クローズアップ現代

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2017年7月3日(月)
日本人 迫る“テロリスク”~ダッカ・テロ事件1年~

日本人 迫る“テロリスク”~ダッカ・テロ事件1年~

去年7月、バングラデシュの首都ダッカで、イスラム過激派がレストランを襲撃、日本人7人を含む20人が犠牲になった。その後も各国でテロが頻発、日本人がテロに巻き込まれるリスクはますます増大している。バングラデシュではイスラム過激派組織に流れる若者が今も後を絶たない。日本企業は、海外でどう安全を確保しながら企業活動を続けるか、対応を迫られている。ダッカ・テロ事件から1年、私たちをとりまく国際社会が、今どのような状況にあるのか。それでもなお国際貢献や企業活動を続けるには何が必要か、考える。

出演者

  • 保坂修司さん (日本エネルギー経済研究所 中東研究センター)
  • 青山悟 (NHK記者)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

日本人“テロリスク” 新たな局面

世界で相次ぐテロ事件。日本人も巻き込まれるリスクが高まっています。

「伏せろ!」

テロに巻き込まれたとき、具体的にどう行動すれば命を守れるのか?今、海外で日本人がテロに遭う危険が高まる中、企業などでテロ対策訓練のニーズが高まっています。

「周りをチェックしろ!」

去年(2016年)7月1日、バングラデシュの首都・ダッカのレストランで起きたテロ事件。日本人7人が命を奪われました。全員が現地の発展を支援するプロジェクトのメンバーでした。
犠牲者の1人、岡村誠さんの父・駒吉さんです。息子の命を無残に奪ったテロ。なぜ親日的とされる国で支援していた日本人までもが狙われたのか…。

岡村駒吉さん
「海外に出張している人たちが安心して働ける世の中をつくってもらわないと、今回犠牲になった7人は浮かばれない。絶対忘れちゃいけない、忘れちゃだめだ。」

いつ、どのような形でテロに巻き込まれるか予測がつかない時代。ISの過激思想がアジアにも広がる中、私たち日本人はテロにどう向き合えばいいのか考えます。

田中:バングラデシュの首都・ダッカで1年前に起きたテロ事件。亡くなった日本人7人は、全員がバングラデシュの経済発展を支援する、JICA・独立行政法人国際協力機構のインフラ整備のプロジェクトに参加していたメンバーでした。
7人が携わっていたのは、鉄道建設に向けた調査でした。現地では今も一連の事業は続き、厳重な警備の下、建設工事が進められています。
高い経済成長が続くバングラデシュ。日本は最大のODA拠出国です。民間企業も進出を加速。去年のテロ事件後も増え続けています。その数、253社。滞在する日本人は800人余りに上ります。

親日国で起きたテロ。事件の背景と詳細が分からないまま1年がたち、企業は今もテロの対象となることを恐れています。そして遺族は、なぜ命を奪われなくてはならなかったのか、問い続けています。

日本人はなぜ、テロに巻き込まれたのか。私たちはこの1年、取材を重ねてきました。今まで口を閉ざしていた関係者が少しずつ語り始めています。

ダッカ・テロ事件1年 浮かび上がる“真相”

ダッカ・テロ事件の遺族、岡村駒吉さんです。事件を風化させたくないという思いから、私たちの取材に応じてくれました。
犠牲になった息子の誠さんは、大学院で都市工学を専攻。バングラデシュの経済発展に尽くすことを志していました。

岡村駒吉さん
「(途上国の)皆に幸せになってもらえるのを生きがいにやっていたので、今回もバングラデシュでインフラ関係の仕事が成功すればうれしいと思っていたのでは。」

バングラデシュの支援に携わっていた息子が、なぜ殺されなければならなかったのか。岡村さんは無念の思いを抱え続けてきました。

岡村駒吉さん
「32年しか生きなかったんだもんね、これからっていう時なんだからね。本人も相当、悔しいんじゃないかな。どっかに残っているんだよね、帰ってくるんじゃないかって。」

去年7月1日、ダッカ市内の高級レストランで起きた事件。5人の実行犯は、地元のイスラム過激派のメンバーでした。IS・イスラミックステートの思想に深く感化されていたと見られています。

