クローズアップ現代

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2021年4月15日(木)
松山英樹 メジャー制覇 知られざる舞台裏

松山英樹 メジャー制覇
知られざる舞台裏

マスターズで日本選手初のメジャー制覇を成し遂げた松山英樹選手。NHKは2014年からアメリカ挑戦の日々を密着取材していた。「日本人だからメジャーは勝てないということは絶対ない」という信念のもと、肉体改造と人一倍の練習に励む日々。時に悔し涙を流しながら、妥協を許さない姿をカメラはとらえてきた。大学時代の部屋に掲げていた色紙「才能は有限・努力は無限」をそのまま貫き通してきた松山選手。青木功さんや恩師、元キャディーなどの証言も交え、快挙に至るまでの知られざる舞台裏に迫る。

出演者

  • 丸山茂樹さん (プロゴルファー)
  • 井上 裕貴 (アナウンサー) 、 保里 小百合 (アナウンサー)

松山英樹 メジャー制覇 "努力は無限" 知られざる舞台裏

松山選手が無限の努力で目指してきたもの。それが…。

松山英樹選手
「やっぱりメジャーで勝ちたいですし、日本人、まだ誰も勝ったことないので」

ゴルフ界の最高峰・メジャー大会。世界のトップ選手だけが出場を許される、4試合(マスターズ・トーナメント、全米オープン、全英オープン、全米プロ選手権)。この大会を制することが、ゴルファーの最高の栄誉です。これまで、日本を代表する選手が何十年も挑み続け、そのたびに跳ね返されてきました。

青木功さん
「私は2位にしかなってないんで勝つ難しさは何回も経験しているけど、勝とうとする気持ちの中で、いかに自分のゴルフをコントロールする難しさ。並大抵の努力じゃなくて、何て表現していいか私もわからないです」

「本当に日本人が(メジャーで)勝てるのか、半信半疑に思うファンもいると思うんですね」

松山英樹選手(2013年)
「自分はどう考えても日本人ですし、今からアメリカ人だって言っても絶対無理だと思うんで。日本人の誇りを持ってますし、勝てないとわかっているものをやるわけにいかないじゃないですか。自分は勝てないと思うんじゃなくて、勝てると思ってやってます」

松山選手がプロになってから、6年間キャディーを務めた進藤大典さん。アメリカでの厳しい戦いを、最も近くで見てきました。

元専属キャディー 進藤大典さん
「言葉も通じないし、応援してくれる人も少ないし、もう孤独感しかないし。でもそこで自分を奮い立たせる。最後は本人が自分で自分を鼓舞しないと、戦えないですよね」

立ちはだかる メジャーの壁

アメリカ挑戦4年目。松山選手はメジャー大会の一角、全米プロ選手権に出場します。ここで、勝ち切ることの難しさを思い知らされることになります。

2位という好位置で最終日を迎えた、松山選手。前半の連続バーディーで、首位に立ちます。しかし、夢のメジャー制覇へ残り9ホールとなった後半。異変が起こります。

11番、1.3メートルのパーパット。ボギーをたたき、2位に並ばれます。そこからミスが止まらなくなります。

松山英樹選手
「なんか違うな、自分自身がすごい違うなってのは感じてましたし、雰囲気が何か違うな」

優勝への期待から一転、5位に終わりました。

元専属キャディー 進藤大典さん
「いろいろ悔しい思いもしてきましたからね、本当にメジャーでも。練習してトレーニングして、ゴルフだけに打ち込んで、あれだけやっている英樹が報われないのは、見ていてつらかったですよ」

やはり、日本人はメジャーで勝てないのか。松山選手は自分には足りないものがあると、対談で打ち明けました。

松山英樹選手
「自分の思ったゴルフができなかったっていう、悔しさですよね。勝てなった悔しさっていうより、うまくプレーできなかったのが、すごく悔しかった」

丸山茂樹さん
「大舞台で自分をコントロールできなかった、いらだちが涙に変わって出たと」

松山英樹選手
「自分がうまくコントロールできなかったっていうか、ゴルフでなんでここまで崩れてしまったんだろうという。それがわからないまま最後までいったから、負けたんだろうな」

