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2020年8月25日(火)

密着・医療最前線 “第2波”の苦闘

密着・医療最前線 “第2波”の苦闘

“第2波”に揺れる今、第1波を経験した医療現場では、その経験をどう生かし、どんな新たな課題に直面しているのか…。密着取材を続けている聖マリアンナ医科大学病院。第1波の経験から新たな治療方法を模索、一定の効果をあげ始めているのではないかという。一方で、感染再拡大で新たな悩みも。新型コロナの症状と似た熱中症患者の急増による病床のひっ迫。長期戦となる中での医療従事者のストレス。さらに治療薬の世界争奪戦による不足の心配…。日々発表される数字では見えない医療最前線の実態をみつめ、いま何が求められているのか考える。

出演者

  • 藤谷茂樹さん (聖マリアンナ医科大学病院 救命救急センター長)
  • 武田真一 (キャスター) 、 栗原望 (アナウンサー)

市中感染で…医療現場では危機感

「川崎市の調整本部からなんですけど、74歳の男性。10日前から、だるさ、微熱、息切れがあって。」

「迅速に進めて、PCRかけて。」

川崎市にある、聖マリアンナ医科大学病院です。地域の拠点病院で、クルーズ船の乗客を受け入れて以来、半年以上、主に重症患者を受け入れてきました。
先週、新たな感染者が運び込まれました。8月に入り、9人目です。
治療の陣頭指揮を執る藤谷茂樹医師は、この先、病床が足りなくなるのではと危機感を強めています。

「これで1、2、3、4、5、6…。」

聖マリアンナ医科大学病院 救命救急センター長 藤谷茂樹医師
「もうあとひとり入ってきたら…。」

コロナ対応の集中治療室は17床。すでに11床が埋まっていました。

藤谷茂樹医師
「かなり重症患者が増えてきて。チーム編成を考えるように、今から動くね。」

第1波では、集中治療室が満床近くまで埋まっていたこの病院。7月には、いったんコロナの新規の入院患者がゼロになるときもありました。しかし、全国的に再び感染が拡大。重症者の搬送が増加に転じたのです。

藤谷茂樹医師
「市中感染をさせないようにしてもらわなければ、医療機関の中での回転が回らなくなってしまうということがあるので、出元となっている市中感染を抑えるしかないと思うんですね。」

市中感染が広がり、誰が感染しているか見えにくい中、病院は新たな対応を迫られています。特に神経をとがらせているのが、熱中症患者への対応です。この日も、70代の女性が救急搬送されました。

「熱は38.9度。」

重い熱中症の場合、症状は発熱や頭痛、けん怠感、呼吸障害など、新型コロナウイルスとよく似ています。

「いつから熱が出てるの?」

感染リスクを考慮し、熱中症を訴える患者でも、全員まずはコロナ対応の病床に運び込みます。

藤谷茂樹医師
「誰がコロナ感染なのか、誰が純粋な熱中症なのかが分からなくなって。熱中症の中にコロナ患者が交じっていることも十分にありえるので、相当慎重に対応しないといけないと思っています。」

検査で2度陰性と判定されるまで、およそ10日間、コロナ対応病床に入院してもらうことにしています。この日、埋まっていた11床のうち、4床が熱中症患者で占められていました。

猛暑の中、長期戦を強いられるコロナとの闘い。スタッフの精神的な負担は増大していました。

看護部 熊木孝代師長
「ストレスがすごくたまってきてる。夏になって患者さんの熱中症が増えてきてるんですけど、自分たちも脱水になりがちなので。もう使命感でしか今はない感じ。」

看護師
「今後どうなるかも分からないし、自分が周りにうつしてしまう危険性とかまだあるから。」

今回、NHKが行った全国の感染症指定医療機関へのアンケートです。今、直面する課題を尋ねたところ、心理的・体力的負担の増大など現場の疲弊を訴える声が相次ぎました。

第1波のときと比べて、人々のウイルスに対する警戒が弱まっているのではないか。藤谷医師は危機感を募らせています。

藤谷茂樹医師
「僕たちは市中感染をコントロールすることはできない。患者さんを治すことはできる。最終的にどこにしわ寄せがやってくるか。医療機関にやってきてベッドがコロナ感染者で埋められてしまう。」

