クローズアップ現代

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2017年4月4日(火)
あなたは賛成?反対?徹底検証 テロ等準備罪

あなたは賛成?反対?徹底検証 テロ等準備罪

国会論戦の焦点に浮上している「テロ等準備罪」の新設。政府与党が、テロ対策に万全を期すために必要だとするのに対して、市民団体などからは、自分たちの“内心の自由”が侵されかねないとの懸念の声があがっている。法案は、そもそもどのようなものか分かり易く解説。何を処罰するのか?新設は必要なのか?一般の人は対象にならないのか?「テロ等準備罪」をめぐる論点について、推進・慎重それぞれのゲストと共に徹底検証する。

出演者

  • 椎橋隆幸さん (中央大学名誉教授)
  • 江川紹子さん (ジャーナリスト)
  • 稲田清さん (NHK記者)
  • 武田真一・鎌倉千秋 (キャスター)

あなたは賛成?反対? 徹底検証 テロ等準備罪

ゲスト椎橋隆幸さん(中央大学 名誉教授)
ゲスト江川紹子さん(ジャーナリスト)

テロ等準備罪について、番組に寄せられたご意見です。
“どこまでの行為がテロの準備に含まれるかがわからない”“思想信条の自由を保障する憲法に違反する”“ロシアでもテロがあったのに、なぜ反対するのか疑問です”
賛否が分かれる一方で、注目されている法案にもかかわらず、よくわからないという声もたくさん寄せられています。

今夜はスタジオに、テロ等準備罪について立場の異なる、お2人のゲストにお越しいただいています。
後ほどお話をお伺いしたいと思います。

鎌倉:テロ等準備罪、今夜は3つの論点について考えていきます。
「テロ等準備罪で、何が処罰されるのか」「テロ等準備罪は必要なのか」、そして「一般の人も対象になるのか」といった点です。
まずテロ等準備罪で、何が処罰されるのかについて見ていきます。

日本の刑法では、犯罪の計画から実行までのうち、実行されて初めて処罰されることが原則となっています。
実行前の段階で処罰できるのは、客観的に相当な危険性がある場合に予備罪が適用されるケースなどに限られています。
今回のテロ等準備罪は、実行前のより早い段階で、277の犯罪について、一定の要件を満たせば処罰できるようにするものなんです。
これについて、市民団体などは、内心の自由が侵されるのではないか、つまり、心の中で思ったことが罰せられるのではないかと懸念しているわけなんです。
そこで政府が繰り返し強調しているのが、かつて3度廃案となった「共謀罪」との違いなんです。

テロ等準備罪 何が処罰されるのか?

菅官房長官
「不安や懸念を払拭(ふっしょく)する内容となっており、かつての『共謀罪』とは明らかに別物である。」

2003年に初めて国会に提出された、共謀罪を設ける法案。
この法案では処罰の対象を団体とし、例えば殺人などの犯罪を計画して事前に合意、つまり「共謀」があれば処罰できるとしていました。
しかし、こうした内容に対し合意しただけで処罰を可能にすることは内心の自由を侵すおそれがあると懸念の声が上がりました。
そこで今回、政府・与党は名称をテロ等準備罪に変更。
さらに、共謀罪とは異なる点として、犯罪の計画への合意に加え資金や物品の手配など準備行為を行った場合に処罰できるようにしたと強調しています。
与党内で法案の取りまとめにあたった、公明党の漆原良夫さんです。

公明党 漆原良夫中央幹事会会長
「共謀罪の場合は、内心でお互いに合意すれば犯罪が成立となる。
それだと、ウインクしただけで、目くばせしただけで犯罪が成立するとか、あるいは内心の自由に踏み込まれるという国民の皆様からの不安がいっぱいあった。
(今回は)合意に加えて『準備行為』をする必要があると、客観的、外形的な行為を付け加えた。
したがって、目くばせしただけで犯罪になるとか、酒場で1杯飲んで上司をぶん殴ってやろうと言っただけで犯罪になるとかは全く心配なくなった。」

賛成?反対? テロ等準備罪

鎌倉:政府・与党は、テロ等準備罪が成立するには、資金または物品の手配、関係場所の下見、その他など、具体的な準備行為が必要になるとしたことで、内心の自由を侵すという懸念は払拭できるとしています。
しかし、反対する人たちからは、こうした説明に対して疑問の声が上がっています。

テロ等準備罪 何が処罰されるのか?

