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2019年8月27日(火)

どうなる“最悪”の日韓関係~解決の糸口はあるのか~

どうなる“最悪”の日韓関係~解決の糸口はあるのか~

国交正常化以降、「最悪」といわれる日韓関係はどうなるのか…。先週、韓国は日本との軍事情報包括保護協定“GSOMIA(ジーソミア)”の破棄を決定。対立は、安全保障や経済に波及し、これほどの関係悪化のきっかけとなった「徴用」をめぐる問題でも、両国の主張は平行線のままだ。日韓両国の思惑はどこにあるのか?そして、北東アジアの安全保障に影響が出かねないと懸念するアメリカの出方は?取材とインタビューで掘り下げて考えるとともに、今後の見通しを解説しながら、解決の糸口が見つかるのか、その行方を徹底分析する。

出演者

  • NHK記者
  • 武田真一 (キャスター)

ビジネスの最前線で…強まる不安の声

韓国と取り引きのある、日本の商社です。

韓国のニュース動画
「きょう、外務省がGSOMIA破棄を通達します。」

ソウル支店 担当者
「“強い不満”…。」

今、取引先の韓国企業から、問い合わせが相次いでいます。

担当者
「対立で両国間の物資の輸出入に影響が発生するのではないか、現場が心配をしておりまして。電話が1日何件かありまして。」

工場で使われる電気機器を韓国に輸出している、こちらの商社。韓国との取り引きは海外での売り上げの4分の1近くを占めています。日韓の対立が激しくなるにつれ、韓国の取引先が日本の製品を敬遠。

担当者
「6月、7月、共にダウン。非常に厳しい状態にある。」

先月(7月)の韓国での売り上げは、去年(2018年)に比べて4割近く落ち込んでいるといいます。

八州産業 田島一義常務
「(政治対立が)ここまで経済に波及した状態は、私自身は知りません。日本製品を使わなくなるというのは非常に危機感。」

影響は韓国企業でも。電気自動車のバッテリーを製造する、この企業。中核となる部品に日本の製品が使われています。日韓関係がさらに悪化すれば調達に支障が出かねないとして、ほかの国の製品に切り替えようとしています。

電話の相手は、中国・杭州に派遣した社員です。

中国・杭州に派遣した社員
“現地の有名なバッテリー会社と充電ステーション会社の3社で協議を行っています。”

代わりの部品は見つかったものの、品質には課題があるという報告でした。

SJTech ユ・チャングン社長
「他の国の製品を使うとなれば、検証する時間が必要になるし、余計な費用もかかります。計画の進行に支障をきたすのではないかと懸念しています。」

“GSOMIA破棄” 緊迫の舞台裏

なぜ、ムン・ジェイン政権はGSOMIAの破棄を決めたのか。実は、直前まで政権内でも意見が鋭く対立。その詳細が明らかになりました。

破棄を発表する3時間前。国防相や外務次官など8人が集まり、NSC=国家安全保障会議が開かれました。このとき、延長を主張したのが4人。破棄を主張したのが3人。意見はきっ抗し、2時間にわたって激しい議論が交わされました。

延長を主張したのは、外交や国防などに関わる閣僚ら。その理由はどのようなものだったのか。
対日政策で政府に助言をしてきたクンミン大学のイ・ウォンドク教授は、閣僚らが延長を主張した背景には、アメリカとの関係があったといいます。

クンミン大学 イ・ウォンドク(李元徳)教授
「GSOMIAは日本との安全保障上においても重要ですが、日米韓の枠組みなので、日本への対抗措置として考えるよりは、アメリカとの関係への悪影響を考慮し、米韓同盟の強化のために不可欠であるというのが延長を主張する側の立場だったと思います。」

韓国は、アメリカから再三にわたってGSOMIAの延長を強く求められていました。NHKの独自取材で、ポンペイオ国務長官と河野外務大臣の2人だけでのやり取りが明らかになりました。

(取材に基づき再現)
河野外相
「GSOMIAの継続について、韓国に念押ししてほしい。」

ポンペイオ国務長官
「すでに韓国には継続するように言っているが、改めて伝えよう。」

アメリカ国務省は、北朝鮮や中国などに対する日米韓の連携を揺るがす深刻な事態となりかねないと、危機感を強めていたといいます。トランプ政権の内情に詳しい、国務省元顧問のクリスチャン・ウィトン氏です。

