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2023年6月20日(火)

1分1秒をどう使う? “タイパ”で驚きの時間活用術

1分1秒をどう使う? “タイパ”で驚きの時間活用術

動画の倍速視聴に、着替えずトレーニングできる時短ジム、さらに短時間で栄養がとれるインスタント食品まで。今、時間当たりの効果「タイムパフォーマンス」を上げる“タイパ”が、幅広い世代に注目されています。メジャーリーグでも試合時間の短縮をねらって、新ルール・ピッチクロックが導入されるなど、その流れは世界的。大量の情報と商品に囲まれ、様々な選択に迫られる中、限られた時間をどう使えばいいのか?“タイパ”活用術とともにお届けしました。

出演者

  • 一川 誠さん (千葉大学大学院 教授)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

1分1秒をどう使う? “タイパ”で驚きの時間活用術

桑子 真帆キャスター:
今回のテーマは“タイパ”。タイムパフォーマンスを略した言葉です。似た言葉である“コスパ”は、かかったお金に対する効果を意味しますが、“タイパ”というのはかかった時間当たりの効果や満足度を示しています。

6月に発表された最新の調査によると、“タイパ”を重視する時間が「ある」と答えた人は9割近くに上っています。

具体的にどんな場面で“タイパ”を意識しているのかというと、睡眠や料理、掃除、買い物など日常のさまざまなシーンで“タイパ”を重視していることが分かります。

タイパを重視する具体的な時間は?(セイコー時間白書2023)
睡眠 39.3%
料理 37.0%
掃除 34.2%
買い物 34.2%
洗濯 27.2%
動画視聴 26.9%

限られた時間の中で、いかに効率よく効果や満足度を上げて行動するか。その最新事情をご覧ください。

“タイパ”で時間効率化 最大効果をねらえ!

2022年、スーパーの食品売り場に登場したのが、5分で作れて33種類の栄養素がとれるというインスタント食品。

今、短い時間で栄養がとれるという“タイパ”を重視した商品が増えています。


「もうこれですぐ作れて栄養も取れるから」

「子どもが小さいと特に朝は戦争なので、親は栄養をしっかりとしたものを食べていって欲しいし、やっぱりこういったものがすごい手っ取り早くて」

今や職場にも浸透している“タイパ”。不動産会社で統括部長を務めている山下さんがスキルアップのために利用しているのが、本の要約サービスです。

一冊10分にまとめられ、読むだけでなくスマホで聴くこともできます。

皿洗いや洗濯の時など、隙間時間にはいつもながら聴きをして効率的に知識を入れ込んでいます。

山下さん
「あれも読みたい、これも読みたいけど忙しくて読めていないものを、要約サービスでいろいろな本とか知識に出会える。効率よくタイパを高く出会えるというのも、すごくマッチしました」

30代になって社会人デビューをした山下さん。競争社会で落ちこぼれないよう、最新のビジネスの知識や考え方を仕入れなければいけないと考えています。要約サービスで学んだ「部下とのつきあい方」を、職場でも実践しています。

山下さん
「もしかしたら急に仕事が無くなるかもしれない、どうなるか分からない。基本的にはその不安がやはりあります。それをカバーできるのは個人の能力しかないと思うので、限られた時間でより多くの情報を自分のなかに入れていく。やっぱりタイパは考えますね」

山下さんが利用している「要約サービス」は、3年前から急成長。2022年、会員は100万人を突破しました。

フライヤー 社長 大賀康史さん
「人にとって一番貴重な資源って、時間だと思うんですよね。忙しい中で10分とか15分の時間って結構空いてますよね。そういう時間の中で本を読みたければ本を読むとか、有効に活用できる」

“タイパ”と言えば… 「倍速視聴」が進化

そして“タイパ”の象徴とも言えるのが、若者の「倍速視聴」。今、更に進化しています。

動画視聴が趣味という、大学生のレンさん。好きなYouTubeを倍速で見ています。

レンさん
「だいたい1.5ぐらいです」

好きな動画であっても、普通のスピードで見ると時間を無駄にしている気になるといいます。

レンさん
「1時間の中で1時間の動画を1本見ただけっていうのが、だらだらしてしまったなっていう罪悪感じゃないですけど、自分の中でだらだら時間無駄にしちゃったなみたいな感覚になるのが嫌で。せわしなくパフォーマンスを上げる癖がついてしまう」

レンさんは、倍速視聴の効果は勉強の場面でこそ発揮されるといいます。

大学の講義は、1.5倍で2回繰り返し視聴。通常のスピードで1回見るより内容が頭に定着するため、“タイパ”がいいと考えています。

レンさん
「本当にちゃんと頭に入れたかったり集中したい時こそ倍速とかで見て、一気に頭に情報量を多く入れる。何回も見るのが結構大事みたいな感覚もあって。なので1.5か2倍で2回見たほうが結構効率よかったりするので」

