林製薬に譲渡した企業の元社員が、カメラでの撮影を行わないことを条件に取材に応じました。元社員は、紅麹の扱いは極めて難しく、工場では徹底した管理が行われていたと語りました。


紅麹菌は培養期間が長く、デリケートで弱いので管理が非常に難しい。門外秘の専用タンクで密閉し、滅菌された条件で培養が行われていた

元社員

元社員が働いていた当時、行われていたという製造の工程です。

まず、ドラム式の容器に米を入れ、高温で熱し、滅菌。ドラム式の容器を温水につけた状態にして、紅麹菌を加えます。紅麹菌は麹菌に比べて繁殖に時間がかかるため、適温を保ったまま数週間かけて培養する必要があります。ドラムには温度センサーが取り付けられ、異常がないか常に把握します。さらに、サンプリング調査も複数回行い、雑菌が含まれていないか、目視や匂いでも確認していたといいます。

元社員は、紅麹菌の培養段階ではなく、製造された紅麹が、その後、どこかのプロセスで汚染されたのではないかと考えています。


他の雑菌が入れば、成分の数値基準を満たさなくなるので分かる。紅麹菌は繁殖が遅く、他の菌が混じれば、そちらが優勢になり、正常な紅麹ができない。そう考えれば、粉砕以降の過程で混入したと考えざるを得ない

元社員

一方、紅麹の培養に詳しい専門家は、一般的には、むしろ培養段階で問題が起きたと考えるのが自然だと指摘しています。
紅麹菌を使った製品開発に携わってきた、河野勇人教授です。小林製薬の工場の実情はよく分からないとしながらも、培養段階で、カビの原因となる胞子が混入した可能性があるのではないかといいます。

くらしき作陽大学 河野勇人教授
「考えれば、いろんな可能性があると思うんですけれども、カビが混入したということであれば、胞子を作ります。胞子というのは耐熱性があるので、胞子を殺菌するというのは困難」

培養タンクに入れる米や原材料を出し入れするスタッフに胞子が付着していると、滅菌が不十分だった場合、胞子が生き残り、内部が汚染されるリスクがあるといいます。

くらしき作陽大学 河野勇人教授
「水分を含んだところで、こういう生き物は生育していきますから、ここが一番増える箇所ですよね」

さらに、別の専門家は、培養段階で重要なタンクの不具合の可能性を指摘しています。
食品化学が専門で、紅麹の研究に30年以上携わってきた、渡辺敏郎教授です。

園田学園女子大学 渡辺敏郎教授
「おそらく、大阪工場で培養していたときのタンクの状況が良くなかったんだと。日々の管理、ここの部品はどうなんだとか、ここは必ずしっかり見ておかないといけない」

小林製薬は、大阪工場の培養タンクについて、「今回の問題との関係は不明だが、過去に何かしらの不具合で、温水がタンク内部に入るトラブルが起きたケースがあった」と明らかにしています。

園田学園女子大学 渡辺敏郎教授
「これがタンクで、この下に水ですね」

渡辺教授は、過去のトラブルも踏まえて、培養タンクの配管などに極めて見えづらい欠損が生じていたおそれがあると見ています。

園田学園女子大学 渡辺敏郎教授
「培養しているとき、外の水がタンクのどこかに、ものすごく小さな亀裂が入って、水が中に入り込めば、この外の水というのは殺菌されていないので、中の紅麹が汚染される。長年、ずっと同じタンクで培養していくと老朽化してきたりする部分というのはあるので、おそらく、今回の原因は、この培養タンクの構造上のどこかに問題があって、よくない成分を作り出してきたのではないか」

急がれる原因究明。専門家は、紅麹の扱いの難しさを踏まえた対策作りも進めるべきだと訴えています。

くらしき作陽大学 河野勇人教授
「本来、紅麹というのは有効な食材ですから、紅麹自体が悪者扱いというか、そういう風評が広がっているということで、非常に残念な思いがしています。安全な紅麹を作る製造過程も、もう一度改めてしっかりと確立して、改良、改善していただければ」

小林製薬“紅麹問題” 今後は?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
今回、取材した中で、さまざまな可能性が指摘されました。タンクの不具合も含めて、この培養段階で何か異変が起きたのではないか。もしくは、それ以降で異変が起きたのではないかということでしたけれども、唐木さんはどういうふうに見ていらっしゃいますか。

