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2023年4月17日(月)

緊急報告“狙われた首相演説会場”動機は?爆発物は?

緊急報告“狙われた首相演説会場”動機は?爆発物は?

和歌山市の雑賀崎漁港で、岸田総理大臣の演説が始まる直前に、爆発物が投げ込まれた事件。逮捕されたのは兵庫県川西市に住む木村隆二容疑者24歳でした。警察は容疑者の自宅を捜索するなど、全容解明を急ぐ。金属製とみられる筒状の爆発物の正体は?そして犯人の「動機」は?またしても首相の演説会場が狙われた今回の事件。G7サミットを目前に控える中、要人警護のあり方は?最新情報とともに、事件を徹底検証しました。

出演者

  • 板橋 功さん (公共政策調査会 研究センター長)
  • 桑子真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

狙われた首相演説会場 “新たな証言”現場で何が

4月15日午前11時17分、応援演説のため雑賀崎漁港を訪れた岸田総理大臣。来訪は、この前日に政党のホームページで告知され、漁協の組合員などを中心に200人程の聴衆が出迎えました。

この直前、漁港の近くの防犯カメラに収められた映像です。

岸田総理を乗せた車列が通った直後、リュックサックを背負った木村隆二容疑者と見られる人物が映っていました。

その後、岸田総理が演説場所に向かうと木村容疑者も聴衆の中へ。

岸田総理と木村容疑者の距離、およそ10メートルから木村容疑者は筒状の爆発物を投げ込んだと見られています。

爆発までの一部始終を目にしていた人がいます。最前列にいた地元の女性。爆発まで50秒余りの間、状況は刻々と変化していったといいます。

最前列にいた地元の女性
「(煙が)もくもくよ。最初飛んできたときは、ちょっともこもこ出た感じだったけれど(爆発して)一気に、ばーって出てきた」

今回の事件で当初、けがをしたのは警察官1人とされていました。しかし、聴衆の中にも負傷者がいたことが新たに分かりました。

漁協の役員を務める70代の男性。爆発の直後、背中に痛みを感じました。

漁協役員
「炎症がね。背中が痛いと思ったんよ」

演説を聞くために会場を訪れていた男性。前列のほうに向い、背中を向けたその時爆発が起きました。

漁協役員
「服に穴でもあいたかなと思ったら、何もない。うちに来ておかんに見てって言った。痛いっていう感じでしかなかった」

威力業務妨害の疑いで逮捕された木村容疑者。その動きが、目撃者の証言から明らかになってきました。

木村容疑者を取り押さえた男性2人と、すぐそばにいた女性が取材に応じました。3人は、容疑者のすぐ近くでその様子を目にしていました。

木村容疑者の斜め後ろにいた男性。爆発物を投げる直前の容疑者の行動を見ていました。

容疑者の近くにいた男性
「ライターで火をつけたのかスイッチ入れたのかようわからんけど、何かやっているように見えて、投げて。何投げるのかなと思ったら煙が出ていた感じだった」

木村容疑者の左斜め前に立っていたという女性は、爆発物を投げた直後の表情を記憶していました。

容疑者の近くにいた女性
「私も前を向いていたのですが、視界の端を煙が出たものが飛んでいったので、右を振り返りました。(容疑者は)けっこう無表情でした。その瞬間に取り押さえられた感じだったので。取り押さえられるときも無表情でした」

女性のすぐそばに、もう一つの爆発物とみられる筒が転がってきたといいます。

容疑者の近くにいた女性
「2本目であろうものが気づいたら私の右足の横に落ちていた。いくつか持っていたと聞いて、それが爆発したらと想像するとかなり恐怖です」

容疑者は地元の人ではありませんでしたが、特に不信感は抱かなかったといいます。

取材班
「何か変だと思うことも?」
容疑者の近くにいた女性
「候補者だけの演説だったら地元の方が多いと思うのですが、現職の総理が来るということでけっこういろんな所から来ていると思います」
取材班
「不審者だと気づくのも難しい?」
容疑者の近くにいた女性
「難しいです」

容疑者を最初に取り押さえた地元の漁師です。

警察は安倍元総理大臣の銃撃事件を受けて要人警護の運用を抜本的に見直していましたが、不審な男に真っ先に気付いたのは聴衆の1人でした。

容疑者を取り押さえた男性
「警備のほうも、中央付近で脚立に乗っているSPの人も両サイドにいたし、水槽のほうにもSPの人もいたしという感じだったけれど、(投げた後も)まだ手元で何かしているところが見えたので、まだ持っているなという感じがあったので襲いかかった」

取り押さえる際に、爆発物をなかなか離さなかったという容疑者。男性は、ひとつ間違えば惨事にもつながっていたと感じています。

容疑者を取り押さえた男性
「無抵抗だったけれど、手に持ったものをすぐに離すことはなかったので、爆弾(爆発物)があのとき爆発していたら、自分もけがなり命なり、危ないことになっていたのかなと思います」

容疑者の“動機”は?