今回の法案に対して反対声明を発表している、「日本ペンクラブ」です。
表現の自由を守る活動を行うこの団体。

準備行為を要件に加えても定義があいまいで、共謀罪と本質は変わらず、内心の自由が侵されかねないと批判しています。

日本ペンクラブ 吉岡忍専務理事
「できた当初、そんなことはありません、こんなことはしません、でもこのために必要なんですというふうに法律は作られていきます。
でも今回の法律、共謀罪ほど拡大解釈ができる余地のある法律はない。
法律が世の中の空気をがらっと一変させてしまうことがあると思う。」

市民団体からも不安の声が上がっています。

「犯罪にされてしまう可能性がある。」

差別解消など、人権保護を訴えて活動を行っているこの団体。
メンバーの生駒能正さんです。
これまで街頭デモなどにも積極的に参加してきた生駒さん。
これまでの政府の説明では、共謀罪とどう違うのか、懸念は払拭できないと感じています。

市民団体 メンバー 生駒能正さん
「内面の思想信条という、何を考えているのかというところまで踏み込んで罰せられるということになると思うので、ああいう法律が通ってしまうと萎縮すると思う。
自分たちが言いたいことも言いづらくなる。」

テロ等準備罪 何が処罰されるのか?

稲田清記者(政治部 法務省担当)

ここからは、政治部の稲田記者とお伝えします。
法案の推進の立場を取る椎橋さん、内心の自由が侵されるということはとても怖いと思うが、本当にそういうことはない?

椎橋さん:この法律の立てつけによれば、それはないと思います。
内心の自由、思ったことが処罰されるということはもちろんありませんし、思ったこと、犯罪について実行しようという合意があった、計画があったというだけでも処罰されません。
プラスして、準備行為というものがなければ処罰されませんので、例えば先ほど出たように、関係場所の下見であるとか、物品、あるいはその資金の手配をするというような、客観的・具体的な行為がなければ準備行為があったとは言えませんので、内心を処罰するものではありません。

準備をする行為がなければ処罰されないという政府の主張だが、一方、慎重な立場の江川さん、この点をどう考える?

江川さん:「準備行為」といっても、例えばATMからお金を下ろすような、非常に日常的な行為が犯罪の準備行為というふうに解釈される可能性があるわけですね。
自分は生活のために下ろしていたのに、それがひょっとしてその準備行為になるかもしれない。
それを解釈するのは捜査機関であって、捜査機関の恣意的(しいてき)な判断、解釈というのが可能になってくるというところに怖さがあるのかなと思います。

捜査機関の恣意的な判断について

稲田記者:椎橋さんがおっしゃったように、確かに法案の中には、準備行為がなければ罪に問われないというふうになっていますけれども、一方で、準備行為の具体例の中に、「その他」という文言が入っています。
これについて民進党などは、この文言があるからいくらでも拡大解釈が可能で、歯止めにはならないのではないかと指摘していますけれども、ここについてはどうお考えでしょうか?

椎橋さん:「その他」というのは、どうしても個々の事案ごとによって違いますので、どうしても必要な場合が出てきます。
ただ、基本はなるべく具体的にいろいろな準備行為を書く、先ほど言ったような資金とか、物品の手配、関係場所の下見等、そういったものが必要でありますし、「その他」はそれと実質的に同じようなものでなければなりません。
それはですから、不当に拡大解釈するということは許されませんけれども、実質的に同じような場合であれば、それは許される。
例えばハイジャックを計画していて、その中の1人が自首してきて、どういう人たちがやってるかということがわかっているという場合に、その時にそういう人が搭乗券を買いにいったということになれば、それは準備行為になると思います。

江川さん:ただ、「うちはハイジャックやりますよ、テロやりますよ」っていう看板掲げてるような団体っていうのはまずないと思うんですね。
そうなると、どこがそういうことを計画しているのかということは、やっぱりかなり幅広く監視をするということになると思うんですね。
そうなったときに、例えば、労働組合運動、基地建設反対、あるいは反原発だとか、そういった市民運動も含めて、そこまでが幅広に監視の対象になって情報収集をされる、あるいはそれで規制をされるということもありうるのではないかと。
この法律がもし出来たから、すぐさま大きく全部何もかもできなくなるというのではないけれども、少しずつ内心の自由とか、表現の自由ということに影響を与えてくる、遅効性の毒みたいな影響があるのではないかなという懸念があります。

そもそも、テロ等準備罪は必要なんでしょうか。

鎌倉:政府が今回の法案を提出した理由としているのが、国際組織犯罪防止条約=通称「TOC条約」の締結です。
この条約によって、犯罪人の引き渡しなど、国際的な捜査協力をさらに進めることができるようになります。
その締結の条件として求められているのが、重大な犯罪を行うことで合意した場合などに、処罰できるようにする法整備なんです。
このため、政府はテロ等準備罪の新設が必要だとしているんですが、この点でも意見が分かれています。

テロ等準備罪は必要なのか?

