いたまる?
2002.11.01
「野菜がいたまったら火を止めてください」という言い方は、日本語として間違っているのでしょうか。
文法的には間違っていませんが、なじんだ表現ではありません。放送では、「(野菜を)いため終わったら」「(野菜に)火が通ったら」など、別の言い方を工夫する必要があるでしょう(『ことばのハンドブック』p.15)。
解説
文法のことばで、「他動詞・自動詞」というものがあります。これをきちんと定義するのは本当は難しいのですが、ここでは、目的語として「~を」が使われるものを「他動詞」、そうでないものを「自動詞」としておきます。例えば「(火を)消す」が他動詞、「(火が)消える」が自動詞です。
日本語の動詞には、他動詞と自動詞の両方が「ペア」で備わっているものと、そうでないものとがあります。料理に関係する動詞を例にしてみると、
(ペアのもの)
- 揚げる~揚がる
- 沸かす~沸く
- 炊く~炊ける
- 焼く~焼ける…
(他動詞のみ)
- あぶる
- ゆがく
- 煎じる
- 炒る
- 焙じる…
などがあります。ペアのものを見てみると「(天ぷらを)揚げた結果、揚がった」「(お湯を)沸かした結果、沸いた」という関係になっています。ここでは、他動詞(揚げる・沸かす)は「行為」、自動詞(揚がる・沸く)は「行為の結果」を表しています。
他動詞しかないものについても、「行為(あぶる・ゆがく…)」だけでなく「行為の結果(きちんとあぶられた状態・きちんとゆがかれた状態…)」というものも「考える」ことはできますが、それを表す自動詞は日本語には備わっていません。
「いたまる」に話を戻すと、文法のことばかりで恐縮ですが、他動詞「いためる」から自動詞「いたまる」を作り出すことは、日本語文法の枠内では実は可能なことなのです。その点では「いためる~いたまる」という「ペア」がある、と考えることもできるかもしれません。しかし実態として、「いたまる」は料理に通じている人が主に使う言い方で、一般にはなじんでいません。文研で実施した世論調査では、「おかしい」と答えた人が59%いました(『放送研究と調査』 1998.7)。
一般にはあまり使われていない自動詞の表現として、このほかに「(電波が)受かる」「(解答が)求まる」といったものがあります。これも、部内用語・専門家の用語としては問題ないのですが、一般にはなじんでいないので、放送では別の言い方を工夫するようおすすめします。