最近気になる放送用語

おめでとうございました?

横綱昇進が決まった力士に「おめでとうございました」と過去形で話しかけるインタビューを見ました。これはややおかしいように思うのですが。

あけましておめでとうございました。
あれ? 何だか変ですね。
これに比べると、「(横綱昇進)おめでとうございました」はそれほど問題がないようにも感じます。結論から先に言うと、「おめでとうございました」という言い方そのものを「おかしい」とか「間違っている」などと決めてしまうことはできません。ただし、これをおかしいと感じるかどうかは人・場合によってかなり違いがあり、放送で使う場合にはそのことを意識しておく必要があるでしょう。「おめでとうございます」とは異なるニュアンス(たとえば横綱昇進が決まった直後の興奮・感激)をあえて伝えたい、という積極的な考えがあるのであれば、使ってもかまわないように思います。

解説

いま目の前にあるものについて「あ、ここにあった」と言ったり、「あした会議あった?」と未来のことについても使ったりするなど、日本語の「た」は単に「過去」だけを表すことばではありません。非常に基本的なことばではあるのですが、説明するのは実は簡単ではないのです。

「おめでとうございました」という言い方をおかしいと感じる人は、「あたかももう済んだことのように扱っており、もう今は『おめでたくない・喜ばしくない』のか」などといったことを理由として挙げるようです。このことを、頭の片隅に置いておく必要があるでしょう。

「おめでとうございました」については、文研でこれまで何度か調査・分析をしています。おかしいと感じる人は54%という結果が出ましたが(『放送研究と調査』97年4月号掲載)、これに付け加えて言うと、おかしいと感じるかどうかは地域によってもかなり異なる、ということがあります。東北地方では「おばんでした」(共通語に当てはめてみると「こんばんはでした」とでもなるでしょうか)というあいさつが使われていますが、この東北地方では、「おめでとうございました」をおかしいと感じる人も全国平均に比べると少ないのです。このほかに中国・四国地方ではおかしいと感じる人が少なく、逆に関東・甲信越地方では多い、という結果が出ています。

なお最初に挙げた「あけまして…」は、その人が「めでたい」と本心から思っているかどうかということとは関係なく使われる「定型のあいさつことば」なので、「ます」を「ました」に変更したりすることはできません。たとえば新年に職場・学校などで会ったのが元日からかなり日にちが過ぎたころだったとしても、「おめでとうございました」とは言わないのです。

(メディア研究部・放送用語 塩田雄大)