ことばウラ・オモテ

「たてなおす」

経済関係のニュースが多くなり、日常生活が世界経済に直結しているのを知らされることが増えてきました。

経営不振に陥った企業が、「経営再建策」を公表する例もあります。

「たてなおす」にはふたとおりの漢字が当てられます。「立て直す」と「建て直す」です。

新聞界はほぼすべての社が「建て直す」は建築物について言う」として、そのほかの場合は「立て直す」を使うことに決めています。

国語辞典でも、ほぼ同じ説明ですが、明確に「経営のたてなおし」について触れているものはほとんどありません。

NHKでは「立て直し」の用例として「計画の~」。「建て直し」は「家の~、赤字経営の~」という用例を載せています(新用字用語辞典第三版)。

強いて説明を加えると、「立て直し」は計画・方針などを再び作り上げることや、崩れかかった体勢・態勢を元に戻すことです。

「建て直し」は建物を再び築きあげることや会社などの倒れかかった経営をもとの状態に戻すことと言えます。

「経営再建」ということばがあるために「建て直し」がぴったり来るのです。

「方針」などは「立案」ということばが使え、「立て直し」がいいようです。

新聞のようにスパッと割り切ると使いやすい面もありますが「再建策を示し、経営を立て直すことを決意しました」ということになり、少し変な感じがします。

一方、NHK方式では、「それでは財政、体制、輸出入バランスなどはどちらだ」と、あいまいな領域が残ることになります。

これは、もともとあった「たてる」という和語にどのような漢字を当てはめるかという事に原因があるようで、漢字の意味概念の分割と日本語本来の意味の違いが完全に一致していない事による問題ではないかと考えられます。

「たてる」で似た問題としては「掘立柱」があります。「掘っ建て小屋」は「建」ですが、「柱」は「立」のことが多いようです。

「金字塔を打ち立てる」という表現を目にします。「金字塔」はピラミッドのことであり建造物なので「打ち建てる」ではないかという疑問も生じますが、「うち-たてる」は「打ち立てる」という表記しかしないのが慣用です。

漢字の使い分けの多くはこのような基本的な問題を抱えていて、あいまいなところが残るのはしかたがないことかもしれません。

そのために、「ひらがなで書く」という道も残されています。

「降ろす」「下ろす」や、「登る」「上る」が代表的な例でしょうか。「ウナギのぼり」はどちらにも解釈できそうですし、「荷物をおろす」は少し考えてしまいそうです。

きっちり使い分けたいという希望はありますが、難しい場面も考えられ、どのような意味でくくってことばを探すかがその人の国語力になるのでしょう。

(メディア研究部・放送用語 柴田 実)