唐木さん:
大きなヒントは、2023年の4月から10月の間に、未知の成分の混入があったというふうに言われている。ということは、2023年の4月に何かが起こって、それが継続したということがあります。じゃあ、何が起こったのかということですけれども、1つの可能性は、青カビの胞子が培養装置に入り込んで、そこで青カビが繁殖して、そして、未知の成分を作ったという可能性が考えられる。もう一つは、培養タンクに何かの不具合があって、そこから、外部から青カビが培養タンクの中に入り込んで、そして、有害成分を作ったという可能性も考えられるということですけれども、いずれにしろ、今後の調査を待たないと、本当のところは分からないということだと思います。

桑子:
この製造工程で何かがあったとした場合、他に、どういうタイミングで何かが入る、もしくは何かが起こる可能性があるのでしょうか。

唐木さん:
この過程を見ていくと、入る可能性があるのは、最初は培養過程ですね。2番目が粉砕、保管の過程。最後は包装をしたところですね。この3か所が、最も何かが起こりやすい場所というふうに考えられるんですけれども、それも、今のところまだよく分からないということです。

桑子:
ということで絹田さん、製造工程で何があったのか、今後、明らかになっていくと見ていいでしょうか。

絹田記者:
先ほどのご説明でもあったように、まずは、培養中に何か問題があったかどうかというところがポイントになるんですけれども、現時点では、それがよく分かっていないと。ただ、それを知るための手がかりというのが残されているんです。その製造工程の中なんですけれども、培養したあとの紅麹のサンプルというものが残されていることが分かったんです。図で言うと、培養、加熱、粉砕、保管あたりぐらいを指すと見られるんですが、その辺りのサンプルが残されていると。なので、そういうサンプルから、想定していない成分が検出されれば、培養中、もしくはその前後の工程で問題が起きた可能性が高まります。逆に、その辺りの工程のサンプルに検出されていないということであれば、培養中ではなく、それ以降の工程というところに絞られてくるのかなと思います。ただ、このサンプルを分析したかどうかについては、会社は明らかにしていません。その結果と、当時の設備の状況や作業の状況など、そういったものを照らし合わせることで、今後の原因究明の大きな手がかりになると考えられます。

桑子:
会社が問題を公表して2週間余りがたちますけれども、消費者の不安は増すばかりだと思います。今後どういうことが求められるでしょうか。

絹田記者:
まず求められるのは、原因物質の特定です。厚生労働省は、会社からデータの提供を受けて、研究機関で過去3年分のサンプルの分析を進めています。さらに、おっしゃったように、消費者に広がる不安への対応も急がれます。症状を訴える人は今も増え続けています。今回、取材した患者は会社に問い合わせの電話をしたものの、なかなかつながらず、不安だったと話していました。会社は、今後の調査で判明したことを速やかに公表するなど、食の安全を担う企業としての説明責任をしっかり果たしてほしいと思います。

桑子:
今、「食の安全」という言葉もありましたけれども、唐木さん、私たちは少しでも健康になろうとサプリメントを摂取するわけですよね。今回の問題を受けて、サプリメントを含めた食品の扱い方って、どういうふうにあるべきだと思いますか。

唐木さん:
今回は予想外のことが起こったということですので、こういう予想外のことが起こらないためには、何をしたらいいのかということです。一つは、サプリメントというのは法律上は食品なんですけれども、食品と全く違うのは、先ほど言ったように、錠剤、カプセルの状況で有効成分を濃縮するため、毒性の物質も濃縮されるということ。それから、継続して飲む、という2つの特徴があるので、リスクがとても大きいということになります。そうすると、企業は、製造過程では一般の食品よりもずっと厳しく、これを注意しなくてはいけないし、あるいは、法律上でも食品と区別して、厳しい規制をする必要があるんですが、法律上、サプリは食品であるために、それができないということがあります。したがって、食品と区別する法律がどうしても必要ということになります。もう一つは、企業のトップから現場まで全員が安全を守るという意識を持つ、安全文化を確立することが大事だというふうに思います。

桑子:
ありがとうございました。唐木さん、絹田記者とお伝えしました。まずは、原因究明も待たれます。

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