なぜ“タイパ”重視? “価値”に時間を割く

若者たちが“タイパ”を志向する背景には何があるのか。

Z世代に人気のファッションビルで、“タイパ”に関する聞き取り調査が行われました。

SHIBUYA109 lab.所長 長田麻衣さん
「タイパを意識した生活をするというのが、結構みんなの世代ってよく言われている。タイパの生活とかしてますか?」
「YouTubeとかは、朝のメイクしている時間に見ながらやるみたいな」
長田麻衣さん
「メイクしながら動画見るんだ」
「流して見るみたいな感じが多い」

“タイパ”を重視する理由を聞いたアンケート結果です。半数近くが“タイパ”をして節約した時間を、自分が価値を感じていることに割きたいと答えています。

リエさん
「推しと関わる時間が癒し。それがエネルギーみたいなところがある」

調査に答えていた大学3年のリエさん。“タイパ”で捻出した時間は、秋葉原のメイドカフェで使います。

リエさんの推しは、メイドのふわるさん。家との往復で3時間。更に店内で1時間以上待ちました。

ふわるさん
「お帰りなさい。お待たせしました、帰ってきてくれてありがとう。雨が多いから、ちょっと吹き飛ばせるような爽やかな気分になれるチェキにしようかな」

給仕を受ける時間は、2分と決められています。記念撮影を合わせても、一緒に過ごせた時間は5分足らず。しかし、リエさんにとってふわるさんと過ごすことは長い待ち時間をかけるだけの満足があります。

リエさん
「一見これを見たらタイパ悪いんじゃないかって思われそうですけど、それでも本当に自分の心が癒される。元気をもらいに来る価値があるので、すごくタイパ、コスパはいいなって思います」
長田麻衣さん
「推しに時間をかけたいとか、自分がしたいことを優先するために他はタイパを重視して動くみたいな。みんな本当にすごく忙しい中で思った以上に自然に時短したりとか時間のメリハリつけてる」

“タイパ”倍速視聴 脳の認知にどう影響?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、時間の活用に詳しい千葉大学大学院教授の一川誠さんです。

スタジオゲスト
一川 誠さん (千葉大学大学院 教授)

「メリハリ」という言葉もありましたが、なぜ今“タイパ”を重視する人が増えているのか、大きく2つあるとのことです。どういうことでしょうか。

なぜ今“タイパ”?
・テクノロジーの進化
・働き方改革

一川さん:
まず、テクノロジーの進化によって人間ができる事柄が増えたというのがあります。

桑子:
具体的には?

一川さん:
例えば、コロナ禍でいろんなネットワークの使い方であるとか、家で働くこともできるようになりました。いろんなことができるようになったのですが、一日24時間という枠は延びないので。

桑子:
そうですね。

一川さん:
やはり時間を取捨選択して使っていかなくてはいけない、そういう事柄が増えたと思います。
また、働き方改革が進んで、無駄は減らした方がいいという意識も強まった。実際に動画視聴みたいな新しいテクノロジーが使えることも相まって“タイパ”が意識されることが多くなったのだと思います。

桑子:
VTRの中では推しの人と会うために何時間もかけるという大学生がいましたが、そう考えると“タイパ”は単なる時短でないっていうことですね。

一川さん:
そうですね。効率重視というよりは、満足度を意識されているところが特徴だと思います。

桑子:
いかにその人にとって豊かにするか。

一川さん:
いかに満足度を強く持てるかというところが重視されていると思います。

桑子:
“タイパ”の代表的なものとして「倍速視聴」というものがありますが、どういった影響をもたらすのか。

まず1つ目です。玉川大学の松田教授によると、「倍速は鑑賞には向かない」のではないかという指摘です。というのも、脳の認知機能には処理能力の限界があるからなんです。

例えば、こちらF1レーサーの視界を表していますが、スピードが上がるほど視野は狭くなるといいます。同じように、ドラマを見ている時も倍速にするほど視野は狭くなる。俳優さんの口元にだけに注目がいき、全体のストーリーは分かるのだけれども、微妙なニュアンスは感じ取ることが難しくなるということですね。