米国務省 クリスチャン・ウィトン元顧問
「(GSOMIAの破棄は)日本の輸出管理の強化への対抗ということなのでしょうが、それが日米韓にとっての安全保障を脅かす可能性があります。結果的に得をするのは、韓国でも日本でもなく中国なのです。」

実は破棄決定の前日に行われた日韓外相会談でも、GSOMIAの継続を呼びかけた河野外務大臣に対し、韓国のカン・ギョンファ(康京和)外相は、韓国も安全保障上重要な枠組みだと認識していると応じていたことも明らかになりました。
アメリカとの関係悪化を恐れた外交や国防に関わる閣僚ら。これに対し、大統領の側近らは真っ向から反対しました。イ・ウォンドク氏は、側近たちはアメリカとの関係よりも国内世論を優先したのではないかとみています。

クンミン大学 イ・ウォンドク教授
「GSOMIAを『破棄すべきだ』と主張した人たちは、国民の世論調査を行ってきたと言われています。その世論調査の結果、『破棄』を支持するほうが多かったのでしょう。」

今、韓国ではムン・ジェイン政権に反発する世論が高まっています。先週も、大規模な反大統領デモが行われました。

「ムン・ジェイン!売国奴!弾劾が答えだ!」

ムン・ジェイン政権下で若者の失業率が悪化し経済が停滞。さらに今月(8月)、側近の不正疑惑も持ち上がっています。就任当初80%を超えていた支持率は、半分近くまで低下。最新の調査では不支持が上回っています。

クンミン大学 イ・ウォンドク教授
「政府与党は強く否定していますが、大統領側近のスキャンダルがかなり大きな問題となっていますし、非常に困った状況であるため、『局面打開のため、外交・安全保障政策を決定した』、そのような見方があります。」

延長か、破棄か。NSC開始から2時間後、最終的な決断を下すためにムン大統領とその側近4人が加わり、議論が続けられました。最後は大統領みずから破棄を決断したといいます。

ムン大統領の本音はどのようなものなのか。スタジオで徹底分析します。

“GSOMIA破棄”で安全保障は?

武田:GSOMIAの破棄を決断したムン大統領。その理由として、ソウル支局の高野支局長はこんなキーワードを挙げています。「国家的自尊心・積弊清算・政権の求心力」。どういうことでしょう?

高野洋支局長(ソウル支局):まず「国家的自尊心」ですが、民族主義的な色彩の濃い政権を率いるムン大統領ですけれども、今月15日の演説で対話と協力を呼びかけたものの、日本側からなんら反応がなかったとして強い不満を示したというんです。国としてのプライドを傷つけられたという意識を強くした結果、信用しないなら敏感な軍事情報は共有できないとの結論に至ったわけです。
次に「積弊の清算」。ムン政権は、保守派=親日派というくくりで保革の対立をあおってきた面があります。前のパク・クネ政権が日本と結んだGSOMIA。ムン大統領はおととし(2017年)の大統領選挙の公約で、再検討に含みを持たせていたんです。
そして、「政権の求心力」。政権浮揚の切り札である北朝鮮との関係改善は足踏み状態です。韓国経済の減速感も強まっている。さらに、新しい法相に起用した側近をめぐるスキャンダルが相次いで浮上しているんです。来年(2020年)4月の総選挙を控えて、日本への対抗姿勢を鮮明にすることで求心力を高めたい思惑もうかがえます。

武田:一方、日本政府の受け止めですが、政治部の岩田さんによりますと政府は「想定外の対応」。そして、「一線を越えた行為」だと受け止めているわけですか。

岩田明子記者(政治部):そうですね。破棄決定の前日に行われた日韓外相会談ではカン外相が河野外相に対して安全保障上、重要な枠組みだと認識していると応じまして、これまでより柔軟さがかいま見えたということなんです。それだけに、日本政府内には想定外の対応だと衝撃が走りました。
さらに、今回の決定は、米韓合同軍事演習に反発する形で北朝鮮による弾道ミサイルなどの発射が繰り返されて、安全保障面での日米韓3か国の連係の重要性が増しているさなかで行われました。北朝鮮などを利することにもなりかねず、一線を越えた行為だとこういう受け止めが政府内では出ています。

武田:その北朝鮮ですが、GSOMIA破棄の翌日も、2発の弾道ミサイルを発射しましたよね。韓国は東アジアの安全保障、そして日米韓の連携をどうとらえているんでしょうか?

