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2020年12月3日(木)

新型コロナウイルス“第三波”
迫られる“命の選択”

新型コロナウイルス“第三波” 迫られる“命の選択”

新型コロナの“第3波”で重症者の人数が過去最多を更新し、亡くなる人も急激に増えている。こうした中最前線を取材すると、一人一人がいわば「命の選択」を迫られる事態が起きていることが分かってきた。コロナ患者を治療する病院、介護施設、救命センター…。それぞれの現場から、いま人々が意識しなくなってきている「死」や「命」を見つめ直し、私たち一人一人に投げかけられているものは何か、改めて考えていく。

出演者

  • 今村顕史さん (都立駒込病院感染症科部長)
  • 武田真一 (キャスター)

いま起きている 病院での“看取(みと)り”

新型コロナの患者のために、最大90床を確保している大阪市の十三市民病院では、10月以降の“第3波”で、入院患者の高齢化が急速に進んでいます。“第1波”“第2波”と比べて70歳以上の患者の割合が増え、半数を超えているのです。

大阪市立十三市民病院 西口幸雄病院長
「かなりきつい人ばかり入院するようになってきましたし、繁忙度というか、それがかなり前半の“第1波2波”と比べると全然違う。」

高齢患者が押し寄せる中、病院が想定していなかった事態も起きています。
新型コロナの患者は、症状の重さに応じて3段階に分けられています。ICUなどで高度な医療が必要な“重症”。重症には至らないものの、入院が必要な“中等症”。そして“軽症・無症状”です。この病院は、中等症の患者を専門に受け入れています。入院時、患者や家族に対し、万一、危険な状態になった場合、高度な医療を希望するか意思確認を行っています。希望していれば、症状が悪化したとき、重症患者用の病院へ転院させます。一方、希望していないと、できる限りの治療を行いますが、この病院で亡くなることもあるのです。

“第3波”以降、この病院では中等症の患者が10人亡くなっています。大阪府全体の死亡者数で見ると、中等症や軽症に分類される患者が、重症よりも6倍多くなっているのです。

取材のさなか、また1人、亡くなりました。高度な医療を希望していなかった、高齢の女性でした。病院地下にある安置所へ、葬儀社の手でひつぎが運ばれてきました。通常、看護師が行うことのない“納棺”です。

看護師
「求められていることと、私たちが本来やるべきことのギャップがあって、気持ちに折り合いをつけてやっていくしかない。慣れないですね。何回しても、患者さんをひつぎに入れる、納棺するっていう作業はずっと慣れないことだと思います。」

遺体は、火葬場へと向かいました。実はこの病院は、大阪市からの突然の要請で、5月から新型コロナの専門病院になりました。増える高齢の患者を前に、看護師たちは慣れない防護服を着て、介助まで担っているのです。命綱である酸素マスクを外してしまう認知症の患者の対応なども続き、大きな負担です。

「(汗で)ビチョビチョ。(服の)色が変わった。」

「息が苦しいです。息が上がると、目の前が曇って視界が悪くなるし、見落としがないように何度も確認をしなければいけない。」

4月以降、この病院では風評被害への懸念や家庭の事情などを理由に、12人の看護師、10人の医師が辞めています。医療の最前線の現実です。

西口幸雄病院長
「1人減り2人減り、同僚が辞めていくとやっぱりつらい。残った者もつらい、辞めていくのもつらいと思う。葛藤しながら働いている人もいっぱいおってね。先が見えへんのが怖いねん。」

希望する医療を受けられる?あなたは 医師は

切迫した状況の中、人工呼吸器をつけるかどうか。患者本人や家族とともに、判断の難しさに直面する現場があります。
主に重症患者の治療に当たる、聖マリアンナ医科大学病院では、コロナ専用の病床は17ありますが、すでに12床が埋まっています。

聖マリアンナ医科大学病院 救命救急センター長 藤谷茂樹医師
「(重症化する)ボーダーラインの3名の患者さんなんだけれど、本人はできるだけ人工呼吸器は使いたくない。本人はできるだけこのままで診てほしいと。ギリギリの状況にあるということで、状態が少しでも悪くなれば(人工呼吸器を)挿管する方向でいいんだよね?」

患者の中には、人工呼吸器の装着は負担が大きいなどの理由で、望まないケースも少なくありません。しかし、呼吸状態が悪化すれば、必要となるのが現実です。

藤谷茂樹医師
「(患者)本人は、できるだけ人工呼吸管理はしたくないと言っているんですが、どうしても呼吸が苦しくなってくると、(人工呼吸器を)せざるを得なくなってくる。」