法務省 加藤俊治審議官
「TOC条約が求める義務を履行しなければならない。
その1つとしてテロ等準備罪を設けることが必要。
わが国もこれに加わることによって、国際社会と協調して、テロを含む組織的犯罪とたたかう体制を整えて、わが国が世界の犯罪の抜け穴になるのを防ぐことがとても大事。」

これに対して民進党などは、重大な犯罪の準備などを処罰する予備罪などの規定があるので現状でも条約は締結できると主張しています。

民進党 大串博志政調会長
「予備罪とか準備罪などが60、70あるので、包括的な共謀罪法案のようなものを作らなくてもよい。
政府はテロ対策だと言うが、必ずしもこの条約はテロに特化したものではない。」

テロ等準備罪は必要なのか?

テロ等準備罪の必要性についての政府の説明、どう考える?

江川さん:条約のことですけれども、条約を批准しても一部を留保するということはできるわけですし、人種差別禁止条約なんかでは、日本は、例えば罰則規定なんかを留保してるわけですよね。
そういうようなことに加えて、そもそもこれが本当にテロ対策として役に立つのかということもやっぱり考えなきゃいけないと思うんですよね。
例えば、オウム真理教の地下鉄サリン事件ですけれども、共謀罪があれば防げたというふうに言う人がいますけれども、これは全く間違いで、これは坂本弁護士一家の事件以降の警察の捜査の在り方というものが問題で、そこをまずきちっと見直すっていうことが必要だと思うんですね。
あえて法律の問題を言えば、オウムの事件で言えば、坂本さんの事件のあとに実行犯が仲間割れして、ある実行犯が警察に遺体の場所を送りつけたりして、教団を脅してたりするようなこともあった。
そういう時に例えば組織犯罪の殺人罪で司法取引ができるとか、そういうことがあれば、そこで全部を解明ということも可能だったと思うんですよね。
だからそういうような、むしろ本当に役に立つものをやってほしいというふうに思います。
共謀罪よりも役に立つことがあると思うんですね。

条約締結のためにテロ等準備罪の新設が必要だという説明について、どう認められる?

椎橋さん:私はTOC条約というものがこれは国会でも承認されていて、その必要性はほとんどの党も認めているということで、必要だと思います。
そしてそのコアの部分については、これは法制化をしなければいけないと、そのコアの部分というのは、共謀罪または参加罪を設定するということであると、日本の法体系に合っているのが共謀罪であるということで、共謀罪を選択したということですね。
ただ、必ずしも全部というわけではなくて、日本の事情に合わせて、およそ起こることがないだろうと思われるような犯罪を削ったりして、277にするということは、これはできるということだと思いますね。

そして私たちにとって気になるのが、テロ等準備罪は一般の人も対象になるのかという点です。

鎌倉:法案では、その対象は組織的犯罪集団に限るとされていまして、その例として、テロ組織や暴力団、薬物密売組織などを挙げています。

さらに、正当な目的を持った一般の団体であっても、一定の犯罪の実行を目的にした集団に一変した場合は、組織的犯罪集団に認定される可能性があると説明しています。
この「一変した」と見なされるのがどのような場合なのか、これが大きな論点となっています。

テロ等準備罪 一般の人も対象に?

安倍首相
「たとえばオウム真理教がそうで、当初は宗教法人として認められた団体だったが、犯罪集団として一変した。
一変をしている以上、組織的犯罪集団と認めるのは当然のこと。」

その上で政府は、一般の団体の目的が一変したかどうかの判断は慎重に行うと説明しています。

法務省 加藤俊治審議官
「一変というのは、もともとの意味は正当な活動をしていた団体が時間を経て、犯罪を目的とする団体にすっかり変わる、その様子を『一変』という言葉で表している。
ある日を境に突然性格が変わるという意味ではない。
正当な目的を持って活動している団体が、組織的犯罪集団にあたるということは基本的にありえない。」

一方、市民団体からは、活動の目的が一変したかどうかの判断基準があいまいで、組織的犯罪集団と見なされるのではないか懸念する声が上がっています。
脱原発を訴えて電力会社の前で抗議活動を行っている住民グループです。
6年前の福島第一原発事故の翌月から、原発のない社会を作りたいと、この場所で活動を続けています。

時には拡声器を使ったり電力会社に申し入れを行ったりしてきた、このグループ。
グループの目的が会社の業務を妨害することに一変したと見なされれば、組織的犯罪集団に認定されるのではないか不安を募らせています。

住民グループ代表 青柳行信さん
「非暴力でやっているものが一変したという形で、犯罪、暴徒の集団として処罰するということが起こってくるのではないか。
こういうテントも平和的な集まりとしてあるけど、委縮していく。」