なぜ木村容疑者は事件を引き起こしたのか、まだ明らかになっていません。取材を進めると、その人物像が少しずつ見えてきました。

木村容疑者の自宅があるのは兵庫県川西市。近隣の住民によると15年ほど前、市内の集合住宅から家族で今の自宅に引っ越してきたといいます。

近所の人
「おとなしいお兄ちゃん。ちゃんと挨拶してくれる」

木村容疑者は、家の仕事をよく手伝っていたといいます。

近所の人
「庭があるじゃないですか、お母さんと雑草抜きとかしていた」

木村容疑者を知る同級生が取材に応じました。

中学校の同級生
「同級生というのは衝撃はでかかった。そんなことする感じの子では…」

小学校の卒業文集です。夢は、パティシエと発明家になることでした。


食べた人が秘密にしておきたくなるお菓子をいっぱい作りたい
みんなが喜ぶロボットや新しい車とかを作りたいです

小学校の卒業文集より

人の役に立つ機械を作りたいとつづっていた木村容疑者。しかし、中学に入るとその様子が一変したといいます。

中学校の同級生
「誰ともあまり関わりを持ってなかったような。孤立しているというか、特別いじめられているという感じもなさそうで。常に1人ぽつんと。とにかく朝は早かったイメージ。クラスで1人で。机にもたれかかるような感じで、うつ伏せになって寝ていました」
娘が同級生だったという女性
「(娘によると)木村くんは小学校時代、おふざけキャラでにぎやかで明るい性格だった。しかし、中学に入ってとたんに何もしゃべらなくなり、“陰キャ”になった。理由はよく分からない」

近所の複数の住民によると、家庭での様子も浮かび上がってきました。

近所の人
「お父さんがすごく怒っているのを聞いたことがある。わーぎゃーって、どなっていた。2・3回聞いたかな」
近所の人
「(父親が)何回か大声出してトラブルになって、警察が来ていたことがある」

警察が木村容疑者の家族に聞き取りをしたところ「現在定職には就いておらず、この数年家に閉じこもる生活が続いていた」などと話したといいます。

いまだ見えない木村容疑者の思惑。実は最近、政治と関わる場所に参加していたことが分かりました。

2022年9月、地元の市議会議員が開いた市政報告会。参加者が記入した名簿に木村容疑者の名前と住所が書かれていたのです。報告会に参加していた国会議員によると、木村容疑者と思われる人物に声をかけられ、10分以上にわたり話を聞いたといいます。

大串正樹衆議院議員
「市議会議員になることに関心があったようで、彼が被選挙権(25歳以上)がないということで、被選挙権があるように法改正してほしいと。なぜ(被選挙権の年齢の)引き下げをしてくれないんだという要望は、何度も繰り返しお話をしていたっていう記憶がある。自分から選挙に出たいけど被選挙権がなくて出られないという話はあまり聞かないので、勉強して将来市議会議員になりたい話はあったとしても、今すぐっていう人は初めて」

そのおよそ半年後、選挙演説の場に手製の爆弾とみられる爆発物を投げ込んだ木村容疑者。手提げかばんからは刃渡りおよそ13センチの果物ナイフが見つかっています。事件の経緯や動機など、木村容疑者にはいまだ多くの謎が残されています。

最新情報“爆発物事件” 動機は?鉄パイプ爆弾?

桑子 真帆キャスター:
動機、それから爆発物についてどこまで明らかになっているのでしょうか。捜査の最新状況について、小谷記者に聞きます。小谷さん、まず犯行の動機について何か見えてきたことはありますか。

小谷麻菜美記者(NHK和歌山)
警察によりますと、調べに対して体調などの雑談には応じているということです。容疑については黙秘を続けているということで、事件の動機は明らかになっていません。

桑子:
そして、今回使われた木村容疑者の爆発物についてはどこまで分かっているのでしょうか。

小谷
容疑者は、手製の爆発物とみられる筒を2つ持ち込んだとみられています。このうち、現場で爆発したとみられる筒は警察が周辺を調べたところ、40メートル余り離れた倉庫のそばで見つかりました。もう一つは、事件当日に爆発物処理班が押収し、17日に構造や爆発した際の威力を確認する捜査を始めました。

