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震災を語り継ぐ-若き語り部の挑戦-

「請戸小学校物語」を知っていますか?
  • 2023年09月06日

『請戸小学校物語』という絵本をご存じでしょうか。
12年前の3月11日、津波が迫りくるなか高台へ避難した福島県浪江町の請戸小学校の子どもたちの体験を描いています。

この夏、福島県文化センターが主催したイベントで、福島市の高校生たちがこの物語を朗読劇として上演しました。
高校生とともに劇に挑戦したのは、請戸小学校の卒業生・横山和佳奈さん(25)。震災が起きた当時は小学6年生でした。高校生と作り上げた朗読劇にどんな思いをこめたのでしょうか。

(福島局・山内彩愛)

学校がゴゴーッと大きな音をたてて
揺れ始めました
「地震だっ!」

8月12日、福島市で上演された朗読劇。

12年前の3月11日、巨大地震のあと高台へ避難して津波から命を守った、浪江町請戸地区の小学校の物語です。

物語を進める「語り」を担当するのは、浪江町出身の横山和佳奈さん(25)。

請戸小学校の卒業生で、震災当時は小学6年生。地震のあと小学校から高台へ避難した1人です。

震災から12年余・・・感じる課題

横山さんは現在、双葉町にある東日本大震災・原子力災害伝承館で働いています。

語り部も務め、震災の出来事を“命を守る教訓”として伝えたいと考えていますが、自分より若い世代に伝える難しさを感じ始めています。

東日本大震災がどの程度の大きな被害があったかというのを、わからない子たちもいます。どんな風に伝えればわかりやすいんだろう、どうすれば自分事として捉えてくれるんだろうということを、日々課題に感じています。

津波を知らない若者たちと

経験していなくても、現実に起きたことを理解してもらうにはどうすればいいか・・・。

横山さんはこの夏、新たな取り組みに挑戦しました。

津波を実際に見たことがない内陸部の福島市にある高校生6人と、自分自身の経験も含めて描かれた『請戸小学校物語』を朗読劇として作り上げ、上演することにしたのです。

朗読劇に参加する高校生たち

物語の登場人物になりきって演じることで、高校生たちに震災をより具体的にイメージしてほしいと考えていました。

7月6日。
練習初日、横山さんは、12年前の3月11日に大津波警報が出される中、小学校の先生や同級生たちと一緒に高台へ走った当時の記憶を伝えました。

当時の様子を伝える横山さん

(同級生の)りゅうたが「こっちから行けるよ」って示したのは、高台への近道だけど変な道だったの。「いやそっちじゃない」「こっちだ」って別な道を行っていたら、逃げている最中にもしかしたら津波に飲まれていたかもしれない。

横山さんの話を、高校生たちは真剣な表情で聞いていました。

経験が無くても感じ取る

そして、本番に向けた練習が始まります。

朗読劇では横山さんが語りを担当し、高校生たちは小学校の子どもたちや先生の役を演じます。

練習初日の様子

横山さん
「学校がゴゴーッと大きな音をたてて
 揺れはじめました」
高校生
「地震だっ!」

けれど、高校生たちは震災が起きた時はまだ幼く、地震の大きな揺れを感じたことは覚えていますが、沿岸部の町を襲った大津波とは一体どんなものだったのか、津波が押し寄せたあとの町はどんな様子だったのか、当時の状況をほとんど知りません。

請戸地区の子どもたちや先生たちのそのときの気持ちを、自分の言葉として表現できずにいました。

高校1年生の佐藤葵さんです。請戸小学校の先生の役を担当し、津波でふるさとを失った人たちの気持ちを表す、重要なセリフを任されていました。

小学校の児童と先生で高台に避難したあと、町の様子を確認するため、先生たちがふもとに引き返します。そこで何もかもが流されてしまった町の姿を目の当たりにする場面の言葉です。

震災が起きた当時はまだ3歳だった彼が、どう演じようと思っているのか。私(記者)は佐藤さんに聞いてみました。

(Q難しいセリフを任されましたが、どんな気持ちで演じたいですか)
町とか大切なものが一瞬にして消えてしまう絶望感とかを想像しながら、演じたいと思っています。
(Qその絶望感は、想像できそうですか?)
実際にそこまでの経験をしたことがないので・・・できないです。  

佐藤さんは、そのとき先生がどんな思いで請戸の町を見ていたのか想像できずに悩んでいるようでした。

横山さんから語り継ぐ請戸地区

8月11日。
練習を始めてから1か月あまり。高校生たちは、先生や子どもたちの気持ちをどう表現すればいいか、試行錯誤を繰り返していました。
本番前日となったこの日、横山さんはあるものを見せながら話しかけました。