事件発生時、日本人のグループは窓際のテーブルで食事をとっていました。そこに実行犯が押し入り銃を乱射。日本人の多くがここで撃たれたと見られています。

店の元従業員、シシル・シェイカーさん。現場の状況を初めて語りました。実行犯はイスラム教徒かどうか確かめたうえで殺害して回ったといいます。

元従業員 シシル・シェイカーさん
「実行犯は私にもコーランを暗唱しろと命令しました。私はコーランを知っていたので暗唱できました。おかげで命を奪われずに済んだのです。」

外国人を探し回っていた実行犯。実はこの時点で、1人の日本人が冷蔵室に隠れていたことが分かりました。取材に応じた岡村駒吉さんの息子・誠さんでした。しかし、冷蔵室はやがて実行犯にこじあけられます。その瞬間を、人質の1人が鮮明に覚えていました。

当時 店内にいた客
「『殺さないでください、許してください』、日本人はそう頼んでいました。それなのに実行犯は話をする機会も与えず、すぐに銃で彼を撃ち殺したんです。そして実行犯はこう言いました、『お前たち外国人は多くのイスラム教徒を殺しておきながら、我々の国を動き回り食事を楽しんでいた』と。」

なぜ日本人が犠牲となる事態が起きたのか。親日国とされるバングラデシュの一部で、過激思想が広がっている実態も見えてきました。
ここは、実行犯の拠点となったダッカ市内にあるマンションの一室。提供したのは銀行員だった男でした。

ダッカ警察 テロ対策責任者 モニルール・イスラム氏
「レストラン襲撃を計画した過激派組織は、犯行現場のすぐ近くにマンションを借りました。そこにテロリスト5人を潜伏させていたのです。」

警察は、一般の市民の間にもISのような思想に共鳴し、過激派組織に協力する人が増えているのではないかと見て危機感を強めています。
私たちは取材を重ね、事件を起こしたイスラム過激派組織の元幹部にたどりつきました。直接は犯行には関わっていないという元幹部。実行犯が罪もない人々を殺害した理由を問いただしました。

イスラム過激派組織 元幹部
「外国人を攻撃すれば、政府は権力を維持することができなくなる。政府の評判が悪くなり、政府に対する外国からの圧力も大きくなるからだ。」

「日本人も、もはやターゲットということか?」

イスラム過激派組織 元幹部
「当たり前だ。ターゲットは外国人、そして今の政府を支援している人間すべてだ。」

ダッカ・テロ事件 知られざる背景

ゲスト青山悟(NHK記者)

ダッカで取材にあたっている青山記者に聞きます。政府への不満というのは何なのか、そして現地の当局はこの1年、どう対応しようとしてきたのか?

青山記者:バングラデシュでは、急速な経済成長に伴って、貧富の格差が広がり、大きな社会問題となっているんです。また一定以上の教育を受けながらも、思うように職に就けなかったり、失業したりする若者も少なくないんです。こうした状況への不満を抱く若者たちが、はけ口を求める中で、世界中に拡散したISの思想に共鳴し、外国人や異教徒を狙ってテロを起こしたという指摘もされているんです。
バングラデシュ政府は今、硬軟織り交ぜた対策を進めています。

ダッカ・テロ事件1年 “テロ封じ込め”の模索

今年(2017年)行われた、バングラデシュ政府によるテロ組織の掃討作戦です。警察は、テロ組織の拠点を制圧するため特別に編制した部隊を投入。これまでに作戦によって70人以上を殺害。大規模なテロを防げたと成果を強調しています。
さらに、事前にテロの芽を摘もうとCMまで制作しました。

“信じられない、私の息子がテロの容疑で逮捕されるなんて。”

若者が過激な思想に染まらないよう、周囲に協力を呼びかけています。

“愛する人が過ちを犯さないために、大事なのは家族への思いやり。家族を見守ってください。”

バングラデシュ政府は、テロを封じ込め、日本人をはじめとする外国人の安全を確保していきたいとしています。

バングラデシュ カーン内相
「バングラデシュと日本の関係をより深めていきたいと思います。私たちはこの事件を教訓に、警察組織を強化し対処しているところです。」

ダッカ・テロ事件 知られざる背景

青山記者:こうした対策によって、一定の成果が上がっているのは事実でして、実際この1年、大規模なテロは起きていません。ただ、取締りの過程で、これまでにはなかった殺傷能力の高い爆弾も押収されているんです。それから今年3月には、ダッカの国際空港近くで男が自爆する事件が起きるなど、テロの脅威が収まったとはいえません。
不安定な治安情勢がこうして続いているものの、バングラデシュにとっては海外からの経済支援や企業進出は国の発展のためには不可欠で、対外的には安全性をアピールしなければならないという、こうした苦しい事情があるんです。

世界で広がる 日本人“テロリスク”

ゲスト保坂修司さん(日本エネルギー経済研究所 中東研究センター)

世界に日本企業が進出している中、日本人がテロに巻き込まれるリスクをどう見る?

