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カレーが好きな人は「辛党」?

カレーやキムチが好きな人のことを「辛党」と言っても問題ないのでしょうか。

「辛党」は、酒の好きな人のことを指すことばです。最近では「からい食べもの」が好きな人のことを言うのに使われる場合もありますが、現時点では、まだ伝統的な使い方を守っておいたほうがよいでしょう。

解説

「からい」は、古い日本語での中心的な意味は「舌を刺すような鋭い味覚」で、現代の「ぴりぴりする味」だけではなく、「しょっぱい味」や「すっぱい味」についても使われていました。「からい」が「しょっぱい味」のことを指すのは、西日本では現代でも一般的です。

酒の味についても、「舌を刺すような鋭い味覚」というところから、「アルコール度数が高い」「甘みが少ない」といったことを表すのに「からい」が使われてきています。こうした使い方は、平安時代にも見られるものです。

ご質問の「辛党」ですが、たとえば次のような昭和初期の用例があります。

  •  日本では甘党辛党などゝ称し、酒好きと菓子好きとを対立させてゐるが、これはどうも理屈に合はぬらしい。」(岸田國士「甘い話」、1930(昭和5)年)
  •  「私は酒も好きだが、菓子も好きになつた(何もかも好きになりつつある、といつた方がよいかも知れない)、辛いものには辛いもののよさが、甘いものには甘いもののよさがある、右も左も甘党辛党万々歳である。」(種田山頭火「其中日記」、1935(昭和10)年の記録)

こうした例ではご覧のとおり、「辛党」が「酒好き」という意味で使われています。

ウェブ上でおこなったアンケートの結果では、40歳代以上では伝統的な「『辛党』=酒好き」という回答が主流であるのに対して、それよりも下の年代では革新的な「『辛党』=カレーやキムチ好き」といったような答えのほうが多くなっていました。

日本では伝統的に、とうがらしを大量に使った「ぴりぴりする味」の料理は、あまり作られてきませんでした。現在のように「ぴりぴりする味」を好む人が多くなったのは、1980年代の「激辛ブーム」以降ではないかと思います。こうした人たちのことをうまく言い表すことばがそれまでなかったために、「辛党」が転用されるようになったのではないかと思います。

酒好きを表すことばに、「左党(さとう)」という言い方もあります。これには、職人などが「のみ」を持つのが左手であるため、「のみ手」→「飲み手」というだじゃれから生まれた言い方なのだという説があります。酒の席でのウンチクに、どうぞご活用ください。

(NHK放送文化研究所ウェブアンケート、2014年3月~4月実施、1073人回答)

(メディア研究部・放送用語 塩田雄大)