【解説】東日本大震災・原発事故「避難者集団訴訟」
- 2023年03月03日
「避難者集団訴訟」とは
原発事故のあと、ふるさとでの平穏な生活を奪われたとして、各地に避難した人などが国と東京電力に対して損害賠償を求める訴えを起こすケースが相次ぎました。
原発事故の発生の2年後の2013年3月に原告800人が福島地方裁判所に提訴したのを始まりに、これまでに全国20の地方裁判所やその支部に提訴された集団訴訟は32件。原告の数はあわせて1万2000人余りにのぼります。
東京電力のみを被告とした裁判も数多くあり、裁判の数、原告の数は実際はもっと多いです。
争点① 賠償額は適切か?
一連の裁判では、これまでに東京電力が国の審査会が定めた賠償の目安「中間指針」に基づいて、支払っている賠償額が適切かどうかが争われています。
裁判の過程では地裁、高裁それぞれで担当裁判官が避難区域となっている町を訪れ、地域の状況などを調査しました。原告たちはこうした機会や法廷での証言などを通じて、事故前の暮らしや避難後の状況、それに抱えている苦しみなどを訴えました。
これまでに判決が出された集団訴訟では、金額や賠償が認められた範囲はそれぞれ異なりますが、事故前の暮らしを変えなければならなくなったことや、「ふるさとを失った損害」などを考慮して、ほとんどで中間指針を上回る賠償額が認められています。
争点② 事故の責任はあるか?
もう1つの争点は、国と東京電力に事故を起こした責任があるのか。この点をめぐって、判断の材料となるのが「予見可能性」と「結果回避可能性」です。
「予見可能性」は国と東京電力が巨大な津波を予見することができたかということ、「結果回避可能性」はその予見に基づいて対策を講じていれば事故を防ぐことができたかということです。
東京電力の責任については、これまでに言い渡された1審・2審の判決23件すべてが認め、ほとんど国の基準を上回る賠償を命じていて、一部は最高裁判所の決定を経て確定しています。
一方、国の責任については、国の責任を認めたのが12件、認めなかったのが11件ときっ抗していましたが、去年6月、最高裁判所は、このうち4件について、国の責任を認めないとする判決を言い渡しました。
今後は?
4件が確定し、継続中の集団訴訟は28件になりました。
ことし1月には福島地方裁判所に200人余りが追加提訴。事故発生からこれだけ時間がたってもなお、新たに訴える人が増えるということは、それだけ、原発事故の被害の賠償が難しく、国の審査会が作った基準に沿って行われた賠償が不十分だと感じている人が多いということでしょう。
3月10日には、仙台高等裁判所で、原発事故の国の責任に関する最高裁の統一判断のあと初めてとなる集団訴訟の判決言い渡しがあり、さらに14日にも福島地裁と岡山地裁であわせて3件の判決言い渡しが予定されていて、どのような判断が示されるか注目されます。