1980年の全米オープンで2位となり、日本選手でメジャー制覇に最も近づいた、青木功さん。世界のトップで勝つためには、必要な気構えがあるといいます。

青木功さん
「体・技・心、私はよく心技体って言わないで、体技心って言いますから。心が先にいっても、技術が先にいっても、体力はできませんよ」

"体"を鍛え "技"を伸ばす

松山選手が、メジャーを制するために取り組んできたのが、肉体改造。シーズン中にもかかわらず、上半身の強化に乗り出す、異例の決断を下したのです。

「理想の体は?」

飯田光輝トレーナー
「竹、竹です。ヒノキじゃなくて、ヤナギでもなくて、竹。しなって止まる」

松山英樹選手
「僕は最強の体を目指しますよ。竹じゃないです。僕は最強です」

松山選手の努力を間近で見ていたのが、1年早くアメリカに渡っていた、石川遼選手です。試合で18ホールを回った後、誰よりも遅くまで練習する松山選手の姿に、石川選手は刺激を受けたといいます。

頭に描いたイメージとスイングを一致させるには、どうしたらいいのか。納得がいくまで練習を終えることはありません。

石川遼選手
「どれだけ自分と向き合って逃げずに戦っているかっていうところが今の英樹につながっていると思うので、自分が設けている自分に対してのラインが非常に高いなって思いますね」

松山英樹選手
「新しい発見があるとすごく、また練習やろうっていう気持ちになるんで、そういう発見がうまくつながっていけばいいのになってのはすごく思います。練習だけは絶対、怠らないようにしようみたいな」

無限の努力の成果は、目に見える形で表れます。プロ1年目は、ドライバ―の平均飛距離は291ヤード。4年後には、303.3ヤードへ。全選手の平均を10ヤード以上も上回り、世界の飛ばし屋たちに肩を並べるまでになりました。

プロとして成長する松山選手の姿を、10年に渡り取材してきた、ジャーナリストの桂川洋一さん。自分に課した練習メニューを妥協せずにやり抜いてきた松山選手に、世界のトップに立つ資質を感じたといいます。

ゴルフダイジェスト・オンライン編集本部 桂川洋一さん
「毎日毎日蓄積していく、毎日つまらない同じことをずっと繰り返していたところに、ゴルファーとしてではなく、すごく一人の人間として、ああ一流っていう人はこういう人なんだなって思ってきました」

突きつけられた壁 決められないパット

松山選手を悩ませ続けていたのが、パットでした。2017年の全米プロ選手権でメジャー制覇に近づいたときも、肝心なところでなかなか決めきれずにいたのです。データにも如実に表れていました。PGAツアーに参加する選手の中で、松山選手のパットの実力を示す指標は下位に位置づけられていました。

青木さんは、パットの成績が伸び悩んでいる背景には、精神面が大きく影響していたと分析します。

青木功さん
「昔から名言があるように『Driving is show, putt is money(ドライバーは見せ物、パットは金)』、パターが入ればどんなに長くても入ればバーディーは出るけど、パッティングが悪ければ、どんないいショットをしてもパーでおさまってしまう。プレッシャーがないときはできるんです。勝ちたいとなったときに、パッティングは自分の狙ったところにいかに冷静に打てるかです」

どんな精神状態でも、イメージと寸分たがわぬパットを打ちきれるように。ひたすらパターを打ち続ける練習が始まりました。

「いま、何と闘っている?」

松山英樹選手
「何だろう。壁でもないし、自分でもないし、人でもないし。自分になるのかな、結局」

松山選手の努力する姿を、見守ってきた人がいます。大学時代の恩師、阿部靖彦さん。みずからと厳しく向き合う松山選手は、いつか必ず壁を乗り越えられると信じていました。

東北福祉大 ゴルフ部監督 阿部靖彦さん
「ここでいいっていうものを、知らない子なんです。人一倍、誰よりも松山英樹という人間は、向上心を持っている子なんです。これでいい、これで終わりというのは、松山英樹にはない」

パットの克服無くしては、メジャーを制覇できない。集中力を切らさず、一打一打を研ぎ澄ます日々が続きます。こうした地道な反復練習をこなす松山選手の姿を、石川選手も見ていました。

石川遼選手
「普通、練習すればするほど人ってうまくなると思いがちなんですけど、やはりそんな簡単な話じゃなかったりするので。間違ったことを1万球打つのと、正しいことを1万球やるのは結果に差が出るので、同じ1万球ただ打てばいいかというと、そういう話でもなかったりするので」

目の前の霧は、いつ晴れるのか。メジャー制覇という目標のために、もがき続けていました。

去年の暮れ。一時帰国した松山選手は久しぶりに進藤さんと食事をし、いまだ目標を果たせずにいる焦りを口にしました。

元専属キャディー 進藤大典さん
「30代に入っていく中で(現在29歳)、いまここ数年以内にメジャーを勝たないと、その先にメジャーを勝つのは難しくなるのではないかと。頑張ってほしいから、あえてプレッシャーをかけた。英樹も"それは本当によく分かっている"と言っていた」

