最近気になる放送用語

「追い抜く」? 「追い抜かす」?

「追い抜く」と「追い抜かす」は、どのように違うのでしょうか。

「追い抜かす」は、比較的新しい言い方です。「追い抜く」とほとんど同じ意味ですが、微妙な使い分けを指摘することもできます。

解説

現代日本語の辞書として一番大きい『日本国語大辞典(第二版)』の「追い抜く」の項には、15世紀の用例が載っています。それに対して「追い抜かす」は、そもそも項目として立っていません。おそらく、伝統的な語ではないという判断によるものだと思います。

「追い抜く」と「追い抜かす」についてウェブ上でアンケートをしてみたところ、「『追い抜かす』と(も)言う」という回答は、若い人になるほど多くなっていることがわかりました。

この2つの使い分けをあえて指摘すると、「追い抜かす」は「ふつうであれば『追い抜く』はずのない状況」で使われることが多いということが言えます。

  • 「真っ白な息を 風に変えたら
    流れ星さえも 追い抜かしてくんだ」
    (「夢色バス」作詞・歌:広沢タダシ)
  • 「朝から何も手につかず はやる気持ちが 時間追い抜かす
    (「聖なる夜に」作詞・歌:ケツメイシ)

それに対して「追い抜く」には、そのような限定はないようです。

  • 「出逢うのが 少しだけ 遅すぎただけなのに
    もうこのまま あの女性を 追いぬけないのね」
    (「Still Love You」作詞:井上望 歌:森口博子)
  • 「なみをチャプチャプチャプチャプかきわけて チャプチャプチャプ
    くもをスイスイスイスイおいぬいて」
    (「ひょっこりひょうたん島」作詞:井上ひさし・山元護久)

つまり「追い抜かす」には、そんなことはふつうは起こらないという「意外性・びっくり感」のようなニュアンスもあるようなのです。

なお運転免許を持っている人は勉強したことがあると思いますが、道路交通法の定義では、前の車に追いついたあとに車線変更をするのが「追い越し」、車線変更をしないのが「追い抜き」です。運転時には、いきなり「追い抜かし」をしてほかの車をびっくりさせたりしないようにしましょう。

(NHK放送文化研究所ウェブアンケート、2013年8月~9月実施、1788人回答)

(メディア研究部・放送用語 塩田雄大)