九州交響楽団 首席指揮者 太田弦さん 「次代へ」
- 2024年04月19日
九州交響楽団の「次代」を担う指揮者はどんな新風をふきこむのか。アクロス福岡シンフォニーホールは期待と熱気に包まれていました。70年の歴史ある交響楽団。重責を力にして新しい九響をみせてくれる。そう感じた太田弦さんへのインタビューです。
(NHK福岡 アナウンサー 道上美璃)
4月11日と12日に開かれた九州交響楽団、通称「九響」の第420回定期演奏会。今回は、首席指揮者となった太田弦さんが初めて出演する就任記念公演です。
太田弦さんは、北海道出身の30歳。
東京藝術大学の音楽学部指揮科を首席で卒業しました。そして、東京藝術大学大学院音楽研究科指揮専攻修士課程を卒業。東京フィルハーモニー交響楽団など複数のオーケストラを指揮して観客を沸かせ、国際コンクールでも高評価を得てきました。今後、活躍が期待される若手指揮者の筆頭として知られ、九響の首席指揮者に抜てきされました。
開演を直前にした心境を率直に聞きました。
今のお気持ちはいかがですか?
そうですね。
ほどほどに緊張しつつも、思ったより、わくわく感が勝っているなという感じてです。九響という素晴らしいオーケストラとこれから5年間一緒に活動していく。そのスタートが良い形で切れそうなので、わくわくしているのだと思います。
九響では2013年から長年、音楽監督を務めた小泉和裕さんが中心的な役割を果たしてきました。去年(2023年)楽団創立70年の節目を迎え、ことし、バトンを楽団史上最年少で太田さんが受け継いだのです。
70年の歴史がある九響をどう感じていますか。
最初にご一緒したときから一貫して、音色も雰囲気も明るい、とてもいいオーケストラだなと思っています。
もちろんプレッシャーには思うんですけども、なんでしょう。一応、指揮者でやっていこうと思うと、いつかは経験しなければならないことなのかなと思うので、早い段階で1回経験できるのはプラスなのかなとポジティブにとらえることにしました。
奏者をまとめるコンサートマスターの扇谷泰朋さんに太田さんについて聞くと・・・。
コンサートマスター扇谷泰朋さん(九響歴約20年)
非常に真面目で、いい音楽家でもあります。指揮はわかりやすいし、何がしたいかはっきりしている。もう圧巻としか言えないですね。
今回、太田さんが演目のひとつに選んだのが、ショスタコーヴィチの交響曲 第5番 ニ短調 作品47。「革命」と呼ばれる作品です。どんな思いで選んだのでしょうか。
(太田さん)
九響が大事な演奏会でしばらく取りあげていないもので、なおかつ、有名な曲。それをとりあげたときにお客さんからどういう反応をいただけるのか、そこを知りたいなと思ったのが大きな理由ですね。
けっこう込み入った事情のある曲ではありますけども、そういった深い内容も含めてですけども、今の九響が持っているポテンシャルに僕が入っていったことで、どんな演奏になるか。そこに興味を持ってもらったらうれしいです。
こんな質問もしてみました。
”革命を起こしたい”という気持ちも少しあったり?
いえ(笑)、まったくありませんね。というか、今おっしゃられるまでこの曲が「革命」って呼ばれていることも忘れていました、僕。
ショスタコーヴィチ本人がつけた題ではないんですよね。俗称というか。
この曲を通じて首席指揮者就任をどう感じてほしいですか。
それはもうお客様によるとしかいえないかもしれませんね。新しい指揮者がきて「面白いな」と思われる人もいれば「こいつになってがっかりだな」と思う人もいて、当然それはそれでいいと思うんですよね。
まずはどこかの機会で僕と九響の演奏を聴いていただいて、どう感じるかはお客様しだいだと思います。
太田さんの初公演となる定期演奏会では、こんな試みも行われました。
演目の特徴などを太田さんが自分のことばで紹介するプレトークです。太田さんの人柄も感じられ、軽快なトークに会場が沸く場面もあり、演奏前から聴衆の心をつかんでいました。
“新しい風を”ですとかそういった意気込みはありますか?
何かを大改革してやろうという、みたいなアイデアは特にないんですけども。新しく僕がきて、やはり若いじゃないですか。それで、なんとなくいろんなとこのフレキシブルさ、ちょっとしたことですけど。本番前のトークも(提案されて)ぜひ、やりますよって。九響を身近に感じて頂きたいと思っています。
なので、小さいところからどんどん始めていこうかなと思っています。
最後に、九響と関わる中で生まれた太田さんの目標は。
これは僕が望んだからできるかどうか分からないですが、もっと九州全体で定期的に年に1回は必ずどこかの県に行くみたいな形ができたらすごくうれしいなと思っています。オーケストラが主催して行うような主催演奏会だけでなくて、地方の学校をめぐるというようなものにも僕が九響の“顔”として一緒に動いて参加することによって、より地域、特に福岡だけじゃなくてもう少し広い九州全体に九響をなじみのオーケストラとして思ってもらえるようなそんな活動をすることが一番かなと思っていますね。
(九州交響楽団という)名前に即したオーケストラとして、まさに九州に根を張ったオーケストラにしたいです。
(取材後記)
インタビューの時は朗らかで笑顔が絶えませんが、曲が始まると引き締まった表情でオーケストラを引っ張る太田さん。一瞬の切り替わりに驚きつつ、重厚な演奏の中にも勢いや爽快感を感じました。
映画音楽やゲーム音楽など、クラシック以外でも「オーケストラ」への入り口を作りたいとお話しされていて、意欲とアイデアをたくさんお持ちなのだと感じました。太田さんはこれからいろいろな新しい挑戦をされていくと思いますので、機会があればみなさんも演奏会に一度、ホールなどに足を運んで聴いていただきたいと思いました。