高野支局長:そもそもムン大統領と側近たちは、日米韓3か国が連携して、中国、ロシア、北朝鮮の脅威に対抗するというのは、冷戦時代の遺物ともいえる古い考え方だとみなしているんです。今後は多国間の安全保障を目指すとするムン政権にとって、ある意味GSOMIAの破棄というのは理にかなっているわけです。そこには、北朝鮮の脅威に対する認識のずれがあると思うんです。ムン政権は北朝鮮を対抗するんじゃなくて融和を進めるべきパートナーだと位置づけています。そのムン政権が掲げるのが「自主国防」という考えです。これを進めるうえで欠かせないのが、朝鮮半島有事の際の指揮権をアメリカ軍から韓国軍に移管することです。北朝鮮の反発を承知で米韓合同軍事演習を続けていますのも、韓国軍の能力をアメリカ軍が納得するレベルまで引き上げるためといえると思うんですね。

武田:一方の日本政府ですが、日米韓の連携に今回の事態がどう影響すると考えているでしょうか。

岩田記者:政府高官は、このGSOMIAの破棄について影響は限定的だと述べていました。実際、今回の弾道ミサイルを発射した際には、日本のレーダーが発射段階から着弾まですべて探知していて、その情報を韓国側にも提供していたことが今回の取材で明らかになりました。
ただ、気になるのは、今回の韓国側の決定に強い懸念と失望を表明したアメリカの動きなんです。日米の外交筋によりますと、おととい(25日)行われた日米首脳会談でトランプ大統領は「韓国の行動は賢くない。北朝鮮に完全になめられる」と安倍総理大臣に不満を述べたということなんです。アメリカの反対を押し切ってまで韓国が協定破棄を決定したことが、今後の日米韓3か国の連携にどのように影響するのか。政府は、引き続き安全保障面での3か国の連携の重要性を呼びかけていく考えです。

武田:そのGSOMIA破棄で決定的になっている日韓関係の悪化。その発端となったのは1年前の、あの出来事でした。

対立の発端 「徴用」めぐる問題

日韓両国の立場の違いが鮮明となったきっかけは、去年10月、韓国の最高裁判所が下した判決でした。戦時中、日本政府は労働力不足を補うため、徴用令などで朝鮮半島からも民間人を動員。多くの人々が炭鉱や工場などで働きました。1965年の国交正常化の際に、日韓両国は日韓請求権・経済協力協定を締結。国家間の約束として、この問題は「完全かつ最終的に解決済み」だとされました。

しかし今回、韓国の最高裁判所は「個人の請求権は消滅していない」として日本企業に賠償を命じる判決を言い渡したのです。この司法判断を尊重するとした韓国政府。その理由はなんなのか。ムン大統領の外交特別補佐官を務める側近が、初めて日本のメディアの取材に応じました。

大統領特別補佐官 ムン・ジョンイン(文正仁)氏
「(判決は)そもそも日本による植民地支配が不法であり、それによる『徴用』も不法だったとみなし、連行された人たちの個人的請求権は完全には消滅していないとしている。韓国にとって日韓請求権協定で“解決した”というのは国家間で賠償を請求する権利のことで、個人の請求権も消滅したとは考えていないのだ。」

これに対し、日本政府は韓国側の姿勢を国際法違反だとして繰り返し批判。

安倍首相
「最大の問題は国家間の約束を守るかどうかという信頼の問題です。政府としては引き続き、国際法に基づき我が国の一貫した立場を主張し、韓国側に適切な対応を強く求めてまいります。」

元外務事務次官で、長年、日韓外交にも携わってきた佐々江賢一郎さんです。佐々江さんは、今回の判決はこれまでの両国の関係の基盤を根底から覆しかねないといいます。

元外務事務次官 前駐米大使 佐々江賢一郎氏
「日本(としては)この問題は決着済みの話なのに、個別のケースで補償要求が出た場合に、個別に日本の企業が次々と補償しなければならないとなると、とめどを知らないということになってくるし、戦後処理の大前提となっていたことを、ある面で根本から覆す。これは絶対日本として譲れない話だと。」

日本政府は、事態を打開する責任は韓国政府にあるとして、協定に基づく協議を繰り返し要請。5月には第三国を含めた仲裁委員会の開催を求めましたが、韓国側は応じませんでした。この間、韓国では賠償を命じられた日本企業の資産の差し押さえや現金化に向けた動きが進み、状況は悪化の一途をたどったのです。

対立は経済に波及 今後どうなる?