桑子:
そして今後の捜査の焦点、どこになりますか。

小谷
まずは動機の解明です。そして、計画性があったのかも焦点です。今回、総理を直接狙ったのか分かっていませんが、付近の防犯カメラには総理が演説会場に入るのとほとんど同じ時間に容疑者とみられる人物の姿が映っていました。警察は、いつごろ、どのようにして現場に来たのかなど詳しい行動を調べています。

徹底検証“警備の現状”

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
今回、警備に問題はなかったのでしょうか。

事件が起きたこの漁港というのは、市街地のロータリーのように不特定多数の人が行き交う場所ではなく、基本的に漁業関係者や地元の人たちに向けて演説が行われる予定の場所でした。

事件の瞬間、岸田総理大臣はこの場所にいまして、周りにはSPなど警護関係者がいました。およそ200人の聴衆はといいますと、ここから5メートル程離れた規制線の後ろに集まっていました。

演説の日程というのは前日に公表されていたため、外部の人も会場に入ることができ、また手荷物検査を受けることはなかったということです。

こうした中で、木村容疑者は総理からおよそ10メートル離れた場所にいまして、持ち込んだ爆発物を総理に向けて投げ込んだということになります。

この事件当時、現場にいた政治部の髙橋記者にスタジオに来てもらっています。総理から20メートルほど離れたところにいたということですが、警備の状況についてどのように感じていましたか。

髙橋太一記者(政治部):
岸田総理が選挙期間中に演説に立つのは、安倍元総理の銃撃があった2022年7月の参議院選挙以来のことでした。私はふだんからいわゆる総理番として岸田総理の地方出張などにも同行しているのですが、ふだん岸田総理が出席する行事を取材するとなりますと事前登録が求められたり、あと当日も手荷物検査を受けたりといったことがあります。ただ今回、現場ではこうした手続きはなく、会場には誰もが自由に出入りできる状況でした。

桑子:
メディア関係者にも手荷物検査がなかったわけですね。

髙橋:
また、選挙期間ということもあったか、ふだんよりも岸田総理と有権者の距離が近いと感じましたし、実際に有権者と握手をしているような場面もありました。

桑子:
スタジオには国内外のテロ対策、そして危機管理に詳しい板橋功さんもお招きしています。板橋さん、今回の事件の警備についてどういう印象を持っていらっしゃいますか。

スタジオゲスト
板橋 功さん (公共政策調査会 研究センター長)
国内外のテロ対策や危機管理に詳しい

板橋さん:
まず、またしても選挙の遊説においてこのような事件が発生してしまったのはとても残念に思います。映像を見る限り、警備や警護というのは今回しっかり行われていたんだろうと思います。にもかかわらず爆発物を持ち込まれてしまったということは1つの大きな課題なんだろうと思います。

象徴的なのは、爆発物が投げられた時にあっという間に警護対象者の総理は離脱をしているわけです、現場から。それはやはり日頃の訓練の成果であるし、円滑に行われたというふうに考えています。

ただし、総理が演台に向かうとき気になったのはコーンの横、聴衆の脇を通っているんですね。これがやはり選挙の難しさ、警備の難しさを象徴していると思います。

桑子:
距離が近いということですね。安倍元総理大臣の銃撃事件から9か月余りで、要人の警護についてはどんな改善がなされてきたのか。警察庁は安倍元総理の事件のあと、警護の基本事項などを定めた警護要則というものをおよそ30年ぶりに刷新しました。

安倍元首相銃撃事件のあと何が変わった?
・「警護・警備計画」 警察庁が事前審査
・要人警護の担当要員3倍
・防弾ガラスなど装備資機材の充実
・全国の警護担当者の教養訓練

具体的には警護・警備計画を警察庁が事前に審査する、要人警護の担当要員を3倍にするなどを取り組んできたのですが、板橋さん、今回手荷物検査がなかったり、自由に出入りができたということで改善は生かされたのでしょうか。

板橋さん:
今回、やはり最大のポイントは爆発物が持ち込まれたということです。これを防ぐにはやはり会場に入るところに手荷物検査、あるいは金属探知機を置いて検査をするという必要があったんだろうと思います。安倍元総理の事件の直後は行われたわけですが、そこの改善というか恒常化しなかった、ルール化されなかったということですね。