さらに、恩師の阿部さんにも意見を求めた松山選手。

阿部靖彦さん
「悩まなければ進歩はないので、"お前が頑張るしかない"、その一言。最終的には松山英樹本人が自分で考えて、自分で前に進んでいかなければならない。そういう話は英樹とした」

自分で変える決意 "努力"でつかんだメジャー制覇

松山選手は、これまでのやり方を変えることにしました。プロになって初めて、専属のコーチをつけたのです。

目澤秀憲さん。データ分析に基づき、松山選手にアドバイスすることにしました。

専属コーチ 目澤秀憲さん
「足りなかったものを僕が松山君に選んでもらって、僕が今度つなげていく作業をしないといけない」

これまで、自分自身の感覚を何より大切にしてきた松山選手。客観的なアドバイスを、自分のゴルフに生かそうとしたのです。

目澤秀憲さん
「自分の感覚を否定したり、間違っていたり、受け入れるのが大変ですし。僕が松山君に必要なことって何かなって日々考えて、松山君も練習している時に考えて、二人で気づいたら休みの日に2~3時間パターの練習をしていたって感じ」

そして迎えた、10回目のマスターズ挑戦。磨き続けてきたパットは、難しい距離を次々とねじ込んでいきます。

パットの成長について青木さんの印象に残ったのは2日目、最終18番のパーパット。順位を落としていたこの日。ボギーで終えると、翌日に影響しかねない大切な場面でした。

青木功さん
「自信があるから、ちゅうちょしないで打っていた。いつもだと結構時間がかかる。練習のたまものですよ。"こういってほしい"じゃなくて、"こうやれば絶対こうなる"っていう自信ですね」

3日目、松山選手は猛チャージ。

元専属キャディー 進藤大典さん
「明らかに雰囲気が、スイッチが入って、もうゾーンに入ってて」

マスターズで自己最高の65をたたき出し、単独首位で最終日を迎えることになりました。

大会に向かう朝。見送った松山選手の姿に余裕を感じたと、コーチの目澤さんは言います。

目澤秀憲さん
「"自信を持ってやっておいでよ"と伝えて。いつもだったらにごすかなって思ったけど、"自信を持ってやれたらいいですね"って笑いながらスタートしていったのが印象的でした」

最終日、残り9ホール。4年前の全米プロではここから崩れ、涙をのみました。思うようなプレーができません。それでも…。

東北福祉大 ゴルフ部監督 阿部靖彦さん
「怒らず、慌てず、焦らず、そしてあの笑顔。松山英樹という人間の成長。そして、ゴルフの成長」

単独首位を守り、近づいてきた10年越しの夢。

進藤大典さん
「うまくいかない葛藤だったり、結果が出ないことの歯がゆさだったり、自分への期待から来る落胆、悔しさ。その彼が、やっと本当に報われた瞬間。18番で上がってくる彼を見たとき、本当に感動しました」

苦難を努力で乗り越え、つかみ取った栄光。

松山英樹選手
「ゴルフが好きで、うまくなりたい、試合で勝ちたいって気持ちでやっているので、努力っていえば努力ですけど、やっと日本人でもできるということが分かったと思うので良かった」

松山英樹 メジャー制覇 丸山茂樹さんが語る強さ

保里:9年間アメリカでプレーされ、松山選手とも親交が深い丸山茂樹さんにお越しいただきました。丸山さん、松山選手は"努力は無限"、これを貫いてこられたと思うのですが、その姿を間近で見守ってこられて今どんなことを感じていますか。

丸山茂樹さん (プロゴルファー)

丸山さん:各選手、みんな努力はするのですが、どういう努力をしていくかというのは個々で違いますし、本人はそのテーマを決めて、そこに向かって一生懸命努力をする。それは体でもそうですし、ゴルフでもそうですし、その姿というのは本当にすごいなといつも思っていました。自分たちもそういうことをやってきているのですが、どういう努力をするかって個々で違うので、本当にすごい努力をしてるなというのは分かっていました。

保里:丸山さんが気付いた松山選手の努力の特徴、どんなところでしたか。

丸山さん:やはり高い目標をしっかり持つ。それに向かって突き進むというところでしょうか。そこは大事だと思いますね。

井上:あまたのトッププロがいる中で、松山選手はどう違うのでしょうか。

丸山さん:どう違うのかといわれると非常に難しいですが、やはり一番すごいところは再現性をしっかりと持つ、それを高めるための練習量をこなすことですね。やはりゴルフというのはミスがつきもののスポーツなので、それをいかに試合に出ている人数の中で一番減らすかが勝負になってくる。そういう総合力をすごくいつも気にしてやっていたと思うので、そこのショット能力というのは非常に高い選手である。そこに対してしっかり努力をして、自分が再現性を持つという目標にきちんと向かっていたのではないかと思います。

保里:これまでいろいろと積み重ねてこられた中で、周りの方々にいろいろとアドバイスを請うような場面もあったのでしょうか。

丸山さん:それはすごくあったと思います。だから僕が一番感心したのは、やはり「聞く」、人にいろんな情報収集をする能力は高いかなと感じました。

井上:それは丸山さんのところにも?