市中感染が広がる中、病院にとって大きな負担となっているのが、院内感染の備えです。新たに始めたのが、ほかの症状で入院しているすべての患者800人以上の、体温の細かなチェックです。

看護師
「患者さんで気になる方がいたので。38度の発熱がある。」

この日、発熱した患者が複数見つかりました。

看護師
「ちなみに心電図は?」

無症状のまま感染している可能性もあり、細かく症状を確認します。

看護師
「ちなみに咽頭痛とか、味覚障害を訴えられたりは?」
「痰が出ることはありますが、味覚障害は今のところないです。」

こうしたチェックを1日2回、800人以上に続けているのです。

ここまで徹底する背景には、4月下旬から別の場所にある関連病院で起きた大規模な院内感染があります。複数の病棟で80人に感染が広がり、最終的に14人が亡くなりました。

看護師
「絶対的に見落とさないということを目標にやっています。“万が一”“もしも”、それがこのラウンド(見回り)の一番の意味。」

さらに、スタッフの感染対策にも多くの時間を割いています。

医師
「今日はCOVID-19(新型コロナウイルス)感染症対策について、みなさんの意識と現状を調査させていただく。」

対策チームが、病棟だけでなく事務部門なども回って、手指消毒やマスク着用の徹底を図っています。

医師
「食事の直前にマスクを外して、食事直後に着用している?」

事務職員
「しています。」

市中感染が広がる中、スタッフもいつどこで感染するか分からず、ウイルスが院内に持ち込まれることを恐れているのです。

市中感染が元患者を苦しめる

市中感染の広がりは、思わぬリスクをはらんでいることも分かってきました。
4月に感染し、2か月にわたる集中治療を経て症状が改善した、50代の男性です。肺の機能が低下しているため、リハビリの際、すぐに息が上がってしまいます。
男性が今、大きな不安と感じているのが、新型コロナウイルスに再び感染することです。血液中に一度できた抗体が、しばらくすると減り始めるという研究報告もあり、再感染のおそれが指摘されているのです。

50代男性
「抗体が長持ちしないということなので、退院後またかかる可能性がある、そのリスクを考えちゃいます。次にまた肺炎にかかると、それこそまた命に別状をきたすようなことになりそうなので。」

男性の肺のCT画像です。正常な人と比べると、肺全体に白い繊維状のものが広がっています。

ウイルスによる炎症が傷痕となって、肺全体に残っています。黒い正常な部分は半分にも満たないのです。

感染対策に人一倍注意している男性。もし再び肺に炎症が起きると、残った機能も損なわれるおそれがあると医師から指摘されています。

先週、男性は4か月ぶりに退院が認められました。しかし、酸素ボンベを手放すことはできません。ようやく戻った、家族との時間。


「パパお帰り。」

男性
「ただいま、帰ってきたよ。」


「長かった。」

男性
「4か月。」

妻は、感染当初、男性の症状悪化にすぐに気付けなかったことを悔やんでいました。


「私ずっと責めてたんだよ、自分を。気付くのが遅れてしまったことを、私はずっと責めていた。」

これから少しずつ日常生活を取り戻していく男性。市中に感染が広がる中、家族全員で常に注意していかなければなりません。
藤谷医師は、回復した患者の中には、新型コロナウイルスなどさまざまなリスクにさらされている人がいる現実を知ってほしいと訴えます。

藤谷茂樹医師
「患者さんが退院されて、またちょっとしたことで病院に戻ってこられて人工呼吸管理。最悪、死の危険性も伴うという状況になってることは、ぜひみなさん理解していただきたい。」

医療の最前線が警戒する市中感染の広がり。この後、さらに深掘りします。

“ピーク過ぎた”が…最前線はいま

ゲスト藤谷茂樹さん(聖マリアンナ医科大学病院 医師)

武田:藤谷さんと中継がつながっています。市中感染の広がりに強い警戒感をお持ちだということですが、一方で、いわゆる感染拡大の第2波ピークを越えたという見方もありますね。藤谷さんは、この状況をどう捉えていらっしゃるんでしょうか?