また、目的が一変したと見極める過程で、捜査権限が乱用されるのではないかという懸念も出ています。

日弁連 共謀罪法案対策本部事務局長 山下幸夫弁護士
「(組織的犯罪集団に)一変するということを、捜査機関である主として警察が判断するところが問題。
どこかの段階で一変した、変わったといえるか判断しないといけない。
結局、日常的に特定の団体の構成員を尾行したり行動を監視することになる。
自由な運動をすることについて、阻害、委縮的な効果も含めて非常にやりづらくなってしまう。」

これに対して政府は、懸念は当たらないとしています。

法務省 加藤俊治審議官
「捜査というのは、犯罪の疑いがあって初めて行われるものですから、犯罪の疑いが生じる前の正当な活動が行われている段階から見張ったり監視したりするということは、捜査活動としてはありえない。」

テロ等準備罪 一般の人も対象に?

組織的犯罪集団の定義で、一般の人も対象になるのではという懸念 本当に大丈夫?

椎橋さん:まず要件として、犯罪集団が行う重大犯罪ということですから、犯罪を行うことを目的として集まった集団に住民運動を行っている方、市民運動にかかわっている方、労働組合、これはもう正当な活動ですから、こういうのが活発に行われるのが民主主義社会ですから、それはもうそもそも対象にはなっておりません。
だから心配ないと思います。

一変するという見極め、適正に行われる?

江川さん:オウムも別に犯罪をやろうと思ってみんな集まってきているわけではなくて、最後まで多くの信者は犯罪をやってることを知らなかったわけですよね。
そういう集団のどの段階、オウムも変わってきますから、どの段階から一変したっていうのか、そこがよく分からないのと、それを判断するのが捜査機関ということになるわけですよね。
こういうときによく政府は「司法のチェックがあるから大丈夫だ」って、法務大臣もおっしゃってましたけれども、司法のチェックといっても、特に捜査段階のチェックは非常にあてにならないところが実際ありまして、例えば逮捕礼状なんかの却下率っていうのは、今で0.06%ですね。
あるいは捜索差し押さえ令状なんかは0.04%しか却下されない。
そこのところで本当にチェックが働いているのかどうかというところに、やっぱり懸念するところがあります。

稲田記者:江川さんにお伺いしたいんですが、一般の人が罪に問われるケースをなくそうということで、政府・与党はテロ等準備罪の対象犯罪を、組織的な殺人など、組織的犯罪集団の関与が想定される277の犯罪に絞り込んだというふうに言っているんですけれども、これはどう評価されますか?

江川さん:政府としてはかなり努力したというつもりなんだと思いますけれども、でも例えばいろんな税法とか、あるいは市民団体の関係でいうと、公務執行妨害とか、それの類ですよね。
そういうのが入っていると、例えば税法だと、節税対策でいろいろやっていて、それで最後は税理士さんのところに行って、「これ、だめだよ」って言われた、それでやめましたっていう時に、でもその準備行為はしていたわけですから、ひょっとしたらこの会社、一般の会社がそういうふうに見られる可能性っていうのが、やっぱり懸念としては残るんじゃないかなと思うんですよね。

椎橋さんは、この277に絞り込んだという点については?

椎橋さん:当初、言われていた懸念を払拭するという意味でも、277に絞り込んだというものは、意味があると思います。
およそ組織犯罪、テロ犯罪等が行われる可能性のない犯罪は除いたということには意義があると思います。

最後に、この法案審議、どんな視点で私たちは見ていく必要があるのか、ご紹介していただこうと思います。

椎橋さん:“自由と安全は両立できる”ということで、日本国憲法下70余年の歴史がありますけれども、日本は安全の中で生活してきて、そしてその中で基本的人権や自由も享受できてきたと、自由や基本権を享受できるのが今の日本だというふうに思っております。

江川さん:法律を一回作ると、政権が代わっても残るわけですよね。
ですから、今の政権は、自分たちは大丈夫だというふうに思っているかもしれませんけれども、将来どんな政権ができても大丈夫な制度設計にしなきゃいけないということがあると思うんですね。
本当にこれがテロ対策として効果があるのか、あるいは弊害がどの程度なのかということを、きちっと将来にわたって見極めていく必要があるんじゃないかなと思います。

明後日(6日)から始まる法案審議について、どのような点に注目していけばよい?

稲田記者:確かに犯罪の実行よりも前で処罰可能になるわけですから、これは組織犯罪対策には効果的だと思います。
だからこそ内心の自由を侵すといった懸念があるわけで、その懸念を払拭するための歯止めをいかに分かりやすく政府が説明するか、それが鍵だと思います。