対立に拍車がかかったのは先月。日本政府は韓国への輸出管理を強化し、優遇対象国から除外すると発表しました。これに対し、ムン政権は「徴用」をめぐる問題への報復だと強く反発。日本への依存度を引き下げるための対策に乗り出しました。輸出管理の強化の対象になった品目を国産化するため、企業に年間2兆ウォンの集中投資を行う方針を示したのです。

ムン大統領
「我が国民と企業は、今回も必ず災い転じて福となし、経済と産業をさらに成長させてくれると信じています。」

この方針に、大きな期待を寄せている中小企業です。韓国の主力産業である半導体の製造に使う素材を生産してきたこの企業。今後、人員を増やし研究を加速させたいとしています。

ケムトロス イ・ドンフン(李東勲)社長
「日本製品に代替できるものを韓国企業が早期に開発できるとは思いませんが、おそらく今回のことをきっかけに(日本との)差はどんどん縮まっていくでしょう。」

一方で、日韓の対立の激化に不安の声も上がっています。

日本での就職を目指す専門のクラスがある大学です。去年は59人全員が日本企業から内定を得ました。しかし、この夏から韓国での日本企業による就職説明会は中止や延期が相次いでいます。
大学3年生のキム・ミョンジョンさんです。

ヨンジン専門大学(3年) キム・ミョンジョン(金明鐘)さん
「これから日本での就職に向けて、いま一生懸命やらなきゃいけないことがたくさんあるので。」

今、日韓関係を報じるニュースはあえて見ないようにしていると胸の内を明かしました。

キム・ミョンジョン(金明鐘)さん
「いま政治的なニュースを見て気持ちが揺らいではいけない。自分が揺らいでしまう…。僕たちはただ1日でも早く関係が再び友好的になってほしいのです。」

日韓の関係悪化に歯止めをかけるには、何が必要なのか。元外務事務次官の佐々江さんは、立場の違いを埋めるにはさまざまなレベルで対話を模索しなければならないと指摘します。

元外務事務次官 前駐米大使 佐々江賢一郎氏
「お互いの原則的な立場、あるいは国内的な立場からすれば、譲れないということだと思う。ですが譲れないままにクラッシュを繰り返せば、お互いに望まない結果になっていくことは明らか。これは鳴り物入りでやるような話ではないと思います。ひっそりと行うべき話であると。衆人環視のもとでやれば、頑張れとか強く当たれとか、そういう議論だけ出てきますけれど、なんとかしてお互いにどこかに出口がないかと探す姿勢、努力が重要だと思います。」

韓国政府に対日政策を助言してきた、イ・ウォンドク教授です。対立がこのまま長期化することは韓国にとって決して好ましくないと指摘します。

クンミン大学 イ・ウォンドク教授
「両国の外交当局者の交渉と対話を通して、大きな解決の枠組みが作られることが望ましいと思います。そのような機会を設けることができなければ、関係が悪化した状態が長期化し、構造化してしまうおそれがあるため、可能ならば今年中に関係を改善する流れができればと思います。」

関係改善の糸口は、見いだせるのでしょうか。

どうなる「徴用」めぐる問題

武田:若者の就職など、経済にもやはり影響が出ているようですけれども、現地ではどんなことを感じますか?

高野支局長:日本がここまでやるのかという驚きとともに、日本企業が部品を提供して、韓国企業が完成品にするという水平分業が、ここまで進んでいるんだという現状を再認識したように思います。表向きは、日本に否定的なことを言わざるを得ない雰囲気はあるものの、早期の関係修復を望んでいる韓国人は少なくないように感じます。

武田:韓国政府は「徴用」をめぐる問題で日本企業による賠償にこだわっていますが、これはやはり変わらないんでしょうか?