藤谷さん:報道関係ではピークが7月末に来たということで、一般の国民に対して安心感を与えるような情報が一部流れているんですが、実際、神奈川で総患者数のピークが現在なんですね。2週間遅れて重症患者が発生する状況を考えると、かなり危機感を抱いております。現在2名、本日も2名の患者さんが東京都から搬送依頼が来たりというようなこともあり、現在重症の患者さんも含めて11床のベッドが埋められている状況で、かなりひっ迫している状態だと思っています。

武田:退院した男性は、一命を取り留めて家族のもとへ帰ったのに、これからも再感染の不安を抱えて過ごさなければならないということでしたね。私たちが感染を拡大させないための意識は、まだ緩めてはならないということですね。

藤谷さん:この患者さんは数か月に及ぶ闘病生活で一命を取り留めて、先ほどのCT画像にもありましたように、肺の障害がかなり広範に及んでいると。在宅酸素も必要な状況で、社会復帰にはまだ時間がかかるんですね。このような患者さんがいるんだと。特に若い人たちから見れば父親、母親の年代だと思うんです。そういう若い人たちが、父親、母親たちを守るんだという自覚を持って行動していただければと思っています。

栗原:市中に感染者が増えると、どう医療機関を圧迫するのか。こちらをご覧ください。

赤が感染者、そしてオレンジ色が熱中症などコロナに似た症状を持つ人です。このように市中に感染が広がっていきますと、似た症状の人も感染している可能性がある前提で受け入れなければなりません。そのため、コロナ用の病床がひっ迫してしまいます。
なぜ、こうしたことをするのかといいますと、感染した可能性のある人を一般の病棟で受け入れると、院内感染が起こるリスクが高まってしまうからなんです。こうした院内感染が、高齢者などハイリスクの患者に広がると、救える命も救えなくなってしまうんです。まさにこうした状況を防ごうと、最前線の皆さんは今、奮闘してらっしゃるんですけれども、現場の皆さんの負担は増えているんですよね。

藤谷さん:特に6か月に及ぶコロナの闘いがわれわれの施設では続いております。そのような中で、(新型コロナに対応している救命救急センターでは)職員は1人も感染症を起こしていない状況なんですが、自分たちが感染症をもらわない、うつさないということで、プライベートでも相当気を遣って生活してもらっています。会食をしたり、旅行に行ったり、実家に戻ったりということもできず、なかなかコミュニケーションが取れないという負担はかなりのものになっていると思います。

武田:感染者の拡大は、日本全体で見ればピークを越えたとも見られているんですが、第1波の経験から、重症者のピークは2週間ほど遅れて来るとも言われていまして、今回もこれから正念場を迎えるおそれがあります。

重症者をどう救うのか、新たな懸念も生まれています。

見えてきた重症者治療の兆し

第1波の経験から、重症者の治療に兆しが見え始めています。
今月(8月)初めに救急搬送された、50代の男性です。治療の末、劇的に回復しました。入院した初日は、最後のとりでと呼ばれる人工心肺装置ECMO(エクモ)の使用が検討されるほど重篤でした。

速やかに投与したのはレムデシビル。ウイルスの増殖を抑える薬です。

その後、炎症を抑える薬なども投与しました。すると…。

藤谷茂樹医師
「もう立てるまできてるんです。」

入院から僅か2週間ほどで、自力で立てるまでに回復しました。

藤谷茂樹医師
「ダイヤモンド・プリンセス号の第1波が来る前からの闘いを経験してきて、かなりうちの病院の中では標準的な治療というものができつつあり、(患者は)本当にエクモ(が必要)になるかどうかというところまできている状況だったので、かなりいい回復をしてくれている。」