「ご家族にはどう伝えるんですか?」

藤谷茂樹医師
「これ以上、人工呼吸管理をしないで診ることはできないので、人工呼吸管理を今からした方がよろしいかと思います、ということで家族から承認をいただきます。」

医師たちは患者の状態を確認しつつ、本人の意思を繰り返し聞きながら、治療方法を探っています。一方で、人工呼吸器は主に高齢者の場合、一度つけると長期間外せなくなり、その数も限られています。

藤谷茂樹医師
「ICUがすでに、重症患者さんで埋まっています。人工呼吸管理がなされています。」

人工呼吸器をつけた患者には、4人の看護師が対応に当たり、人工心肺装置ECMO(エクモ)に至っては最大10人必要となります。

もし回復が見通せない場合、その患者に対してどこまで人工呼吸器を使った治療を行っていくべきなのか。この先、患者が増え続ければ、医師たちはさらに厳しい判断を迫られるのではないかと危惧しています。

聖マリアンナ医科大学病院 救命救急センター 吉田英樹医師
「救えた命を救えなくなる。そういう選択を強いられている状況では、ご高齢の方に対する(人工呼吸器の)挿管は、判断は、そういうフェーズではより難しくなってくる可能性はある。判断に絶対的な基準がないことが難しい。」

患者の意思を優先することを大原則としてきた医療現場。新型コロナの収束が見えない中、どう命を守っていくのか、新たな局面を迎えています。

藤谷茂樹医師
「望んでいても治療ができない。医療機器が足りなくなってくる。私たちは命の選択といったことを、患者さんと相談しないといけなくなる場合が出てくる。十分な医療ができなくなる。こういった状況は、できるだけ回避したい。」

延命治療を望む? あなたは 家族は

今、新型コロナで死亡する人の多くが、重症化リスクの高い高齢者です。
70代の死亡率は5.7%。陽性者100人のうちおよそ6人が亡くなります。80代以上では、陽性者100人のうち、14人が亡くなっているのです。

新型コロナに感染し重症化した場合、人工呼吸器やECMOなどの延命治療を望むのか望まないのか。高齢者やその家族は重い選択を迫られています。
大阪府にある介護老人保健施設です。先月から感染した場合の延命治療について、利用者やその家族に説明するための文書を作り、確認を始めています。

きっかけとなったのは、この施設で8月に起きたクラスターでした。利用者26人が感染し、6人が亡くなりました。陽性者を病院へ搬送する際、延命治療をめぐって施設側は混乱したといいます。

介護老人保健施設 竜間之郷 大河内二郎施設長
「病院、保健所等から『延命治療をどうしますか』と突きつけられることを想定していなかった。コロナウイルス感染症に高齢者がかかったら重症化します、ぐらいのイメージだったんです。でも実際に、半日とか1日の中で決めてくださいという状況に陥ることまでは考えていなかった。」

さらに、施設側が家族に意向を確認すると…。

大河内二郎施設長
「延命治療として、例えば人工呼吸器、あるいはエクモなどがありますが、希望されますかと何度も聞きました。実際にご家族はその短い時間で、答えはほとんど出せないわけです。決められないことがわかっていたとしても、そういうことが起きえると伝える。あらかじめ伝えておくことが重要かと思いました。」

おととい(1日)、この施設に看護師として務める女性の、91歳の認知症の父親が施設に入所することになりました。父親の入院先の病院で、新型コロナの陽性者が確認されたためです。入所にあたって、今後感染した場合の、父親の延命治療について話し合いが持たれました。

「治療により改善する場合もありますけれど、ご高齢者の場合は、むしろやってもよくならない。それでもほかに選択肢がないためにやることがあります。このような状況になった場合の延命治療について、施設入所を機会に考えていただけたらと思います。」

女性は家族とも相談し、できるだけ延命治療は行いたくないと考えています。しかし、実際に父親が感染した場合、難しい決断を迫られるのではと感じています。

父親が入所した女性
「ここまで頑張って生きたのなら、最後の最後は人工呼吸器とかまでは、コロナであろうといいかなと私は思うんですけれども、どうですかね。難しいですね。どっちが正しいとも、どっちが間違っているとも言えないですし、ましてや本人に選択の意思がないというか、意識がなくなっちゃって家族に託されるわけですので。」

新型コロナウイルスが突きつける重い選択。私たちは、どう向き合えばよいのでしょうか。

“第3波” 最前線からの訴え

武田:患者や家族が、延命するかどうかという選択を迫られるまで来ている。その現状の厳しさを、改めて突きつけられた思いがします。感染症の専門医で、新型コロナ対策に当たる、政府の分科会メンバーも務める今村さん、今村さんの病院でもいざというとき、どういう治療を選択するのか、意識しなければならない場面が多くなっているそうですね。

