ナスの鴫焼き(しぎやき)
2005.09.07
夏は、食べ物が豊富にあり、酒をたしなむ人々には良い季節です。
と言っても酒飲みは、四季にかかわらずいつでも酒はうまいそうです。
暑い季節は、枝豆で一杯、冷ややっこで一杯、ナスのしぎ焼きで一杯と杯が重なります。
気になったのはこの「しぎ焼き」。ナスを焼いて練りみそをつけたものです。
鳥の鴫(しぎ)から来たことばですが、ナスとの関係がわかりません。
いろいろ調べると、『日本国語大辞典第2版』によると、随筆の『瓦礫雑考』に「今の茄子の鴫やきといふものは、鴫壺焼といふことより転(うつ)れるなるべし。包丁聞書に鴫壺焼と云は生茄子(なす)のうへに、枝にて鴫の頭(かし)の形をつくりて置也。柚味噌(ゆみそ)にも用とあり」と説明がありました。
これでは何のことかわからず、別の本を見ました。『嬉遊笑覧』の巻十には、『包丁聞書』の引用で同じ説明があり、「猶まことの鴫焼の躰残れり」とあります。
『日本国語大辞典』でわからなかった「鴫壷」というのは「茄子の肉をくりぬき、鴫の作り身を其中に入て焼、夫(それ)より右の躰となれり」と注釈があります。
ナスは、入れ物だったわけです。
ごていねいにその後の話もあり、「『料理物語』に「鴫やき、茄子を茹(ゆ)でよき頃にきり、串にさし、山椒みそ付て焼なり」と書いてある。そうすると慶長(1600年ごろ)このかた今の形になったのだろう」と書いてあります。
シギが跡形もなくなったのは実に古いことのようです。
おまけに、ゆずみそではなく、さんしょうみそがもともとであったそうです。
少しクセのある鳥類の肉であれば、さんしょうのほうがゆずよりにおい消しに役立ったであろうことは想像に難くありません。
しかし、さんしょうとナスより、ゆずとナスのほうが相性が良さそうです。
古人はいろいろ試しながら料理を作り上げていったことがしのばれます。
鶴やしぎを食用にしていたのは江戸時代以前のことのようですが、今ではこれらの鳥を食べる習慣はなくなっています。
それでも、名前だけに「しぎ焼き」が残っている不思議を感じます。
似たような例に「雉(きじ)焼き」や「タヌキ汁」があります。
「キジ焼き」は2とおりあって、豆腐をしょうゆと煮酒で焼いたものと。マグロやカツオをショウガじょうゆで焼いたものがあります。「キジ」の見立てです。
最近では鶏肉を甘辛のつけじょうゆで焼いたものが「キジ焼き」で通っています。
「タヌキ汁」は、食べた人の話では、脂に何とも言えない強烈な獣臭があるそうです。タヌキ汁は実物のタヌキの肉を使ったものではなく、コンニャクをタヌキの肉(脂)に見立てたおとなしい汁物に化けたものです。
これもかなり昔に名前だけの料理になっていたと思われます。
食べたことのないシギの味を想像しながら、「ビールもう一杯!」