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【福島・郡山】人形浄瑠璃が生んだ地域の絆

ココに福ありfMAP 高倉人形
  • 2023年06月30日

福島県郡山市では江戸時代、人形浄瑠璃が庶民の娯楽として親しまれていましたが、時代とともに関心は薄れ、その文化は息をひそめていました。そんな地域の伝統芸能を130年ぶりに復活させようと立ち上がった元公民館職員の井上まゆみさん。人形浄瑠璃の経験はなく、担い手も指導者も人形もないゼロからのスタート。前途多難の中、地域に対するある熱い思いを胸に、地元住民と人形浄瑠璃文化の復活にまい進していました。

郡山で人形浄瑠璃!?

郡山駅のお隣、日和田駅前の公民館で活動する高倉人形浄瑠璃座。 地元の住民を中心に80代のお年寄りから小学生まで、20人あまりが活動。全員未経験者です。

語りと三味線に合わせ、3人で1体の人形を操る人形浄瑠璃。3人の阿吽の呼吸、高度な技量、人形を操る体力を要します。

語りと三味線に合わせて3人で1体の人形を操る

一座を取り仕切る井上まゆみさん。地域に眠るお宝を見せてくれました。

高倉人形浄瑠璃座 事務局長 井上まゆみさん

なんと郡山の日和田町高倉地区では江戸時代、人形浄瑠璃の一座がいて、庶民の娯楽として親しまれていました。しかし時代とともに関心は薄れ、郡山の人形浄瑠璃文化は忘れ去られ、当時の人形は地元のお寺に長らく置かれたままになっていました。現在は、「高倉人形」として福島県の重要有形民俗文化財に。日和田公民館に保管され、誰でも自由に観ることができます。

地域の公民館に長年勤めてきた井上さん。 人口流出や町内会活動の減少などから、 地域のつながりが薄れゆく危機感を抱いていました。 

井上さん

「地域にこんな素晴らしい文化財があると知る。そして自分たちの地域に対する愛着が湧いて、コミュニティが活性化する一助になれば。」

人形浄瑠璃文化で地域のつながりを

井上さんは一念発起。人形浄瑠璃復活のプロジェクトを立ち上げました。 とは言ったものの、指導者も肝心の人形もない、ゼロからのスタート。 

井上さん

「担い手もいない、活動資金も指導者も人形もない。あれもないこれもない、ああどうしようと。」

それでもめげない井上さん。プロジェクトに賛同した地域のみなさんと一致団結。クラウドファンディングなども活用し、稽古用の人形を製作。地域で体験会を開催し、県外の指導者に基礎から稽古をつけてもらうなど、担い手の育成環境を整えていきました。地域の子どもたちも次第に関心を持ち始め、活動は少しずつ前進していきました。

体験会には地元の子どもたちが参加
専門の職人に作ってもらった稽古用の人形

人の輪を育む人形浄瑠璃

井上さんが活動の中で大切にしてきたのは、「人と人のつながり」をつくること。 技を磨くことは大切。 それ以上に地域の人と人がつながる場にしたい。 地域に息づいた伝統芸能を知り、地域の人たちが愛し、誇りをもつ。 井上さんは、人形浄瑠璃によって地域の人と人がつながり、地域に対する愛着を持ってほしいと願っていました。

夜稽古前の腹ごしらえは井上さんの手作りカレー
持ち寄った総菜を加え、みんなで食卓を囲む

参加する子どもたちは、みな一様に「辞めたいと思ったことはない」、「3人で人形を遣うのが楽しい」と言います。 3人で息をそろえる人形浄瑠璃の奥深さ、 地域のみんなで集まる稽古場の居心地の良さ。 人形浄瑠璃が人の輪を育んでいました。

人形浄瑠璃が楽しく、辞めたいと思ったことはない!
みんなのお母さん的存在の井上さん

つながる人の輪

年に1回、地元の舞台で稽古の成果を披露しています。特に期待がかかるのが小学生から高校生のジュニアクラス。学校の部活動や受験など学校の活動と両立し、懸命に稽古を積んできました。伝統芸能にもとから関心があったわけではなく、学校の体験会などで触れた時の楽しさ、3人の呼吸が合って人形がうまく動いた時の快感から、人形浄瑠璃にハマっていきました。

嶋田朔夜さん(高校3年生)

高校3年生の嶋田朔夜さん。小学生の頃から活動に参加しています。 経験豊富な若手期待の星。高校卒業後も、技に磨きをかけて後輩を指導しながら、郡山での人形浄瑠璃の知名度を高めたいと考えています。 

嶋田さん

「稽古場の雰囲気をみたらわかると思うんですけど、みんなすごい明るく接してくれて。(人の輪を)つなげていくことに関しては、率先してやらなきゃいけない立場だと思っています。井上さんには小さい頃からお世話になっていて、第二の母親みたいなもんですね。」

本番前も入念に動きを確認
小学生から続けている阿部さんと嶋田さん

頼もしい次世代の担い手たちに、井上さんは期待を寄せています。

井上さん

「最初はやんちゃでやんちゃでもう大変でした!だからつい母親みたいにあれやれこれやれと言ってしまうの。でもやっぱり大人になってきたので、私も子離れしなきゃならない。バトンタッチできるように。」

コロナ禍で稽古ができずに苦しかったこの数年。嶋田さんたち高校3年生は進路を考える大切な時期。その中でも人形浄瑠璃を通して地域のみんなと過ごす時間は途切れませんでした。本番では大勢のお客さんの前で、5つの演目を演じきりました。

演目 御祝儀「祝い唄」

人形浄瑠璃の復活を目指すなかで深まった地域への愛情。 埋もれていた地域の宝が、人の輪を育んでいました。

井上さん

「まだまだ芸はつたないところはあるかもしれないけど、 同じ釜の飯を食べるっていう、同じ目的に向かって時間を共有することで 、やっぱりおのずとが生まれますよね。」

高倉人形浄瑠璃座では出前講座や体験会を受け付けています。また、江戸時代に遣われていたとされる「高倉人形」は日和田公民館でご覧いただけます。

日和田公民館( 024-958-2352)

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