ゲスト今村顕史さん(都立駒込病院 感染症科 医師)

今村さん:そうです。私たちの病院でもできる限り、最初の入院した時点で、急に悪化したときに人工呼吸器をつけるかどうか、それは確認できる限り確認しようと思っています。それはこれまでの経験で、私たちが思っている以上に急速に肺炎が進んで、やはり家族にそれを伝えて選択してもらう時間がない、そういうことをたびたび経験したからです。先ほどあった看取りなんですけれども、呼吸器をつけないからといって治療が終わってるわけではなくて、私たちは、その最後のところまでみとるということも医療なんですね。そこには例えばタイミングを見て、多くの人、周りの人が面会できるようにしてあげたり、そういうことを時間を取ってあげたりするんですね。ただ、新型コロナは感染対策のこともあり、たくさんの人に会わせてあげることもできないんですね。ですから、非常につらい現場があります。

武田:それだけ、恐ろしい病気だということですよね。

今村さん:そうですね。

武田:こちらは全国の1日当たりの死者数の推移です。今は、“第1波”“第2波”を超えて今週の火曜日には41人となり、過去最多を更新しました。

そして年齢別の死亡者数は、80代以上が圧倒的に多くなっています。この80代以上の陽性になった人のうちの死亡率は、14%に上るということなんです。
重症の患者さんも少しずつ増えている状況なわけですけれども、今の状況の厳しさをどう捉えればいいのでしょうか?

今村さん:全体的に、今回の流行の山では年齢層がかなり上がっています。この感染症は年齢層が上がるほど死亡率が上がるので当然その重症例が増えています。一方で、ある一定の割合で、それ以下の年齢の人も重症化しますから、感染者数が増えてしまえば、例えば50代40代でも今、重症者が出ているというのが現状になります。この重症者の数というのも、実際には非常に実態と分かりにくい部分もあるんですね。例えば、本日(3日)東京のモニタリングの会議で報告された数字では、先週1週間の人工呼吸器をつけた人数というのは59人になっています。その前の週は54人なんです。これは、5人増えたという形に皆さん思うと思うんです。実は59人のうち49人は、この1週間に新たに人工呼吸器を装着した人なんです。つまり、一方では改善して装着してるところから脱却できる人、あとは亡くなる人、そういう人が大きく入れ替わって、新たな人工呼吸器の装着がたくさん行われていると。これはつけたり外したりするとき、非常に不安定なんです。そういう医療が繰り返されているということです。

武田:それだけ現場は非常に圧迫されているということなんですね。
この“第3波”、私たちの命を守る救急医療にも深刻な影響を及ぼし始めています。

こちらは、東京消防庁管内の去年(2019年)の救急搬送の出動件数です。例年、冬場になってきますと、脳卒中や心筋梗塞などで増加し、医療現場の負担が増します。感染拡大が続く中で迎える本格的な冬。新型コロナの治療と両立させることが、極めて難しくなっているんです。

命を守れるか…ひっ迫する救命の現場

年間1,800人を超える患者が搬送される、都内の高度救命救急センターです。受け入れるのは、命の危険に直面している重症患者です。今、最も恐れているのが、搬送されてくる患者の中に新型コロナの陽性患者がいることです。
本来、発熱や息苦しさなどがあり、感染が疑われる人は、速やかに検査を受けることになっています。しかし、救急搬送される患者は検査を受けていません。もし、感染していた場合、院内感染を引き起こす大きなリスクがあるのです。

杏林大学病院 高度救命救急センター 吉川慧医師
「ほかの患者に伝播(でんぱ)したら、救命センターがストップしてしまうおそれがある。それだけは避けないとだめ。それは全員の医療者が持っている危機感だと思う。」

ここでは、患者一人一人に検査を行いながら治療に当たっています。検査の結果が出るまで1時間。この間、他の救急搬送を受け入れることは基本的にできません。患者が陽性だった場合には、さらに長時間、他の救急搬送の受け入れが難しくなります。
先週、腹と胸の激しい痛みを訴えて搬送されてきた70代の男性。検査で新型コロナの陽性だと分かりました。すぐにICUの中にある陰圧室に患者を隔離。緊急の治療に当たりました。

