最近気になる放送用語

「いらして」? 「いらっしゃって」?

「いらして(ください)」という言い方は、放送では使わないほうがよいのでしょうか。『NHK日本語発音アクセント辞典』に載っていないので、気になっています。

使うことに問題はありません。「いらっしゃって」「いらっしゃった」は、場合によって「いらして」「いらした」という形をとることが多いものです。

解説

「いらっしゃる」は、「入(い)らせらる」(=「お入(はい)りになる」)という言い方からできたことばです。この動詞に「~て」「~た」が付くと「いらっしゃっ(て/た)」になるのですが、これは使われる機会がたいへん多いのにもかかわらず語形が長いので、動詞の活用形としては例外的に「いらし(て/た)」という形も認められているのです。

なお、「いらっしゃる」には「行く・来る・いる」の尊敬語としての用法がありますが、これには変化が生じつつあるようです。「いらしてください」と「いらっしゃってください」の使い方についてネット上でアンケートをしたのですが、ここでは前者のデータを見てみます。「いらしてください」が「来てください」の意味で使われることはすべての年代で一般的なのですが、「行ってください」の意味で考えた場合には、若い年代での支持率が低くなっているのです。

これは、「行かれてください」という言い方が増えてきたことが関係しているのではないかと考えています。それに対して、「来られてください」はそれほど耳にしません。「いらしてください」だと「行く」のか「来る」のかはっきり表せないこともあるので、「行く」の意味のときには「行かれてください」と特に言い分けるようになってきているのではないかと考えられます。

「行かれてください」が広まってきた背景の一つに、もう一つの「いかれる」ということばが衰退してきていることが挙げられます。「おかしくなる」という意味での「いかれる」です。この「いかれる」が社会で広く使われていたころには「行かれてください」という言い方は非常に嫌われていたのですが、これが廃れてきたことで「行かれてください」が積極的に活動を始める余地が生まれたのではないかと考えています。

「いらして」? 「いらっしゃって」?(NHK放送文化研究所ウェブアンケート、2008年8月~9月、1,211人回答)

(メディア研究部・放送用語 塩田雄大)