桑子:
そこには課題があるのではないか。では、今後どうしていけばいいのか。板橋さんはこのような指摘をされています。「選挙における警備のガイドライン化」をするべきだと。どういうことでしょうか。

板橋さん:
政治側というのはどうしても選挙のときに有権者の近くでいたい、演説をしたり握手をしたい、やはりそういう要望があるわけです。一方、それは警備が極めてしにくいわけです。ですから警備する側と政治側、これは与野党を含めて政治側と警備する側が、本来国家公安委員会がいいと思いますが、よく議論をして警備のガイドラインというものを作る必要があると思います。どこまでが警備当局がやって、どこまでが政党がやるのかとか、そういう議論をする必要があると思います。

桑子:
例えば具体的にどういうことがありますか。

板橋さん:
例えば、遊説する際に誰だったら手荷物検査を行うとか。本来理想的なのは屋内で演説する。アメリカでもそうですよね。屋内で演説して、入り口のところで検査を行うと。それを全員にやるのは無理ですから、どういうランクの人だったらそういう警備を行うとか、そういう対策を行うというのを、やはりそれぞれ話してガイドライン化すべきだと思います。

桑子:
ただ、この規則を厳しくすればよいかというと髙橋さん、遊説する側にとってはどうなのでしょうか。

髙橋:
多くの国会議員は、今回の事件があったからといって選挙のスタイルを変えるわけにはいかないと話しています。政治家にとって街頭演説というのは有権者とリアルに触れ合える貴重な機会でもありますし、選挙は握手した人の数しか票が出ないと、こういった言葉もあるぐらいでして演説を機に集まった人の距離も近くなります。

また、みずからの勢いをアピールするといったためにもできるだけ多くの人を集めたいといった心理も働きますので、関係者の動員に加えて事前に日程を公表して来場を呼びかけるといったことが多いのが現状です。

言うまでもなく、暴力によって選挙運動が萎縮するようなことがあってはなりません。実際に事件が起きてしまった以上、警備のあり方などを見直していくことが求められます。

桑子:
見直すところは見直すということですが、こうした事件の背景の一つには武器の密造の問題というのがあります。専門家はこのように指摘しています。

銃器の専門家 津田哲也さん
「一般人がネットなど個人間でやりとり。実態がつかみづらい」

一般人がネットなどを通じて個人間で情報や部品などのやり取りをしていることが多いため、実態がつかみづらいんだという指摘です。

私たちは、自宅で銃を密造したり違法な火薬を所持していた罪に問われている被告に接見しました。危険物が身近な場所で造られ、広がっている実態について明かしました。

諏訪博宣被告
「きっかけは本当に興味本位だった。安倍元総理の事件のあとは規制が強まると考え、部品を買い集めた。ネット上では規制はあるが、知識がある人じゃないと理解できないように書いたり、部品の名前を微妙に変えている人もいた」

相次ぐ襲撃事件 “武器密造”どう防ぐ

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
こうした中で、どう防いでいったらいいのか。警察による規制はどうなっているのでしょうか。社会部の笠松さん、安倍元総理の事件を受けて規制の状況というのはどうなっているのでしょうか。

社会部デスク 笠松弘治(中継):
警察当局は、特にインターネット上での対策を強化しました。具体的には銃器や爆発物の製造方法などの情報を有害情報と位置づけてネット上の書き込みをチェックしていますし、一般からの通報も受け付けてサイトの管理者に削除を要請しています。

また、爆発物の原材料は市販されていますので大量購入者などにも目を光らせています。ただ、有害情報を削除してもまた新たな情報が掲載されますし、原材料も本来は全く違う目的で販売されているものなので、漏れなくチェックするのは限界があります。

今回、再び事件が起きたことで対策に決め手を欠く現状が浮き彫りになったといえ、民間事業者の協力も得ながらどう防いでいくのか検討を急ぐ必要があります。

桑子:
そして板橋さん、日本では5月に広島サミットも控えていますが、この要人警護のあり方はどうあるべきでしょうか。

板橋さん:
選挙の警備・警護とサミットのような国際的なイベントの警備・警護と、やはり混同しないほうがいいと思いますね。今、すでに広島にはたくさんの警察官が入って着々と準備を進めています。大きな違いは、やはり要人たちを隔離する。会場の周りは塀で囲って隔離する。一般の人は入れないという形にしているわけです。ですから、根本的なスタンスが違うということで、あまり混同して考えないほうがいいと思いますね。

桑子:
それぞれの警備・警護のあり方をしっかり検証していく必要があります。まずは事件の解明が急がれます。

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