丸山さん:僕のところにも来ていただきましたけど。一番最初、2013年でアプローチのことでいろいろな話をさせてもらった。練習をしていく中で生まれていくものもたくさんあって、そのうちやはり人の話をたくさん聞いて、要らないところは削っていく能力は高いのではないかなと思います。

保里:どんどん吸収して、ここまで歩んでこられたのですね。

井上:丸山さん、元キャディーの進藤さんがおっしゃっていましたけれど、アメリカで戦う孤独感。丸山さんもその厳しさをよく知っていらっしゃると思うのですが、実際どんな難しさがあるのでしょうか。

丸山さん:そうですね。やはり誰も知らない地に行くので、いす取りゲームみたいなものですから、そこに入るのにはことばの壁は大きいですし、それでどんどんどんどん環境も毎週違う国に行ってるような感じがするんです。移動もすごく遠いですし、どんどん孤独になっていくというのは僕も同じことを感じました。

保里:新型コロナの影響もあって、その孤独感、厳しさというのはより一層…。

丸山さん:増していると思います。なかなか外に出れる環境もなくなってきていると思いますし、メンタル的にも感染してはいけないとずっと気にしなくちゃいけないという。ただ本人に聞いたら、感染するような行動は一切していないって言っていましたけど。

保里:ゴルフ一筋で。

丸山さん:そうでしょうね。

保里:そうした孤独もあった厳しい状況の中で、今回のマスターズ優勝を果たしたわけなのですが、その前の3年間、優勝からは遠ざかっていたと言われています。ただ、丸山さんはこの7年間を別の捉え方をされています。ご覧いただいているのが松山選手のPGAツアーの成績なのですが、コンスタントにトップ10に入ってきた。そして年間ランキングでは、7年連続で30位以内をキープしてきた。この軌跡のすごさは…。

丸山さん:皆さんにはどう伝えていいのか分からないのですが、本当にすごいことなんです。みんなが悪い悪いと言われて優勝できないと言われている中での、この成績なので。本当にここは、もっと評価してもらわないと。これをできる人というのは日本人では初めてですし、アメリカツアーでも3人しかいないのです。この7年間、ずっと最後の舞台(=年間ランキング30位以内の選手のみが出場できる年間王者決定戦)に立っている。いつも平均的にランキングをキープできる人がいないということを、もう少し皆さんに理解していただけたら彼のすごさがもっと分かるのではないかなと思います。

保里:今回この偉業をなし遂げられたということで私たちこうして今、振り返ることができているのですが…。

丸山さん:優勝したときではなくて、彼のやってきた形跡を本当にしっかりと見ていただきたいなと思います。

井上:3年優勝がなかったわけですが、これは決して停滞ではなかったと?

丸山さん:僕はそう思ってました。僕も必ずいろんなところでお話しさせてもらうのですが、ゴルフのコンビネーションですね。ドライバーがあって、セカンドショットのアイアンショット、アプローチ、パター、メンタルという5つのコンビネーションがマッチングすれば、この成績を残している限り絶対どこかでこの帳尻が合ったときに勝てる、というふうにいつも彼と話してるときに言ってたので。これが証しですよね、今回は。

保里:本当に起こるべくして起こった偉業だったと。

丸山さん:僕は思っています。

井上:松山選手の絶え間ない努力と挑戦。今回の勝利を通して、丸山さんはどんなメッセージを受け取りましたか。

丸山さん:世界の歴史的扉を開けて、これからのゴルフ界の未来、アジア選手の未来にやはり勇気と希望を与えたと思っています。

保里:そして今回のことは、ゴルフファンの皆さんはもちろん、そうでない方々にも本当にインパクトと感動が。

丸山さん:そうですね、これでもっともっとゴルフをみんなに見てもらいたいなと思います。

井上:次は全米プロ選手権ですね。

丸山さん:はい。

保里:来月ですね。

丸山さん:楽しみです。

保里:2017年の涙の雪辱を果たしていただきたいなと思います。ありがとうございました。

丸山さん:どうもありがとうございました。