ことばウラ・オモテ

「再」はふたたびか

アメリカのスペースシャトルが地上に戻ってくる際に事故を起こし7人の宇宙飛行士が亡くなりました。

「大気圏再突入時の事故」とありましたが、これに異論を唱える人がいました。「再突入」というのは「再び突入すること」なので、シャトルは今回の飛行では1回大気圏を出たことはあっても2度目の突入に当たらないというのです。

昨秋、一般の人から「台風が再上陸した」というのはおかしいという電話もいただきました。「再上陸」は、同じ場所に2度上陸することを言うのではないかという論旨です。

通常、「台風が再上陸した」といった場合はA地点に上陸し、再び洋上に出て、さらにB地点に上陸したことを言い、台風が迷走し同一地点に2回の上陸をしたことだけを言うことはありません。

2つの例を見ますと、どうやら「再」の使い方に幅があるようです。

「再」という漢字は、会意文字で「一」と「構」のつくりを重ねたものです。同一のことが2度ある意味です。

意味として漢和辞典では、「ふたたび。また。二つ。再びする。重ねる。」をあげています(講談社『新大字典』)。

台風の再上陸は主体を台風と考えれば、台風にとっては2度目の上陸で「再」を使うことに問題はなさそうです。

「再」の付く熟語で「2度目の」という意味をほとんど含まないのは「再突入」だけです。

「再突入」はシャトルを主体に考えても、2度目の突入ではないので無理があります。しかし、「大気圏に再突入」という表現を聞いてもおかしいと思わないのはなぜでしょうか。

これは、スペースシャトルにとって、大気圏という大きな障害をくぐり抜けるのが2度目(1度目は打ち上げ時)に当たるからではないでしょうか。

また、辞書には「宇宙船などが、宇宙空間から再び地上に向けて大気圏内に戻ること。」(三省堂 『大辞林 第二版』)とあります。「再び戻る」意味を強く表現するための「再」であると考えられます。

「再突入」は英語のreentryを直訳したもののようで、reを「再」と訳したにすぎないようです。entryには「入場、入場許可」の意味がありますから、英語では「再入国」「戻る」と同じ語感があるのでしょう。それを漢字を使って訳したために少々ずれが出たようです。

ことばの移入には注意が必要なのかもしれないと再考させられました。

(メディア研究部・放送用語 柴田 実)