ページの本文へ

読むNHK福岡

  1. NHK福岡
  2. 読むNHK福岡
  3. “ウクライナの歌姫”ナターシャ・グジーさんが信じる音楽の力

“ウクライナの歌姫”ナターシャ・グジーさんが信じる音楽の力

  • 2022年10月11日

     

    ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から7か月余りたつ中、ウクライナ出身の歌手ナターシャ・グジーさんが民族衣装や伝統的な楽器の演奏とともに福岡県筑紫野市でコンサートを開きました。
    「かわいそうだからではなく、ウクライナを好きになって支援してほしい」。
    歌手のメッセージです。
    (NHK福岡放送局 記者 郡司幸耀)

    日本で活動続けるウクライナの歌姫

    9月末、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナの人たちを支援しようと、筑紫野市文化会館でコンサートが開かれました。歌うのはウクライナ出身の歌手ナターシャ・グジーさんです。
    ナターシャさんは6歳だった1986年にチョルノービリ原発事故で被ばくし、首都キーウに移り住むなど各地を転々とした経験を持ちます。

    6歳の頃のナターシャさん

    被ばくした子どもたちを中心につくられた音楽団に入り、16歳の時に楽団のメンバーとして初めて日本を訪れました。
    その後、原発で働いていた父親の病気などにより、歌手になりたいという夢を一度は諦めかけましたが、19歳のときに再び来日。それから22年間、都内を拠点に音楽活動を続けています。

    「第二の故郷」で伝えたいこと

    そんな中、起きたのがロシアによる軍事侵攻でした。
    ふるさとは戦場となり、7か月あまりたった今も侵攻が続いています。ナターシャさんは全国47都道府県を回るチャリティーコンサートを行っています。

    「ウクライナは大変な状況にありますが、『かわいそう』という気持ちで応援や支援をするのではなく、1人でも多くの人にウクライナに魅力を感じて好きという気持ちを持ってもらいたいと思っています。ウクライナには長期にわたる支援が必要で、復興に向かって歩き出すときに、大きな支援が必要になるので、みなさんの『好き』という思いがつながってほしい」(ナターシャさん)

    民族楽器「バンドゥーラ」を奏でて歌う

    筑紫野市でのコンサートの前日、ナターシャさんに話を聞きました。
    原発事故によって故郷を失ったつらい過去がある自分だからこそ、音楽を通して「第二の故郷」と語る日本で伝えられることがあると語りました。

    「日本にも原発がたくさんありますし、地震もありますし、その自分が経験したことを音楽とともに日本で伝えていくのがやはりすごく大きな意味があって大切な役割だと思っています」(ナターシャさん)

    避難学生も招待 11曲を披露

    そして迎えたコンサート。
    チケットは完売し約300ある観客席はいっぱいになりました。ウクライナから避難し太宰府市の日本経済大学で学ぶ学生50人あまりも招待されました。

    午後2時10分。少し遅れた開演と同時に1曲目の「キエフの鳥の歌」を歌ったナターシャさん。冒頭の挨拶で観客の心をつかみます。

    「ナターシャ・グジーです。私は生まれも育ちも葛飾柴又…(笑い)ではなく、ウクライナの方です」

    ユーモアも交えた挨拶に会場は笑いに包まれ、少し張り詰めていた会場の空気が一気に和みました。

    民族衣装を身にまとったナターシャさんは、伝統的な弦楽器「バンドゥーラ」の演奏とともに、自らの生い立ちや曲に込めた思いなどトークを交えながら、休憩なしで9曲を歌い上げました。

    ウクライナの民謡をもとにしたオリジナル曲をはじめ、「秋桜」や「いつも何度でも(『千と千尋の神隠し』主題歌)」など日本でもおなじみの曲も交え、あっという間の90分間でした。

    観客は90分間の演奏に聴き入った

    “ウクライナへの応援歌”

    そして、アンコールで歌ったのは“ウクライナへの応援歌”と語る「希望の大地」という曲。
    8年前の2014年、ロシアが一方的にクリミアを併合するなど祖国が危機に瀕していた時、平和への願い込めて作った曲です。

    「当時もウクライナがいろんな困難な時期にありましたが、その時の悲しみ苦しみや、チョルノービリの原発事故など、いろいろな困難を乗り越えてきているので、きっとこれからも乗り越えていける、そんな思いを込めて作った曲です。いまはそれがウクライナへの応援歌という位置づけになっていて今回もウクライナは乗り越えていけるという思いで歌っています」(ナターシャさん)

    「ウクライナに栄光あれ」

    すべての曲が終わり会場が拍手に包まれる中、招待されたウクライナの学生たちが声をあわせてナターシャさんに言葉を送りました。

    「ウクライナに栄光あれ」

    コンサートの前に「心配な日々を送っているみなさんが、少しでも心が癒やされる時間を過ごせたら」と話していたナターシャさん。同じウクライナを母国に持つものどうし、思いが通じ合った瞬間でした。

    「私のふるさとについての曲『我がキエフ』はすごく懐かしい曲で、ふるさとに戻った気持ちになり、これからも頑張ろうという気持ちを改めてもらいました。ウクライナのために少しでもできることがあれば手伝いたいし、私もナターシャさんのように日本の方にウクライナの文化などを紹介していきたいです」(3月から避難している学生・ヴェラ・パリチクさん)

    公演後にサインに応じるナターシャさん

    「本当に暖かい拍手をみなさんから頂いて、すごく私自身もうれしかったです。ウクライナの曲、日本の曲、みなさんがよく知っている曲…それぞれの曲で気持ちのキャッチボールができた。私が伝えたいことが皆さんに届いているんじゃないかな。1日でも早くウクライナに、世界に、平和が訪れることを願って、音楽の力を信じて歌っていきます」(ナターシャさん)

    ウクライナの歌姫が信じる「音楽の力」。今後も祖国を思って、全国で歌い続けます。

      • NHK福岡放送局 記者

        郡司幸耀

        令和元年入局。
        司法取材などを経て、現在は災害や航空取材などを担当。

      ページトップに戻る