吉川慧医師
「来たときには、もう人工呼吸器が必要な状態で血圧も低くて血圧を上げる薬を使ったり。」

治療が終わったあと、医療機器を覆うシートは一枚一枚すべて張り替えました。この間、およそ20分にわたって、次の患者を受け入れることができない時間が続きました。

杏林大学病院 高度救命救急センター 持田勇希医師
「搬送の遅れ、治療開始の遅れ、わずかなタイムラグが命にかかわってくる。何かしらの後遺症になってくるかもしれない。それは世の中の数字には出てこない。水面下で起きているようで怖い感じがする。」

医療崩壊につながりかねない、新型コロナ患者の救急搬送。その原因は何か。
東京・墨田区の保健所が調査をしたのが、感染者が検査を受けるまでの日数です。

墨田区保健所 西塚至所長
「区としては想定外。」

検査体制が整っているにもかかわらず、発症から検査を受けるまで1週間以上かかっている人が1割近くいました。その中には、症状が重くなってから救急搬送された人もいました。

検査の遅れについては、「はじめは高熱ではなかった」「仕事を休めなかった」などが理由として挙がりました。

西塚至所長
「早め早めに検査をしていれば、とっさの緊急入院も避けられたのではないかという事例は多い。新型コロナに対する警戒感が少し薄れてきていると感じる。」

今週月曜日、杏林大学病院高度救命救急センターのICUは、心筋梗塞や脳卒中、そして新型コロナの患者で満床に近い状況でした。どうすれば、この先の医療崩壊を防ぐことができるのか、医師たちの間で議論が始まっていました。

「コロナの病床を増やすと、救急を受けるための重症ベッドを削るようなことが起きてしまう。」

回復が見込めない新型コロナ患者の治療をやめる判断ができるのか、重い問いが突きつけられていました。

「もしかしたらウィズドロー(治療体制の縮小)を選択する必要が出てくるかもしれない。」

杏林大学病院 高度救命救急センター長 山口芳裕医師
「最終的に止めにくいというのはあるし、そういうところは人権的にとか、難しい問題がある。これからの感染状況がそれを許さない、本当にひどいことになりそう。そういった冷静な判断も必要になってくると思う。」

この危機を回避する手だてはあるのか、考えます。

医療崩壊の懸念は

武田:新型コロナの診療だけでなく、救急医療や通常の診療への影響が出始めているということですけれども。いわゆる医療崩壊への懸念ですね。現段階で、今村さんはどう捉えてらっしゃるんでしょうか。

今村さん:医療崩壊というと、武漢やイタリアの映像を思い出すと思うんですけれども、医療のひっ迫する状況というのは、もっと早くから現れます。この感染症を診るときには、防護具を着て、通常医療の人が必要になります。さらに症状の重い人が増えれば増えるほど、そこに必要な人員が多くなります。そこを一般医療から人を充てていく形になるので、おのずと一般医療に影響を与えられます。通常ではやれるはずの手術、あるいは救急医療、がん医療、そういうものが影響を受けてきてしまうんですね。

武田:先生の病院では今、どの程度まで近づいているとご覧になっていますか?

今村さん:やはり人員をほかのセクションから持ってこなければいけないというのは、とっくの前に始まっています。そういう意味では、きっかけはもう始まっていると言っていいと思います。

武田:日々、コロナに対する病床も充実しているという報道がありますけれども、実はその裏に、もっとほかに影響が広がっている可能性があるということなんですね。

今村さん:これは恐らく、地方とかのほうがもっと影響が与えられやすいです。地方ではもっと短い期間でひっ迫する可能性が高いと思います。

武田:症状が重くなってから受診する人が増えているということもありましたけれども、皆さん、どうか発熱などの症状を感じたら、ちゅうちょせずに、かかりつけ医や身近な医療機関にまずは電話をしたり、自治体の発熱相談センターなどに連絡をするようにしてください。
今村さん、感染拡大が続いている中で今まさに踏ん張りどころだと思うんですけれども、改めて私たち一人一人が胸に刻んでおくべきことは、どんなことでしょうか?

今村さん:今、こうしている時間も、日本各地で最前線の現場で医療関係者が必死に命を救おうと頑張っています。ただ、この感染症はパンデミックですので、普通に生活している皆さんも、実は一人一人がその最前線にいることになるんですね。その一人一人が、この感染症にかからないようにすること。それによって重症化する人が減り、あるいは亡くなる人が減り、最終的には命を選別することもなくなる。医療者にとっても応援になります。これまで終わらなかったパンデミックはありません。今、皆さんがつらい思いをして乗り越えてきているのは、医療者もみんな分かっています。だからこそ、一緒にこのパンデミックを乗り越えていけたらいいなと思っております。

武田:私たち一人一人が最前線に立って乗り切らなければならないということですね。

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