これで果たして満足できるのか。それでも倍速視聴するのはどうしてなんだろうと。

一川さん:
短い時間で実際にそれぞれの作品をちょっと見て、あとで長い時間かけて見るものを選ぶ。そういうための道具として使っている側面はあると思います。

桑子:
見定めるために、倍速視聴する。

一川さん:
そうですね。ストーリーだけ分かればいいやという見方と、しっかり見たいという中で時間の使い方を考えてるのだと思います。

桑子:
一方で、倍速視聴が効果を発揮する場面があるといいます。倍速の影響、2つ目です。

早稲田大学の森田教授によると、「倍速でも学習効果は変わらなかった」ということです。
ある研究で大学生75人を3つのグループに分け、基礎的な内容の学習動画を1倍(等倍)、1.5倍、2倍で見てもらいました。
見終わったあとに動画の内容についてテストをしますと、結果はほとんど変わらなかったといいます。

個々の能力や動画の内容によって結果に違いが出る可能性はあるということで、一川さんは実際に大学で映像授業も行っているとのことですが、どのように感じていますか?

一川さん:
そうですね、等倍速じゃなきゃ学習できないということはないので、倍速視聴しても入ってくる情報が何についての授業か分かっていれば、倍速でもそんなに学習効率は変わらないと思います。

桑子:
学生さんの中には、2回見た方が効率がいいとおっしゃっている方もいましたけど。

一川さん:
1回見るより、やはり繰り返し見た方が記憶には残りやすいので、大事なところを何回も見ることのために倍速視聴を利用するというのはとても効果的だと思います。

桑子:
ただ、人に合った速度はそれぞれですよね。

一川さん:
はい。誰でも1.5倍速がいいとか、2倍速がいいわけではなくて、その人に合ったペースというのがあるので、そこは自分で見極めて、分かりやすい速度を選んでもらった方がいいかなと思います。

桑子:
見つけ出していくということですね。

一川さん:
そうですね。

桑子:
では、充実した時間活用をするには実際どうすればいいのかこれから考えていきますが、とっても多忙なある男性の一日から、そのヒントを探っていきます。

多忙な男性の1日 “タイパ”を高める仕事術

個人事業主の竹中紳治さん。企業の人事責任者や大学講師など4つの肩書を持ち、多忙な日々を送っています。

竹中紳治さん
「複数の副業が自分の中で増えてきてからタイパを意識しているかな。限られた時間を効率よく使いたいというところがあるので」

この日、一日で竹中さんは10の会議に大学講師の仕事、更にはPTAの資料作りも行うといいます。

朝8時40分。きょう一日のスケジュールを確認する会議を始めました。

まずはウォーミングアップから始め、午前中にリモートでできる会議を固めました。“タイパ”を高めるために1つの会議時間は30分以内。1回の発言も30秒以内と決めています。

竹中紳治さん
「きょうのミーティングのゴールは何かは、すごく重視していて。何を目的にいま話しているかとか、何を相談したいのか、結論を出してほしいのか、明確にしようというのは常に言っています」

竹中さんがたくさんの仕事をこなす中で意識をしているのが、仕事と仕事の間の区切りです。

仕事の合間の休息時間や雑談時間を大切にすることで、スイッチのオンオフを切り替えます。

竹中紳治さん
「歩きます?」
「歩きましょう」

午後は一番のピークタイム。体を動かすのも頭を使うのにも最適な時間です。

竹中さんも散歩をしながら会議。運動もできる上、アイデアも生まれやすいといいます。

竹中紳治さん
「歩きながら話すと思考がクリアになるというのと、あと運動ができるので」

竹中さんがもう一つの仕事である、大学講師の授業の準備を始めました。

一日の中にあえて違う種類の仕事を入れることで、メリハリをつけるといいます。

竹中紳治さん
「いい刺激になってるかなと思います。ずっと同じことを考えると逆に詰まったりするので、ちょっと気分転換もかねてほかのことをするというのは個人的にはすっきりするかな」

忙しい中でも竹中さんは、夜7時以降は働かないと決めています。携帯やパソコンは仕事部屋に置き、家族と一緒に過ごす時間に充てます。

竹中紳治さん
「時間はいい意味で誰にでも同じ平等な資源だと思いますけど、それをどう使うかによってたぶん人生は変わっていくと思うので、時間の使い方みたいなところは意識していますね」

この竹中さんの働き方は、果たして効果的なのか?ポイントをスタジオで解説します。

“タイパ”重視の時代 時間活用のポイント

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
竹中さん、とても忙しい方だなと感じましたが、どうすれば充実した時間活用ができるのか。3つのポイントでグラフを使って見ていきたいと思います。

横軸は「時間」です。縦軸が体の「代謝量」ということで、まさにこの代謝が一つポイントになるんですね。どういうことでしょうか?

