最近気になる放送用語

「あるかどうか」? 「ないかどうか」?

「余罪があるかどうか調べています」は「余罪がないかどうか調べています」と言うこともできますが、この2つはどのように違うのでしょうか。

これはたいへん難しい問題で、人によっても受けとめ方が異なり、残念ながらまだくわしいことはわかっていません。ことばの面から1つ言えそうなのは、「あるかどうか」はある程度ニュートラル(中立的)に使われるものであるのに対して、「ないかどうか」は「『ない』ということが前提になっている」場合に用いられる、ということが挙げられるかもしれません。

解説

「余罪がないかどうか」のほうは、文脈によっては「これまでの情報ではひとまず余罪がありそうな気配が見当たらない(が、引き続き調べてみる)」というようなニュアンスを帯びることがあります。

ちょっと頭の体操をしてみましょう。

A「『放送研究と調査』の先月号、ある?」
B「たぶん、ないと思うけど。」
A「[○ あるかどうか/○ ないかどうか]確かめてくれる?」

この場合、Aさんは、「あるかどうか」「ないかどうか」の両方とも使うことができるでしょう。ここでは、Bさんの予想として「ない」ことが前提になっています。

いっぽう、次の場合はどうでしょうか。

A「『放送研究と調査』の先月号、ある?」
B「たぶん、あると思うけど。」
A「[○ あるかどうか/× ないかどうか]確かめてくれる?」

この場合では、Aさんは、「あるかどうか」とは言えても「ないかどうか」とは言えないことがわかるでしょう。ここでは、Bさんの予想として「ある」ことが前提になっています。

つまり、「ないかどうか」は「客観的な状況や主観的な知識に照らし合わせて『ない』ということが前提となっている」場合にしか使えないようなのです。

いっぽう「あるかどうか」は、「ある程度中立」で「多くの場合に使える」と言えるかもしれません。しかし万能ではなくて、「ない」という可能性がきわめて強い場合には、「ないかどうか」が使われるのが一般的です。

「みなさんも、放送前に自分の原稿をもう一度よく読んで、ことばの間違いが[ないかどうか]、確認するようにしてください。」

これを、[あるかどうか]に置き換えて言われたら、あなたは気分を害するのではないでしょうか。

(メディア研究部・放送用語 塩田雄大)