高野支局長:韓国の歴代政権ですけれども、日本側と同じく日韓請求権協定で解決済みだとの立場をとってきました。ノ・ムヒョン(廬武鉉)政権下の2005年ですが、「徴用」をめぐる問題は日本からの3億ドルの無償援助に含まれていると結論づけ、韓国政府の予算で実際に元徴用工の補償が行われたんです。
ところがムン政権は、協定で解決としたのはあくまで未払い賃金などについてであって、過酷な環境で強制労働させられた不法行為に対する損害賠償は含まれていないと主張。事実上、過去の政府見解に修正を加えている形なんです。ムン大統領は人権派弁護士出身です。それだけに個人請求権は生きているとする司法判断を重視し、日本企業による賠償にこだわっているわけです。おりしも、今年(2019年)は日本の植民地支配からの独立運動が起きてちょうど100年の節目でもあります。弱腰と映るような動きはとりづらいところです。

武田:一方、日本政府ですが、韓国政府が主体となって問題解決に取り組んでもらう以外にないという立場。これも、やはり変わらない?

岩田記者:そうですね。「徴用」の問題はやはり、韓国政府自身が対処するしかないという立場でして、ここは譲れない一線です。というのも日韓請求権協定は条約でして、国と国との約束なんですね。国内の確定判決を理由に条約の不履行を主張することは国際信義に反します。第2次世界大戦後の処理については、サンフランシスコ平和条約、日中共同声明などで、各国が賠償請求権を放棄しています。これは戦後処理を行ううえで、どこかで区切りをつけないと永続的な平和を得られないという考えからなんですね。また、1965年の日韓請求権協定の交渉過程を記録した外交文書から韓国側の代表が「徴用」に関する補償について韓国が国として請求し、支払いは国内措置とするとしていたことも明らかになっているんです。日本政府は、国家間の約束、国際法の順守といった観点から、引き続き韓国側に問題の解決を求めていく考えです。

関係改善の糸口は 注目のポイント

武田:そうしますと、関係改善の糸口を韓国政府はどう考えているんでしょうか。

高野支局長:日本との関係改善を見いだすには、「徴用」をめぐる問題の進展が避けて通れないというのはムン政権も認識しています。実際、今年6月に日本政府に示した、日韓両国の企業が自主的に財源を作って慰謝料の支払いに充てるという案は、絶対これじゃなきゃだめということではなくて、たたき台に過ぎないんだと強調しているのもそのためでして、そこに妥協の余地があるのかもしれません。

岩田記者:慰安婦問題をめぐって、過去に日本政府は基金を設置するなどしましたが、結局、問題の解決には至らなかったですよね。政府内では、賠償問題は韓国国内で対処すべきだという考え方が大勢です。日本企業による出資という対応は、株主代表訴訟も招きかねず、現実的ではないとみられます。

武田:そうすると、今後どう進んでいくのかということですが…。

高野支局長:韓国側が当面の重要なタイミングと位置づけていますのが10月22日、天皇陛下の即位の儀式です。ムン政権は、知日派のイ・ナギョン(李洛淵)首相を派遣する方向で検討しています。取材では、イ首相がこれまでに複数回、進退をかけてムン大統領に直接打開案を建議した経緯があるというんですね。イ首相は、GSOMIAの有効期限である11月22日までに日本側の対応によっては破棄を見直す可能性についても言及しているんです。「徴用」をめぐる裁判の原告側がすでに差し押さえている日本企業の資産を、年末にも現金化する恐れがあるうえ、来年4月には総選挙が近づいている。時間が限られる中でムン政権も対話を通じた解決策の模索を続けるとみられています。

武田:イ・ナギョン首相の動きは、日本政府も注目しているのでしょうか?

岩田記者:日本政府としても、日韓関係の悪化が安全保障や経済に影響を及ぼすべきではないと考えています。取材しますと、水面下では外交当局やNSC=国家安全保障会議など、さまざまなチャネルを通じたやり取りが続いているもようです。イ・ナギョン首相がムン大統領に対してどのような働きかけをするのか、日本政府も注目しています。ただ、イ首相が輸出管理措置撤回を条件にしていますので、ただちに対話が進むとはなかなか考えにくい状況です。
日韓の対立の根底にあるのはやはり「徴用」をめぐる問題。この問題解決の糸口をつかむため、感情論ではなく、冷静な視点で解決策を見いだす知恵がまさに求められています。

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