一川さん:
代謝は、体の細胞の活動状態を表してると言っていいと思いますが、朝起きてから一日の流れの中で、活動状態が変わります。
起きてすぐの頃はまだあまり代謝が高くなくて、昼にかけてだんだん上がっていき、夕方ぐらいにピークに達し、夜にかけてまた落ちていき、寝てる間に低い状態になる。この代謝の状態によって体の動きやすさも違いますし、時間の感じ方、長さの感じ方も変わります。
朝の早い時間帯、代謝が落ちてる時間帯というのは、まだあまり代謝も上がってないので、時間があっという間に過ぎる感覚が強く、それが午後にかけてだんだんゆったり流れてくるような感覚が強くなると思います。

桑子:
それに合わせて、することを変えていけばいいのではないか。

一川さん:
朝方は体を動かす作業には向いていなくて、頭を使うような作業。あと、ものを考えたり、大局的にものを判断するということに使うのに有効だといわれています。
きょう何をしようかとか、これからこの1週間をどう過ごそうかとか、そういうことを考えるのに向いていると思います。

桑子:
朝活をする方もいると思うのですが、あまり体を激しく動かすということは…。

一川さん:
誰にでも向いているわけではないので、睡眠時間を削ってまで朝活するというのはあまりよくないと思います。

桑子:
2つ目、3つ目のポイントを併せて見ていきたいと思います。VTRの竹中さんも気にされていた「区切りを意識する」。そして「反すうする」ということも大事なんですね。どういうことでしょうか?

一川さん:
どう有効に時間を使ったかということに関して言うと、やはりメリハリがある時間の使い方をしてるほうが満足度が高くなりやすいという特徴があります。
特にいろんなことをしても、一つ一つのことが区切られずにまとまってしまうと、「忙しかった一日」みたいな形でしか記憶に残らないのですが、一つ一つメリハリがついて区切られていると「いろんなことができた」と。「きょうは有効に過ごした」という感覚が強くなります。特に後で思い返すと、長い記憶、長期記憶にも残りますので、後で思い出した時に満足度を上げる。そういう点でも有効だと思います。

桑子:
区切りで言うと、例えば外でランチをするというのも。

一川さん:
場所を替えて食事をするというのはとても有効で、ただ外に行く時間がない場合は食堂で食べたり、あるいは屋上で食べたり、そういうことも有効だと思います。

桑子:
そしてそれをしっかり「反すうする」という。

一川さん:
後で思い返すというのはとても有効だと思います。

桑子:
あと時間の使い方で言うと、時間の過ぎ方が子どもの時はとても長く感じるけれど、大人はあっという間に感じる。これはどういう違いでしょうか?

一川さん:
一つ理由はやはり代謝が関わっていて、子どもの頃の方が代謝が高いので、ある意味「心の時間」というか、それが割と長めということになりますが、大人になればだんだん代謝が落ちてきますので、時間が早く過ぎるような感覚が強くなってくるというのがあります。
あとは繰り返していると主観的には時間が短くなるという特徴があるので、大人はいろんなことを繰り返しますよね。そうすると特別な事柄が少なくなってくることもあり、心理的には時間がどんどん短くなってくることになります。

桑子:
つまり、大人になっても充実した時間を過ごすためにはより特別な時間とか。

一川さん:
そうですね。後で思い起こした時に思い出せるような特別なイベントがあったほうが、大人にとっても時間が充実すると思います。

桑子:
これからの時代ですが“タイパ”はなくなることはないとは思うのですが、その中でどういうことに気を付けていったらいいと思いますか?

一川さん:
いろいろテクノロジーも進んできて、使える道具というのは増えてくると思いますけど、やはり一日24時間というのは変わりません。
なので、どういうふうに時間とつきあっていくといいのかというのは多分個々人が決めていかなくてはいけないことだし、時間をどう使うかは「どう生きていくか」ということにも関係しているので、自分はどうすれば満足度が高くなるかを自分で考えないと、なかなか答えがないので。それぞれの方が自分で考えて、時間の使い方を有効に考えてほしいなと思います。

桑子:
確かに何が大切かというのは、その人にしか決められないことではありますね。

一川さん:
ほかの人に決めてもらえるようなものでもないと思いますので。

桑子:
しっかり考えたいと思います。ありがとうございました。
これから時間をどう過ごすか、どういう時間にしていくかを考えるのは大切なことですが、皆さんにとって大切な時間はどんな時間でしょうか?

あなたにとって“大切な時間”とは

本の要約サービスを利用して“タイパ”を高めていた、山下さん。この日は小学4年生の息子と時間を過ごします。

たっぷり1時間、子どもと向き合いました。

山下さん
「子どもと過ごす時間が充実していますね。楽しいですね。ある意味タイパがいいのかもしれない」
見逃し配信はこちらから ※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

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