絵本が持つ「力」を信じて 福岡
- 2024年04月16日
福岡県春日市にことし3月で開店から35年を迎えた子どもの本の専門店があります。子育て中、絵本に救われたという店主の前園敦子さん。前園さんは、本が持つ力を信じてその魅力を伝え続けています。(NHK福岡放送局・松木遥希子)
本が出迎えてくれる空間
春日市の駅近くにある子どもの本の専門店「エルマー」。店内には絵本や児童書が所狭しと並べられ、子どもたちを出迎えてくれます。その数およそ4000冊。店主の前園敦子さんに問われて子どもの年齢や好きな遊びなどを答えると「これはもう読んだ?」「車が好きならこういう本がおすすめよ」と次々にアドバイスをくれます。
きっかけは“育児ノイローゼ”
愛知県出身の前園さん。夫の仕事の都合で福岡県に来たとき、知り合いはほとんどいませんでした。初めての子育てで頼る人もいない中、育児書を頼りに子どもを育てようとしたといいますが、なかなか育児書のとおりにことは進みません。「自分が立派に育てないと」と次第に追いつめられ、育児ノイローゼのような状態になっていきました。そうした中、“絵本が子育てにいい”と耳にして子どもに本の読み聞かせを始めたところ、自分が救われた気持ちになったといいます。
きっかけになった絵本「ぼく にげちゃうよ」。1942年にアメリカで出版され、80年以上読み継がれているロングセラー作品で、さまざまな姿に形を変えて逃げようとする子うさぎと母うさぎのほのぼのとした会話が人気です。どこまでも子うさぎを温かく見守る母うさぎの姿にふれて、前園さんは次第に肩の力が抜けていったといいます。
店を飛び出し、絵本の魅力を伝える活動もしている前園さん。この日は久山町の子育て支援センターで、集まった親子連れに読み聞かせや講演を行いました。持参した本の中には「ぼく にげちゃうよ」も。
「3歳まで厳しく」って育児書に書いてあって、息子をものすごく厳しく育ててたの。今でいう虐待ですよ。そういうお母さんでも、この本読んでるときが一番母親らしかったって、息子が大学生になったときに言ったんですよ。この本を読むことで、私は子どもが寝る前に優しいお母さんになって、優しい声で“おやすみ”ということばをかけられた。それはやっぱりこの本の力、この本との出会いがあるからだったんです。
「本の魅力を伝えたい」
自分を救ってくれた本の魅力を、もっと多くの人に伝えたい。前園さんは子育てが一段落した1989年に好きな児童書から名前をとって「エルマー」を開店しました。県内ではまだ珍しかった子どもの本の専門店でした。それから35年たち、エルマーはいま、本の魅力にふれ、幅広い年代の人とふれあえる場所になっています。
店内では、幼い子どもがお兄さん、お姉さんと遊んだり、本を読んだり、読んでもらったり。また大人も一緒にカルタやすごろくを楽しむなど、笑い声が絶えません。
赤ちゃんのころからエルマーに通っています。私は小さい子が好きで、ここに来たら小さい子がたくさんいて一緒に遊べるので大好きです。
いろいろな本の種類があって、いくつになっても本を読んで楽しめる場所です。
子どもたちの居場所であることもエルマーの大切な役割です。たとえ本を買わなくても、子どもたちがこうして来てくれるだけでうれしいじゃないですか。私の元気の源です。
本を通じて豊かな時間を
ひとりでも多くの人たちに、本とともに穏やかで豊かな時間を過ごしてほしいと願っている前園さん。店内外での活動を通じ、その思いは親たちの心にも確実に届いています。
ふだんどうしても娘を怒ってしまうことが多いので、絵本を通じて子どもと優しい時間を過ごせたらいいなと思いました。
これからも本の魅力を
店を開いてから多くの親子とふれあってきた前園さん。これからも本の力を信じて伝え続けていくつもりです。
子どもたちにとっては、本は友達だと思ってるんです。本をいっぱい読んでる子の場合は、なにか悩んだときに本の主人公と共有できるんですよね。だからいろんな問題があっても乗り越えることができると思ってます。また小さい子どもたちにとっては、本を読んでもらっているという時間を読み手の親などと共有できます。それは最高なことだし、大事なことだと思います。