保坂さん:私自身は、彼らがあえて日本を標的にするという可能性は低いというふうに見ています。ただ、2003年のイラク戦争以降、日本はアルカイダ、あるいはISにとっての合法的な標的になっていますので、仮に日本人が事件に巻き込まれるようなことがあれば、恐らくISは、日本人はイスラムを攻撃しているということを理由に、それを正当化するというふうに考えられます。
他方、イラク、あるいはシリアにおいて、ISが弱体化していることは間違いありません。ISは、したがって本拠地で力を発揮できない分、本拠地以外の所、例えばアジア、あるいはヨーロッパ等でテロを起こそうというふうに呼びかけを行っているわけです。いわゆる「ホームグローン」とか、あるいは「ローンウルフ」といわれる形態ですね。
ただ、イラク、シリアに流入していた外国人の戦闘員の人たち、彼らが今、帰国を始めていますので、彼らがそれぞれの国に帰って、不安定要因になっているということも、また事実です。
一方、フィリピンのように、今現在、大きなテロ事件が起きているところもあります。特にフィリピンに関していいますと、彼らは「IS東アジア」というふうに名前を変えております。元は「ISフィリピン」と名乗っていたんですけれども、それがIS東アジアに変えることによって、場合によっては日本も含めて標的にしようという意図が読み取れるわけですね。

田中:世界で相次ぐテロ。その多くがイスラム過激思想の影響を受けた組織や人物によるものだと見られています。この1年で起きたテロは、主なものだけでも、およそ150件。最近でも、5月にイギリス・マンチェスターのコンサート会場で22人が死亡する自爆テロが起きています。
ISは拠点のあるシリアやイラクなどで影響力を失いつつありますが、その一方で、過激思想はアジアにも拡散し、より広い地域でリスクが高まっているとの指摘もあるんです。

海外での永住者と企業駐在員など、長期滞在をしている日本人の合計は、およそ130万人。多くの日本人が海外で大きなリスクに直面しています。企業活動と安全をどう両立させるのか、日系企業の模索を取材しました。

日本人“テロリスク” 企業の模索

ダッカ・テロ事件を受けて、外務省とJICAがまとめた報告書です。「もはや日本人であれば被害に遭わないとは想定できない」と強い危機感が示されています。

現在バングラデシュに進出している日系企業は250社余り。事件のあと、目立たないよう企業名を隠すところも出てきています。安全と企業活動の両立は可能なのか。
3年前に進出した、中堅の釣り具メーカーです。生産コストの低いバングラデシュでの製造が会社全体の半分近くを占めています。事件後、工場では独自に元軍人を警備員として雇うことにしました。24時間態勢で監視をしています。

釣り具メーカー ささめ針 遠藤佳祐さん
「うちとしては、ちょっと一時帰国だったり工場閉鎖ということも頭をよぎった、考えはしたんですけれど、やはりここでがんばってくれる工員だったり、うちの会社のウェイトバランス(生産の比重)とか、そういうものも考えて、やはり対策をとって続けていくという判断をした。」

安全対策に限界もある中、あとは生活の中で少しでもリスクを減らすしかありません。日本人の社員は極力外出を避け、平日は工場内で寝泊まりをしています。買い物は現地の従業員に頼み、外食にもほとんど出ない日々です。

釣り具メーカー ささめ針 遠藤佳祐さん
「どうしても外国人は標的にされがちですし、つつましく、厳かに職務を全うするということだけを念頭に置いてやっています。」

1年前のテロ事件で関係者が犠牲となったJICAも、対策を強化しています。事件のあと、海外で活動する民間企業やNGO向けに、より実践的な訓練を行うようになりました。