治療薬 長期戦で確保できるか

治療薬レムデシビル。今、病院が懸念しているのは、この薬が今後も確保できるのかという問題です。

藤谷茂樹医師
「2人(感染者が)入ったら、(薬が)ないでしょう。」

この日、藤谷医師が電話していたのは、病院の薬剤師です。

藤谷茂樹医師
「レムデシビルの薬剤が足りなくなるので、至急、薬剤を取り寄せなければいけない。」

レムデシビルの在庫が底をつきかけていました。

薬剤部 前田幹広さん
「ちょっと少ない、4つ。不安でしょうがない。今日新たに患者さんがもし来たら、このうちの2つを使ってしまうので。」

レムデシビルはアメリカの製薬会社が製造し、今、世界中の医療機関で使用され始めています。世界的にニーズが高まる中、日本国内への供給量が限定的になる可能性があるため、国は一括して在庫を管理。安定的に供給するため、医療機関から申請を受け配給しています。そうした中、早期に薬を投与すると症状が改善する研究結果が相次ぎ、先月(7月)、国は重症者を対象にしていた配給をそれ以外にも広げました。

ますます高まるレムデシビルへのニーズ。医療現場では、今後、薬を安定的に確保できるのか不安を募らせています。

薬剤部 前田幹広さん
「レムデシビルの在庫があるときは問題ないですが、ゼロになった状態で新規患者さんがくると、そこから入力して配給されるまで早くても1日かかるので、毎日どうしてもやきもきするような状態で、あす来るか、あさって来るか分からない状態なので、そういう不安感も常にあります。」

NHKが行った医療機関へのアンケートでも、懸念の声が多く寄せられました。

“現在在庫が不足し必要な人に投与できない”

“長期連休中に供給できないなど、現状では迅速性に欠ける”

今後、国はレムデシビルをどう安定的に供給していくのか。NHKの取材に対し、「数量に関して具体的なコメントをすることは、円滑な供給に差し障りがあるため差し控えたい。1日でも早く国民の皆様の不安を解消できるよう取り組んでまいりたい」としています。
長期戦が強いられるコロナとの闘い。救える命をどう救うのか、スタジオでさらに深掘りします。

“長期戦”何が必要なのか

武田:ようやく治療法が見えてきたわけですが、その肝心な治療薬がすぐに手元に届きづらいという状況も出てきているわけですね。国にはどんなことを望まれますか?

藤谷さん:レムデシビルは毎日、感染情報システムにわれわれは情報を入れてるんですが、その情報をもとに1~2日後に配給されるという仕組みになっています。中等症と重症患者一律に配給されるということもあって、重症患者が来てすぐに使いたいときに使えないといったような問題が、ここの病院でも発生しています。そのため国には、重症患者を受け入れる施設には、少し余裕を持ったストックを配給していただければというふうに思っています。

栗原:NHKが全国各地にある161の感染症指定医療機関を対象に行ったアンケートでも、今後への懸念の声が寄せられています。

「コロナ対応病棟で勤務するスタッフの確保が困難」「コロナ対応に人員が割かれ、本来の高度医療の提供に支障が生じる」。さらに、「冬にインフルエンザかコロナかの選別が難しくなって、現場の混乱が予想される」という声です。

武田:今は熱中症との区別が難しいということですけれども、これからインフルエンザの流行と重なった場合、具体的にはどういう懸念をお持ちなのでしょうか?

藤谷さん:昨年度も、われわれの施設では3名ほど重症インフルエンザ感染でECMOを回す症例がありました。この症例と新型コロナ感染がかぶると、われわれの施設は4台がマックスのECMOの台数なんですが、それが足りなくなってしまうと。そうなると、救急崩壊にもつながってしまうということを懸念しております。

武田:インフルエンザは、ECMOにつながる場合もあるということなんですね。

藤谷さん:はい。重症インフルエンザ感染の場合はECMOが治療法の1つになることもあるんですが、その症例がインフルエンザと新型コロナ感染が同時にかぶると、ECMOが使用できなくなるという危機感があります。

武田:今、改めて医療現場から私たちに訴えたいことは、どんなことでしょうか。

藤谷さん:私たちは、経済活動は前に動かしていかないといけないと感じています。しかしながら、前に動かすということは、院内感染、市中感染を起こさせないようにするということが必要になってきます。そのためには、国民一人一人が感染を、人にうつさないというようなことが必要になってくると思います。国民の皆さんにはぜひそれを守って、社会を、経済活動を前に進めるようにしていただきたいと思います。