最近気になる放送用語

「しょうゆ」? 「醤油」? 「正油」?

しょうゆを「正油」と書いてはいけないのでしょうか。

放送では、「しょうゆ」とひらがなで書くことになっています。「正油」という書き方は、必ずしも全国的になじみのあるものではないと考えられているからです。

解説

しょうゆの正式な漢字表記は、言うまでもなく「醤油」です。しかし「醤」は少々むずかしい字で、国が定めた「常用漢字表」にも入っていません。そのため、「醤」の代わりに「正」を用いた「正油」という「代用表記」も、一般には使われています。

「正」は「常用漢字表」に含まれている字で、「正月・正午・毎正時・正体」のように「しょう」という読み方もあります。ここからすると、「正油」という漢字表記には問題がなさそうにも思えるのですが、国語辞書の中には「ぞくじ【俗字】…漢字の、正しくないとされる使い方。「醤油」を「正油」、「波瀾」を「波乱」とするなど。」(『新明解国語辞典第七版』)と示しているものもあります。

1966(昭和41)年のある雑誌に、次のような投稿があります(佐竹秀雄『言語生活の目』から再録)。

「学生食堂で、生卵にソースをかけてしまってくやしがるうっかりものが絶えなかった。そこで食堂側の親心、それぞれの小びんに「ソース」「油」と書いてくれた。<間違わずこの正しい方を生卵におかけ下さい>ということか!(仙台市 ○○さん)」

ここから、このころは「正油」という書き方は(まだ)めずらしいものだったことがうかがわれます。

「正油」という書き方をするかどうかには、地域差もあるようです。もし漢字で書くとしたらどう書くかについて、ウェブ上でアンケートをおこなってみたところ、西日本には「『正油』とは書かない」という人がかなり多いことがわかりました。

つまり、「正油」はかならずしも全国的に用いられている表記ではなく、また「醤油」は使わないことにしてある漢字なので、放送では「しょうゆ」とひらがなで書くことになっているのです。こういうオチにはしたくなかったのですが、しょうゆうことです。

漢字では「醤油」と書く(「正油」とは書かない):47%(全体)(NHK放送文化研究所ウェブアンケート、2009年9月~10月実施、563人回答)

(メディア研究部・放送用語 塩田雄大)