講師
「立っている人が先に撃たれます。」

訓練を行うのは日本の警備会社。講師は元自衛官やアメリカ軍の元軍人です。こうした訓練は4年前、日本人が犠牲となったアルジェリアのテロ事件を機に始まり、ダッカの事件以降参加者は6倍に増えています。
プログラムは、世界各地で起きたテロ事件で助かった人の行動をもとに組まれています。パリで起きたテロ事件では、身を伏せた人が被害を免れました。

「周囲をチェックしろ!」

実際の事件で命を守ることにつながった動きを何度も繰り返します。
さらに、具体的な状況を想定した訓練も行います。これは事務所が襲われた場合の訓練。
講師
「何かしら出来ることをやってください。テロリストが入ってきて撃たれてはたまりませんから。」

銃声がしたら入り口を塞ぐなど、生き残る確率を少しでも高めるための方法を学びます。こちらはレストランで襲われた場合の訓練です。裏口など、逃げ場を見つけることが重要だと指導します。

講師
「逃げるのが一番です、逃げられれば。
抵抗の意思を見せたりすると、撃たれたり刺されたりします。」

研修の参加者
「情勢が変わってきているというのは感じていますが、同時にこういうセキュリティ研修を受けることで安全に活動ができると思ってます。」

研修の参加者
「例えばレストランでの話もありましたし、街なかでの動きとか、そういうのに注意するというのは事前の心構えというか、それは役に立つと思います。」

警備会社 社長 若木亮佑さん
「どこでテロが起こるかわからない時代になってきましたので、このような訓練を受けておくことによって、意味のある行動が取れると思います。」

海外での支援活動を進めるJICA。テロの脅威が日本人に及ぶ中、今後どこまでリスクを減らせるのか対応を迫られています。

JICA 南アジア部 次長 松本勝男さん
「このような痛ましい事件を二度と起こさないという強い決意のもと、今までの安全対策を一から見直して、具体的にどのような対策が効果的かといったものを、これは政府だけではなく民間企業やNGOの方々にも集まっていただいて、いろいろな意見をいただきながら進めているところでございます。」

日本人“テロリスク” 命を守るために

テロから身を守るために、企業や個人はどんな心構えが必要?

保坂さん:今、VTRにもありましたとおり、テロが起きた場合の訓練、これは非常に重要だと思います。同時に、テロを事前に防ぐ、あるいは未然に予測するための情報収集であったり、あるいは分析であったりというのも非常に重要になるんだと思います。
例えば実際、ISのイデオロギーによれば、どの国が襲われやすいかということは大体分かるわけですね。また襲われる場所についても、例えばサッカー場であるとか、コンサート会場であるとか、あるいはお酒を出すレストランであるとか、こういうのを襲うというふうにISは主張しているわけで、しかも実際に襲われているわけですよね。こういったことを事前に知っていれば、ある程度、防ぐ手だてにはなるはずだと思います。
また例えば反イスラム的なものとか、そういうのも当然襲われやすいというのは重要だと思いますし、例えばISの機関誌・雑誌、こういったものをきちんと読んでいれば、どういうものが標的になり、あるいはどういうものが襲われやすいかというのは、ある程度分かると思います。例えばSNSの書き込みとか、あるいはそれこそ壁の落書きも含めて、すべてが重要な情報になってくると思います。

日本人“テロリスク” 支援のあり方は?

テロや過激思想が広がる中でも、日本は国際貢献や経済活動を先細りさせるわけにはいかないが、どう取り組むべき?

保坂さん:リスクはありますけれども、支援は絶対に必要だというふうに思います。ここで支援をやめてしまえば、それは逆にテロリスト側の思うつぼになります。したがって、安全対策をしっかりやりながら、国際貢献を進めていくということは重要だと思いますし、そのためには、官、民、それからジャーナリズム、それから研究者、こういったものの協力が必要ですし、また現地のことばに通じた地域の専門家、安全保障の専門家の育成が、喫緊の課題だというふうに思います。
(いずれにしても情報の共有、それから専門知識をいかにわれわれ側で蓄積して、共有することができるか。これが身を守るための方策であると?)
その1つだと思います。

取材の中で、犠牲になった7人の遺族の多くが、事件で国際協力や途上国支援の志が途絶えてはならない、そして安全のためにできることを考え続けてほしいと語っていました。私たちは、その遺族の思い、課題に向き合い続けなければなりません。