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福島の地で再出発 娘の夢かなえるベトナム料理店

ベトナム人女児殺害事件から7年 亡き娘の思いを胸に父親の決意
  • 2024年04月09日

二本松市にベトナム料理店

福島県二本松市の観光地「岳温泉」の旅館街で、去年6月、1軒のベトナム料理店がオープンしました。店内にはベトナムの文化を感じることのできる雑貨が飾られ、料理は本場の味を楽しめると評判です。

オーナーを務めるのはベトナム出身のレェ・アイン・ハオさん(41)です。

ベトナム料理とか、ベトナムのことを紹介できるように、自分ができることはやりたいです。

ハオさんが福島に移り住んだのは去年。以前は千葉県に住んでいました。
ベトナム料理店を開いた理由には、最愛の娘を亡くしたことが関係していました。

最愛の娘を事件で亡くす

ハオさんの長女、レェ・ティ・ニャット・リンさん(当時9歳)です。

2017年3月24日、当時住んでいた千葉県松戸市で小学校へ登校する途中に連れ去られ、2日後に遺体で見つかりました。リンさんは当時小学3年生。絵を書いたり歌を歌うのが好きな明るい子だったと言います。事件がなければ、この春には高校生になっているはずでした。

ハオさん
7年前、この時間ごろにリンちゃんを探しているんですけど、結局見つからなかったんです。最後の言葉は『お父さん学校に行くよ』と言ってそのまま帰ってこなかったんです。

事件のあと、日本で暮らすことが怖くなってしまったというハオさん。家族を連れてベトナムへ帰国することも考えたといいます。それでも日本に残ろうと思い直させたのは、生前のリンさんのある言葉でした。

「日本とベトナムをつなぎたい」

ハオさん
リンちゃんは「日本とベトナムをつなげる仕事をしたい」と、よく言っていました。

この日本で、娘がかなえられなかった夢を実現したい。ハオさんはそう決心し、千葉県内でベトナム料理店をオープンしました。その後、コロナ禍を経て、物件の条件がよりよい福島県二本松市の、いまの場所に店を構えることにしたのです。

看板メニューはベトナムを代表する米粉を使っためん料理「フォー」。
生前のリンさんも大好きでした。

店を訪れた客
頑張って欲しいです。娘さんが好きだったフォーだと知って楽しみに来ました。おいしいです。

娘の夢にもう一歩

店のオープンから約9か月が経過したいま、ハオさんはリンさんの夢の実現にさらに近づく、新たな事業に取り組み始めています。温泉旅館の経営に向けて動き始めたのです。競売で旅館を購入し、海外からの客向けに客室をリフォームしたり、営業に必要な許可の取得を進めたりしています。

宿の名前は「生まれ変わる=REBIRTH」の頭文字をとった、「RBHOTEL(アールビーホテル)」。日本とベトナムの架け橋になるという夢を、天国のリンさんと一緒にかなえようと、心に決めています。

ハオさん
リンちゃんもとても喜んでいると思います。自分(リンさん)はできなかったけど、私がいるから、できるだけリンちゃんのやりたいことを続けたいと思います。


取材後記)
7年前に千葉県松戸市で事件が起きた時、私は東京にいて、いまと同じくニュースの現場で働いていました。痛ましい事件が起きたことに驚いたとともに、父ハオさんが「リンちゃんに会いたいです」と涙ながらに話すのを見て、いたたまれない気持ちになったのを覚えています。
現在私が勤務する福島にハオさんが移り住んだと知り、取材させてもらいましたが、いまも深い悲しみの中にいること、犯人を許せない気持ち、そして、子どもを目の届かない場所に置くことへ不安を感じることなど、遺族の悲しみや苦悩を教えてもらいました。
娘への思いを胸にハオさんの歩みが着実に進み、リンさんの夢をその手で実現することを願い、応援したいと思います。

  • 浦壁周平

     NHK福島放送局

    浦壁周平

    東京都出身。
    民放キー局を経て2022年入局。警察・司法担当。

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