津波によって、自分が住んでいた家も、近所の店も、神社も・・・。それまで当たり前に目の前にあった町並みがすべて無くなってしまった、請戸地区の写真です。

(横山和佳奈さん)
自分の家から見える景色をいったん思い浮かべてみて。目の前に家があったり、建物があったりすると思う。その状態があるはずだって高台から下りたら、あったのがこの景色。

「なにこれ、家とか車がなんでこんなところに・・・」って、そういう状況になったのを想像しながら、セリフを言っていってもらえるといいのかなと思います。

横山さんは、自分がその場に立っていたらどんな気持ちになるか考えてほしいと、高校生たちに語りかけました。

(佐藤葵さん)
家や車が流されているだけだと思っていたら、自分が想像していた以上に、何もない街になっていて、以前より重く感じるようになりました。

(横山和佳奈さん)
高校生たちと話をしていて、この子たちあれも知らないんだ、これも知らないんだっていうのは、どんどん出てきました。質問が出るということは、それだけ震災に関心を寄せてくれているということなのでうれしいです。

朗読劇 本番 ~自分たちで伝えていく~

8月12日。
迎えた本番当日。朗読劇は、横山さんの語りで幕を開けました。

横山さんの語りで始まる朗読劇

横山さん
福島県浪江町、請戸小学校の1日のお話です。
高校生
「僕らの町、請戸は自然豊かな小さな町です」
「町の人たちは挨拶を交わし、みんな仲良く暮らしています」 
「おめえら学校遅れるんでねぇか」
「急がないと!いってきま~す!」

いつもどおりの穏やかな町を、巨大地震と津波が襲います。

『請戸小学校物語』本番当日

高校生
「早く校庭にでなさい」
横山さん
先生の声で僕ら校庭へかけだしました。
高校生
「とにかく高いところへ」
「大平山へ!」

そして請戸小学校の子どもたちと先生たちが高台へ避難したあと、先生たちが引き返し、津波にのまれた町を見下ろす場面がやってきました。

横山さん「今までの景色はもうありませんでした」
高校生 「うそ…なにこれ」
    「家がなくなっている。船が流されている」
高校生 「町が海に飲み込まれた」
佐藤さん「もう、戻れない・・・」

「もう、戻れない・・・」

観客の高校生
こういうこと(震災)が実際にあったというのを、すごく感じることができた。
観客の女性 
自分は双葉町出身で、請戸小学校とか何回か見ているので、じーんと来ちゃいました。

被災した人の気持ちを考え、演じきった高校生たち。津波の被害の大きさを実際に見たことはなくても、故郷を失った人の悲しみや絶望感を、精一杯表現しました。

(佐藤葵さん)
今回の劇をやってみて改めて震災について考えることもできましたし、当時がどんなだったかをより深くイメージして、最初の時よりもよりよいものにできたかなと思います。

忘れないように話を受け継いで、次の災害があったときに、対処できるように伝えていきたいと思いました。

横山さんも、今回の挑戦を通して語り継いでいくことへの手応えを感じているようでした。

(横山和佳奈さん)
震災を覚えていない子たちと交流できたというのはうれしかったです。今回みたいな少しでも当時のことを想像してもらえるやり方が今後もできればいいのかなと思います。

取材後記

演劇の練習初日、震災についてあまり記憶にないと語った高校生たちは、劇の中で緊迫した場面のセリフになればなるほど、どのように表現すればいいかわからず困っている様子でした。しかし、演出を担当する先生は「絶望感を表現してみてほしい」と、高校生たちに問いかけます。

神奈川県出身の私もあの日の午後2時46分、小学校の教室で恐怖を感じるほどの強い揺れを経験しました。自宅のテレビでみた、黒い津波が町をのみ込む映像はずっと記憶に残っていますが、自分の目で津波を見たことはありません。その場にいた人たちのそのときの気持ちを理解することは、記者として現地で取材をしていても難しいと感じます。

震災を直接経験していないと、当時のことをわからない・理解しきれないと自ら一線を引いてしまうかもしれません。しかし高校生たちは、気持ちを想像する努力を重ねて、少しずつセリフの表現を変化させていきました。そんな姿から、理解しようと想像をつくすことで、その一線を越えることができるのかもしれないと教えてもらいました。震災の記憶を語り継ぐにはどうすればいいのか。それを担う世代の1人として、これからも取材に励んでいきます。

  • 山内彩愛

    福島放送局 記者

    山内彩愛

    2022年入局。仙台局を経て2023年春に福島局へ。震災が起きた当時は横山さんと同じ小学生でした。宮城や福島で防災・伝承活動の現場を取材し、大切さを日々感じています。

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